井出留美さんが選ぶ、SDGsと地球環境に触れる本5冊
一つが、モンゴルでの羊の解体。モンゴルでは、「食べることは命をいただくこと」という考えに基づいて、羊をほとんど余すところなく食べ尽くします。もう一つが、ヨーロッパでのパンづくり修業。田村さんがウィーンで巡り合った店では、よい原材料にはこだわるものの、それ以外は、ある意味で“手抜き“。それでもパンのおいしさは段違いで、廃棄もなく、職人たちの労働時間も短いことに驚いたといいます。
その後、帰国してパン屋を再開した田村さんは、パンの種類を日持ちのする4種類に絞り、従業員の数も8人から夫婦二人だけに。それでも年商は以前と変わらず、しかも2015年秋からパンを1個も廃棄していないのです。コロナ禍を経た今は、通販と法人のお客様だけで成り立っています。
今、スーパー、コンビニ、百貨店等も含めた食品業界では、経済合理性を理由として、捨てることを前提としたビジネスが当たり前になっています。しかし、廃棄のコストは事業者だけでなく、私たち消費者の負担にもなっていますし、こうしたビジネスはSDGsの目標12の「つくる責任 つかう責任」等にも反します。
食品ロス削減は、働き方改革でもあり、生き方改革でもあるので、食品企業の多くが田村さんのような取り組みを推進すれば、日本が大きく変わってくると思います。
『世界の食料 ムダ捨て事情』の著者、トリストラム・スチュアートは、食品ロスに関わる人なら誰もが知るイギリスのジャーナリスト兼活動家です。私は、2017年に彼と会う機会があり、そのときに「日本では食品ロスに関して、市民からの突き上げが少ないのではないか」という指摘を受けました。イギリスでは、彼をはじめとした活動家たちが国内最大手のスーパーの食品廃棄問題を追及したことで、そのスーパーは廃棄に関する情報開示やまとめ売りの廃止、フードバンクへの寄付を促す「フードドライブ」の設置などの取り組みを積極的に行うようになり、食品ロス対策に関してはヨーロッパでも先陣を切る存在になっています。
彼は、実際に活動をしたうえで、情報を発信しています。私も彼を見習って、理想を語るだけではなく、自
分自身も実践しながら説得力、波及力を高めていけたらと思っています。