2011年3月11日に東日本大震災があった東北の“いま”を伝えるコーナーです。東北で生まれているソーシャルグッドなプロジェクトや地域で活動する人々を紹介します。TOP写真は、仮設住宅の部材を再利用した滞在体験棟(左手前)やオフィス棟(右手前)。
岩手県南東部に位置する、山々に囲まれた自然豊かな住田町。東日本大震災では近隣の大船渡市、陸前高田市に甚大な被害があったため、本来は県が建物を提供する仮設住宅を、町の判断で早急に建設して被災者を受け入れたことで知られる。町産の木材を使用した一戸建ての仮設住宅は、「プライバシーが守られ、落ち着いて生活できる」「木のぬくもりが感じられる」と好評だった。
2020年、住田町の仮設住宅は終了。木造仮設住宅の部材は再活用することができるので、役目を終えた仮設住宅やその跡地の活用法について検討が始まった。住田町では人口流出が問題となっていたため、移住者・定住者や関係人口を増やすために、コロナ禍で広がった“多様な働き方”の拠点を整備することに。2023年5月、仕事と学びに活用できる複合施設『イコウェルすみた』がオープンした。「憩える場所」であり「よりよい場所」になってほしいという願いを込めて、「憩い」と、「よい」を意味する英語「well」を組み合わせて名付けられた。
『イコウェルすみた』には、仕事や勉強のスペースとして使うことができる共用棟、サテライトオフィスとしても利用可能なオフィス棟、長期滞在者向けの滞在体験棟、震災の記録を伝える展示棟がある。共用棟の利用は無料で、仕事や勉強のほか、セミナーやオンライン講座などが開催されるなど、いろんな用途で使われている。
2023年12月から2024年2月には、さまざまな働き方についての情報を提供する、中学生・高校生・大学生向けの「キャリアトーク」イベントが行われた。住田町の地域プロジェクトマネージャーとして『イコウェルすみた』の運営に携わる関博充さんは、「首都圏だけでなく、住田町および近隣地域での仕事についても紹介し、地域内の若い人たちにいろいろな選択肢を示していきたい。多様な働き方に触れることで、ゆくゆくは、この町に住み続けて、リモートワークを含めて町で仕事をしてもらえるようにしたいと思っています」と話す。
『イコウェルすみた』には、オープンから9か月でのべ1900人が来場。リモートワーカーのリピーターが出てきたり、利用者が起業の準備をしたりといった動きが見られる。「当初の想定よりも利用者が多く、1900人というのは人口4800人の町では大きなインパクトです」と関さん。中学・高校生の自習の場としても認知されてきており、町内の子どもたちが仕事をする大人と出会う場所になっているという。
「最終的な目的は町への定住率を上げることですが、まずは『住田町っておもしろい!』と思ってもらえるような企画を実施し、情報発信にも力を入れていきます。町内で活動する各団体とも連携しながら、さまざまな人との出会いやつながりをつくっていきたいと思っています」と、関さんは抱負を語った。
text by Makiko Kojima photographs by ICOWELL SUMITA
記事は雑誌ソトコト2024年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。