日比保史さんが選ぶ、SDGsと地球環境に触れる本5冊
諸説あるようですが、『文明崩壊』の著者、ジャレド・ダイアモンドはこう記しています。イースター島は、もともと豊かな森に覆われた島だった。ただ、複数の部族が自分たちの権威を示すようになり、その象徴としてモアイをつくるようになった。モアイは1体が高さ数メートル、重さ数十トンにもなる巨大な像だから、何体もつくろうとすれば多くの人的資源が必要になる。多くの労働者を養うには農地も必要で、モアイを運ぶには木材も不可欠。人々は森を伐採し、農地や住む場所を広げていった結果、人口も急増。島の森はやがて切り尽くされ、農地開拓も限界に達した。森に大きな木がないため舟をつくることもできず、魚を獲ることもできなくなり、深刻な食料不足に陥った。その揚げ句に部族間の争いが激しくなり、ついには滅んでしまったと。つまり、森という自然を破壊したことでイースター島の文明は崩壊してしまったのです。
イースター島をはじめ、中米のマヤ文明やルワンダ大虐殺など、文明が滅んだり、激しい争いが起こるなど、数々の実例を環境の視点から検証し、解き明かしているのが『文明崩壊』です。自然環境に大きな影響を与えたために、築き上げた文明を維持できなくなり、滅んでしまう。私たち現代人の自然環境との向き合い方を考えさせられる一冊です。
もう一冊は、『シャーマンの弟子になった民族植物学者の話』。アマゾンの熱帯雨林は生物多様性の宝庫ですが、その現場で何が起こっているのか、さまざまなエピソードが書かれています。たとえば、先住民族が日々どんな生活を送り、病気や怪我はどんな薬草を使って治すのか、さらには文明人との滑稽なやり取り、次第に深まっていく絆など、著者のマーク・プロトキンは植物学者でありながら人類学的な考察も交えて描いていて、ヒューマンストーリー的な紀行文として楽しく読めます。
2冊とも、一見すると生物多様性や生態学とは距離がある本に思われますが、そうではありません。生物多様性や生態学は、生き物や自然だけを相手にするのではなく、実は人間を対象にした学問であるということ。特に、日本ではその視点が抜け落ちがちですが、とても重要なポイントであると教えてくれます。