食品ロス問題ジャーナリスト/『office

食品ロス問題ジャーナリスト/『office 3.11』代表|井出留美さんが選ぶ、SDGsと地球環境に触れる本5冊

世界で13億トンの食品ロスの削減を目指す食品ロス問題の専門家で、「食品ロス削減推進法」の成立にも協力した井出留美さん。食品ロスの実情や問題点を鋭く指摘する本や、国内外の取り組みを紹介する本を選んでくれました。

井出留美さんが選ぶ、SDGsと地球環境に触れる本5冊

(左上から時計回りに)1.『捨てないパン屋』/2.『世界の食料 ムダ捨て事情』/3.『バナナと日本人 ─フィリピン農園と食卓のあいだ』/4.『知られざる魯山人』/5.『食の社会学 ─パラドクスから考える』 

『捨てないパン屋』では、かつては毎日40種類以上のパンを焼き、営業が終わるとゴミ袋いっぱいのパンを捨てていた製パン店の3代目・田村陽至さんが、2つの経験を経ることで“捨てないパン屋“になった経緯を紹介しています。

 一つが、モンゴルでの羊の解体。モンゴルでは、「食べることは命をいただくこと」という考えに基づいて、羊をほとんど余すところなく食べ尽くします。もう一つが、ヨーロッパでのパンづくり修業。田村さんがウィーンで巡り合った店では、よい原材料にはこだわるものの、それ以外は、ある意味で“手抜き“。それでもパンのおいしさは段違いで、廃棄もなく、職人たちの労働時間も短いことに驚いたといいます。

 その後、帰国してパン屋を再開した田村さんは、パンの種類を日持ちのする4種類に絞り、従業員の数も8人から夫婦二人だけに。それでも年商は以前と変わらず、しかも2015年秋からパンを1個も廃棄していないのです。コロナ禍を経た今は、通販と法人のお客様だけで成り立っています。

 今、スーパー、コンビニ、百貨店等も含めた食品業界では、経済合理性を理由として、捨てることを前提としたビジネスが当たり前になっています。しかし、廃棄のコストは事業者だけでなく、私たち消費者の負担にもなっていますし、こうしたビジネスはSDGsの目標12の「つくる責任 つかう責任」等にも反します。

 食品ロス削減は、働き方改革でもあり、生き方改革でもあるので、食品企業の多くが田村さんのような取り組みを推進すれば、日本が大きく変わってくると思います。

 『世界の食料 ムダ捨て事情』の著者、トリストラム・スチュアートは、食品ロスに関わる人なら誰もが知るイギリスのジャーナリスト兼活動家です。私は、2017年に彼と会う機会があり、そのときに「日本では食品ロスに関して、市民からの突き上げが少ないのではないか」という指摘を受けました。イギリスでは、彼をはじめとした活動家たちが国内最大手のスーパーの食品廃棄問題を追及したことで、そのスーパーは廃棄に関する情報開示やまとめ売りの廃止、フードバンクへの寄付を促す「フードドライブ」の設置などの取り組みを積極的に行うようになり、食品ロス対策に関してはヨーロッパでも先陣を切る存在になっています。

 彼は、実際に活動をしたうえで、情報を発信しています。私も彼を見習って、理想を語るだけではなく、自
分自身も実践しながら説得力、波及力を高めていけたらと思っています。

井出留美(いで・るみ)●食品ロス問題ジャーナリスト。食品企業広報室長として東日本大震災の食料支援に関わった際に廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した『office 3.11』を設立。著書に『食料危機 パンデミック、バッタ、食品ロス』(PHP新書)など。

photographs by Yuichi Maruya text by Pijio Kobayashi

記事は雑誌ソトコト2021年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。