東日本大震災後、防災に対する斬新な視点やアプローチで社会にインパクトを与えてきた『防災ガール』は、来年3月11日をもって解散します。その真相や今の思いとは?代表理事の田中美咲さん、事務局長の中西須瑞化さんに伺いました。
防災の未来を思い、〟有機的解散〝を選んだ。
『防災ガール』は来年3月に解散されるとのことですが、その経緯や理由を教えてください。
田中美咲(以下、田中) 2年ほど前から「このままだとダメだよね」と口に出していて、私たちらしい終わり方をメンバーの合宿で話してきました。
中西須瑞化(以下、中西) 防災グッズにデザインの要素や女性向けの視点が取り入れられたりして防災業界は変化しつつあります。とはいえ、『防災ガール』のライバルというか、ビジネスとして防災に取り組む企業や団体が現れない状況は、業界として不健全ではないか。そう思うようになったんです。
田中 国の機関から仕事の依頼を受けるまでになってうれしかった半面、『防災ガール』に集中しすぎて。私たちだけでは当然、すべては受け切れないのでお断りすることもありました。その後にそういった案件の行き先が見えないのも不安でしたね。
中西 美咲さんが「これで社会が変わるのかな」「これって本質的なことなのかな」とメンバーに定期的に問いかけて、事業内容を見直したり、新プロジェクトに取り組んだりしたけれど、対症療法に過ぎず……。だから、本質的に防災業界の構造を変えたい思いが強まりましたね。
田中 解散の選択をする前に、私たちらしい終わり方を考えもしたんです。非営利団体を企業に買収してもらうのはどうかと話を進めましたが、結局のところ買収後も私たちがやり続ける必要があり、それは違うと判断。代表を別のメンバーに託す構想もあったのですが、方向性の違いで引き継ぎを断念しました。そこで、一人の人や組織にリソースを引き継ぐのではなく、複数の組織に引き継ぐという方法を見出しました。
日本の防災業界を本質的に変えたい。その思いが強くなり、『防災ガール』は解散の道を選びました。
2013年の設立から6年。全力で駆け抜けてきた『防災ガール』から、日本の防災はどのように見えていますか?
田中 日本の防災は追い風なんです。日本のような先進国で防災によって人が亡くなる信じがたい現実に海外からも注目が集まるほどなのに、実際には防災業界にはプレーヤーが少ないんです。私たちメンバーには専門家がいないからこそ、素人目線に立って今まで見過ごされてきた問題を表面化させて解決していったり、専門用語が飛び交っていたのを聞き手が理解しやすい、自分ごとになる言葉に翻訳してきました。でも、日本の防災を考えるとこのレベルでいいのかと不安がありました。
中西 社会は確かに変わりつつはあります。防災の基礎知識を持っている証拠となる防災士という資格があったり、大学で防災について学べる学科が増えてきたり。また、『防災ガール』のメンバーに高校生が応募するようになって、そんな思いのある子に羽ばたいてほしいと思うけれど、社会で生かせる場所がなくて。専門機関や研究者、企業の防災担当者、起業など、道が少ないんです。でも、こういったプレーヤーはいる、種はあるので、防災に関するビジネスを生み出す„教育“ができたら、業界を加速させる可能性があるかもしれない。そう思い、最後の1年は教育に注力することにしました。
最後のプロジェクトと決めた「次世代の防災プレーヤー」を育てるための教育プログラムで、伝えていきたいことは?
田中 『防災ガール』として活動する中、チームビルディングに関してはかなり苦労をしたし、勉強になりました。仕事の場合は、お金、契約などで交渉の余地はありますが、私たちのような非営利組織の場合は、コアメンバーの数人に給与が発生して、あとはボランティア。つまり、モチベーションや意義などでつなぎ留めている人たちです。活動の際、業界の将来を見通して効率的にここで攻めましょうと提案しても、メンバーとしてはそういうことがやりたいわけではないと、ズレが生じることがありました。特に、被災された方や自分以外に守るべき対象があるお母さんたちは防災に対して敏感なところがあるので、ビジョンに重きを置いた活動をめぐって„大戦争“になることもありました。
中西 具体的には、世の中を変えるためにいろいろな団体・企業と連携したいと、任意団体から法人化を検討するタイミングで揉めたことが。Facebookのコミュニティページで、こんなに頑張っているのに勝手だと反対の声が上がったのをきっかけに、普段の不満が噴出しました。必要な提案をしても、活字の場合はそれぞれのテンションによって受け止め方が異なるので、「まあ落ち着きましょう」と言ってその場を収めました。その後は、代表からのメッセージは動画で表情も含めて伝えることにし、それでも賛同できないとなったら組織として別れるしかないというスタンスでしたね。
田中 同時にコミュニケーションをとっていたメンバーはいつも50人ぐらい。チームビルディングは大変だけれど、仲間は絶対に必要です。活動をするうえで一人ではできないことがあるし、いろいろなタイプがいることで物事がまわっていきます。それぞれが適材適所で、人の強みを生かし、弱みを補填して生きることは、人間の本質的な在り方だと感じます。資本主義でなく、民主的ともちょっと違う、新しい価値基準で進める経験ができたのは、私自身が『防災ガール』で学んだことでした。
プレイヤーを増やす活動を継続することも考えましたが、『防災ガール』が居続けては甘えが出るからダメなんです!
この教育プログラムを継続しようとは思わなかったのでしょうか。そして、今後は?
中西 そうなると私たちが防災に関することの窓口になってしまうから、『防災ガール』を続けるのと結局一緒ではないかと。ここに居続けると周囲にも甘えが出てしまうので、いっそのこと窓口をなくすほうがいい。
田中 2020年3月11日で『防災ガール』は解散します。ウェブサイトにある情報を残すかどうかも、これから考えますね。私も須瑞化ちゃんも、防災とは関係のない、それぞれ興味があることをやるつもりです。
次世代育成のための最終プログラムとは?
プレーヤーが羽ばたくよう、全力でサポート。
来年3月の解散を前に『防災ガール』が全力を注ぐ「次世代の防災プレーヤー」を育てるための教育プログラムが、今年6月から12月まで全10回開催される。書類選考、オンラインでの面談を経て選ばれた6組のチームが参加中だ。キック・オフで固定観念を壊す体験をし、第2回では弁護士を招いて法律や行政の仕組みに基づく事業設計、資金調達の方法についての講義が行われた。
「『防災ガール』の6年間の活動の中で業界のノウハウを知らず、教えてくれる先輩もいなかった。稼げないと言われていたけれど、私たちはたくさん失敗をしながらそうではないと行動で示してきました。戦略、強み、思いがあればやっていける。事業を起こすにあたって、知っておくべきことを伝えたいです」と田中美咲さん。ここでは地震についての学びではなく、マインドの持ち方、チームづくりの課題、事業のスタートに必要なノウハウやスキルなどに特化してプログラムが構成されているという。
取材に訪れた7月2日は、プログラムの第3回。プレスリリースのプラットフォームを運営する『PRTIMES』にて、PRディレクターの千田英史さんが、唯一無二のブランディング・PRに重要なことや手法を説明。その後、各チームが直接千田さんに悩みや課題について相談できる、メンタリングの時間が設けられた。単なる学びの場にせず、能動的にプログラムに参加する体制が整えられていた。
今後も事業に必要な知識を得る座学や、2016年に起きた熊本地震の被災地での合宿を経て、今年12月には各チームの事業計画を発表して修了する。ここではチームビルディングや仲間づくりのほかにも大切にしていることがある。それは「問う」ことだ。「自分で問うことは、『防災ガール』の文化。活動を通じて、防災対策はあるようでない、ということに行き着きました。被災時の避難方法は状況により異なるので、結局は体力、時間、場所などいくつもの要素を踏まえて自分で決断、行動しなければいけません。つまり、防災には生きる力が根本的に必要で、それは自分と向き合うこと、徹底的に考えることで身に付けられます」と中西須瑞化さん。ここ1か月の間に、事業の根本に立ち返るチーム、メンバーのコミットが違うと感じるチームなど、それぞれの„成長痛“を感じながら取り組んでいるという。今年12月の修了時、それぞれのチームのプロジェクトがどう成長し、羽ばたいていくのか期待が高まる。
株式会社Tech Design
津田裕大さん/宇都宮正暉さん
防災に特化したWebメディア「SAIGAIJOURNAL」の立ち上げと、災害支援に関する管理システム「スマレプ」の構築。
株式会社IKUSA
中村淳司さん/赤坂大樹さん
アクティビティを通じて老若男女が一緒に体を動かしながら、防災知識や知恵、共助を学ぶことができる「防災運動会」を開発。
株式会社CINQ(さんく)
松下明弘さん
林業の職人と協力して現場の地質や詳細をデータ化し、行政が把握しきれていない土砂災害ハザードマップを作成。
√2×4×5(るーとによんご)
山中弓子さん/坂本洋展さん
災害時でも自分が生きやすくなる、よい人間関係を築くため、平常時からもコミュニケーション力を養う事業を予定。
株式会社ヒロモリ「Fun to BOSAI」プロジェクト
増田裕之さん/蓜島千恵子さん/大坪リキさん
防災を“やるべき”ではなく、“やりたい”と思えるような、いざという時に役立つ防災グッズや情報を提供する仕組みを開発。
チームKOKUA
泉勇作さん
緊急災害時の早期復旧のための情報収集、コミュニケーションを支援するクラウドサービスを介護事業者向けに提供。