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場づくり・コミュニティ

世界の辺境と芸の舞台裏で「教える」を見つめる映画2本

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目次

教える時間が育むこと。

日本では、義務教育の就学率はほぼ100パーセントだが、世界には学ぶことのできない子どもたちが1億2100万人いるという。また、15歳以上の人口の7人に1人、約7億7300万人は非識字者というデータもある。
エミリー・テロン監督の『世界のはしっこ、ちいさな教室』は、こうした教育事情に目を向けたドキュメンタリーだ。教育を巡る事情や課題は異なるものの、監督はアフリカ、シベリア、南アジアの各地で奮闘する先生と子どもたちの姿を追いかけている。

首都から600キロ離れた、ブルキナファソのティオガガラ村。携帯電話が通じにくく、水は川に汲みに行かねばならず、藁葺き屋根と土壁でできた半屋外の教室にいる子どもたちの母語は5つに及び、授業で使うフランス語はほぼ通じない……。新任教師のサンドリーヌは赴任して初めて、ティオガガラ村のこうした事情を知る。

遊牧民のエヴェンキ族が暮らす、シベリア極東地。キャンプ地に到着したスヴェトラーナは、まずテントを張って教室の準備をする。自身もエヴェンキ族の彼女は、遊牧民の子どもたちに文化をどう継承し、勉強にどう関心を持たせるかを常に考えている。

年に半年間は、土地が水没してしまうバングラデシュ北東部のスナムガンジ。子どもたちを迎えにゆく船を教室にしたボートスクールで教えるタスリマの年齢は、彼らとそう変わらない。だが、彼女は自身の経験から「女の子は勉強などしなくてよい、早く嫁に行けばいい」と、娘に結婚を強いる母親に、教育の意義を真摯に訴える。

乾燥して赤茶けたアフリカの大地から、トナカイのソリが白銀の世界を駆けぬけるシベリアへ、そして緑がかった水面の色が湿気を帯びた空気感を伝える南アジアへ。場所が移るたびに、色と気配が一転する。地球上にはさまざまな環境があること。気候風土と文化・風習は、分かち難く結びついていることを伝える各地の風景も、この作品の魅力になっている。

「はしっこ=辺境の地」は、足りないものだらけかもしれない。けれど、その逆境が育む人間力もあるだろうと、映画はそんなことを思わせてくれる。

『世界のはしっこ、小さな教室』

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7月21日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて、全国順次公開。
©Winds – France 2 Cinéma – Daisy G. Nichols Productions LLC – Chapka – Vendôme Production
芸事の世界の師匠と弟子の間には、単に「教える・学ぶ」ということばではくくり難い、強い結びつきがある。

川上アチカ監督の『絶唱浪曲ストーリー』は、芸豪と呼ばれた浪曲師・港家小柳に惚れ込み、弟子入りした港家小そめが名披露目興行の日を迎えるまでを描いた作品。師弟の関係を伝える親密で誠実な映像は、浪曲への関心の有無に拘わらず、観る者を引き込む。

小柳師匠の東京での滞在先、曲師・玉川祐子師匠の自宅で行われる稽古の様子。師弟のざっくばらんな日常のやりとり。淡々と準備が進められてゆく常打ち小屋『木馬亭』の楽屋裏。聞いていて息を呑むほど、熱のこもった舞台の上での師匠の姿。

酸いも甘いも嚙み分けた、清濁併せ呑む人間の懐の深さは、浪曲の世界とそのまま重なる。教科書では学べない、マニュアル化できないものを伝える、そんな貴重な記録でもある。

『絶唱浪曲ストーリー』

 (197871)

 (197872)

ユーロスペースにてロードショー、全国順次公開。
©Passo Passo + Atiqa Kawakami
text by Kyoko Tsukada
記事は雑誌ソトコト2023年8月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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