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サスティナビリティ

連載 | やってこ!実践人口論

道東のテトリス野郎に学ぶ

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「実践人口」を増やすための合言葉が「やってこ!」である。「やってこ!」が世代を超えたつながりを生み、ローカルをおもしろくする。SNS全盛期だからこそ直接会う価値で!

目次

「身体の移動力」

北海道の右半分。網走、十勝、釧路、根室エリアの総称を「道東」と呼ぶ。4年ほど前に初めてこの土地に降り立ち、11月の某日、4泊5日のアポなし取材ツアーを敢行した。過酷な取材ツアーではあったが最大の収穫は、後に“道東の実践主義者”へと成長する北見の若者・中西拓郎くんとの出会いだ。彼は当時28歳。カメラマン、デザイナー、編集など職能は幅広く、ローカル特有のクリエイティブ全般を請け負うフリーランスだ。たまたま共通の知り合い経由で飲むことになったのだが、別れ際に「再び会おう」と固い約束を交わし、2年後にその思いは結実する。クラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」で立ち上げたプロジェクト「道東誘致大作戦」が、彼の人生を実践者へと導く大きなきっかけとなったのだ。

概要は簡単。先輩の実践者6人を道東に誘致し、2泊3日のガイドツアーをやる。真冬の3月に道東を盛り上げるためのPR大作戦ともいえる。最終日には感想戦ともいえるトークイベントが開かれ、道東各地のプレイヤーたちが集結した。先輩たちは遠慮なくダメ出しを拓郎くんに浴びせ、道東の今後について意見を言い合った。ただ、深夜まで激しく飲み続けるのはいいとして、拓郎くんの愉快な仲間たちの必死さやさが先輩実践者たちのメンタルを削る。「自由がまったくない」「移動中も質問攻めなのがツラい」「予定詰め込みすぎ」。真冬の寒さが身体を蝕み、ハードな行程が平常心を失わせる。なんなんだよ、もう。結果、東京に戻った先輩実践者6人のうち2人がウンコを漏らしてしまった。「道東誘致大作戦」のダメージはあまりにも大きかったのだ。

2020年2月に函館で再会した中西拓郎くん(左)。
2020年2月に函館で再会した中西拓郎くん(左)。

身体を移動させ続ける効能。

イベントひとつで何かが変わるだけではない。拓郎くんが“道東の実践主義者”にまで成長したのは、「道東誘致大作戦」の出会いを継続したことと身体の移動力に尽きる。先輩実践者たちと個々で再会できるイベントを企画し、すべてのアテンドと仕切りを担う異常な行動力。手数の多さと質量は地方で発生しているおもしろい動きと比較できない。人気バンドの全国ツアーライブのようなスケジュール感で、本命イベントの前後の日程に予定をとにかく詰め込む。道東に誘致されたローカルの実践者でもある編集者・藤本智士さんは、拓郎くんの狂った動きと発想を直接浴びて「あいつは道東のテトリス野郎だ。あらゆる人間と予定をくっつけて処理しようとする」と褒め称えた。

それもそのはず。拓郎くんは、地元の北見以外で年間90泊以上外泊し、車の移動距離は年間約2万キロ以上走っている。とにかく身体を移動させ続けて直接会うリアルな価値観を積み重ねているのは、広大な道東の土地がそうさせているのかもしれない。とにかく仲間を作るためには会うのが一番早いのもデカい。だって、道東の各地には仲間を求めている若者たちがわんさかいるのだ。

1パーセントの実践主義者。

これは道東に限った話ではない。みんな悩んでいて現状打破をしたい気持ちは一緒のはずだけど、過去に全国の登壇イベントで具体的な企画や助言をしても、実行動に結びつけるのは1パーセントにも満たないのが正直な印象だ。会わない理由はいくらでもつくれるが、会う理由をつくるのはそれだけ覚悟がいるのだ。

片道10時間のデスロードであろうが、拓郎くんは元気よく「行きます!」と応えて身体を動かして届ける。SNSの普及で文字は届けやすくなったが、テレポーテーションでも実際に発明されない限り身体を届けることは難しい。お金も時間もかかるし、北海道の車移動はパソコン仕事が一切手をつけられない。その苦労は想像を絶するだろう。現在31歳の拓郎くんは若さと気合で乗り越えているが、鉄の塊である車は一度大破しているそうだ。

気合の入った実践主義者は強い。覚悟がガソリンとなって、身体を燃やし続ける。私はこんなにも泥臭く、旗を振り続ける人間を見たことがない。いい意味でどうかしてるよ。

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