温泉ビューティ®研究家・旅行作家として全国を旅する石井宏子さんがセレクトした本は、ちょっとマニアックだったり、未来への可能性を示すものだったりとテーマの幅が広い。温泉や道の駅の新たな楽しみ方を教えてくれる、石井さんならではの5冊を紹介。
石井宏子さんが選ぶ、道の駅をつくる本5冊

私の活動の中心は、日本各地にある温泉を旅して記事を書き、情報を発信することです。専門分野である温泉ビューティツーリズムとは、その地域の温泉に入り、地のものを食べて、自然環境のなかで過ごす旅のこと。その土地をまるごと楽しむ旅には、美と健康のもととなるものがすべてあると思っています。こうした旅のなかで道の駅に行くことはよくあります。そこに温泉があるときは、「ここはどんな感じかな?」と、地元名物のソフトクリームを食べるような感覚で立ち寄り湯を楽しむことも多いです。
道の駅がその土地の直産品を販売する場所なら、温泉も同じように捉えることができるのではないかと思っています。そこで選んだ一冊が、『日本の温泉─170温泉のサイエンス』です。温泉を日々研究している『日本温泉科学会』が監修してつくった本で、その温泉がどういう地質から出ていて、どういう化学組成をしていて、どういう成分を含んでいるのかということが書かれています。温泉を野菜だとすると、栽培方法や生産者がわかるようなイメージです。道の駅の温泉を見つけたときに、こうした情報もわかるとおもしろいかもしれません。また、温泉のある道の駅や、温泉地の近くの道の駅で働く人にとっても、環境情報としての温泉とは異なる情報をお客さんに提供できるのでおすすめです。
『農業大国アメリカで広がる「小さな農業」─進化する産直スタイル「CSA」』は、道の駅の新たな展開のヒントになる本として選んだ一冊です。CSAはアメリカでもともと始まった考え方で、農家が作物をつくる前にコミュニティの住民が種や重機など農作業にかかる費用を事前に出資し、出資者はその額に応じて収穫期にできた作物を受け取ることができるというものです。農家は天候や疫病などさまざまなリスクを抱えていますが、原資を得られるため安心して農業に専念できるのです。このコミュニティサポートの形は、道の駅や温泉地といった場にも使えるのではないかと期待しています。お気に入りの道の駅や温泉地に先払いをしておき、あとからサービスを受けることができるようにする。そんなふうに都会や遠隔地にいる消費者も地域の活性化に直接関わっていけるのではないかと考えています。
道の駅と温泉を掛け合わせてできることは、まだまだたくさんあると感じています。私が道の駅で温泉をつくるなら、やっぱりその地域の特色を生かしたものにしたいですね。

photographs by Yuichi Maruya text by Ikumi Tsubone
記事は雑誌ソトコト2021年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。