2021年11月初旬、このとき日本ではコロナが収束しつつありました。一方、ヨーロッパでは再度の感染拡大が懸念されてもいますが、ワクチン接種証明の運用もあり、レストラン利用、EU内での移動も可能に。少しずつ動き出していた世界。「チームアムス」久しぶりのミーティングを行いました。
真理子さんは南仏へ!?
桑原果林(以下、果林) ええ、ぼちぼち(笑)。
桑原真理子(以下、真理子) どうもお久しぶりです! 今、道端に座ってます! ランチをどこにしようか迷ってて。餃子屋さん、おいしそうだったけど満席でした……。
乾 真理子さん、今どこに?
真理子 南仏、モンペリエ。フランス語の語学学校に。9月初めから来ていて、あと一か月くらい。ティーンネイジャーと一緒に毎日教室で勉強しています。
乾 そうなんですね! いいですね南仏。
真理子 あまり考え過ぎず直感的に選んだんですけどね。(苦笑)。パリより安くていいかなって。天気もいいし。スペインにも近いし。でもやっぱり小さい街なので、私には刺激が足りないです。(笑)
乾 アムステルダムの家は誰かに貸せました?
真理子 はい。バングラディッシュから来られた海外駐在の方に。でも色々な事情により3回も引っ越しするはめになり、結局モンペリエでの滞在コストが高くなってしまいました。これならパリに行けばよかったって思う気持ちをぐっと堪えてるところです。
乾 もう、ヨーロッパはいろいろ動けるんですね。マスクもしていない?
真理子 毎日してますよ。マスク着用に関しては、フランスはオランダより厳しいです。スーパーなど店内でマスクを着用するのは慣れましたが、語学学校では授業中3時間ずっとマスクを着用しなければならないので、煩わしさ感じています。先生の口の動きも見れないですしね。
ただ以前のようなコロナに対する恐怖心は薄れているので、休憩中はマスクなしでおしゃべりするし、若い子はドリンクもシェアしてるから、果たしてどこまでマスクの効果があるのかは疑問です。
果林 オランダはまたかなりのスピードで感染者が上がっていますね。また、政府のほうから発表があるみたい。日本は?
乾 2021年11月現在、日本は感染者激減です。その理由は、ワクチン接種とは言われていますけど、まだはっきりとは……。でも、かなり緩んでいますねー。でも、早く海外に行きたいなあ。やはり、違う国に行くと、たくさんの気づきがありますし! 真理子さんは、フランスでなにか気づいたことありますか?
真理子 自転車ですね。フランスはコロナで自転車人口が増え、自転車道も整備されつつあるようです。中古のオシャレな自転車屋さんなんかもあったり。
でも、はっきり言って、自転車道はオランダと比べたらまだまだで。ただ自転車マークが車道に記されているだけという印象を受けます(笑)。途中で切れちゃったり、歩行者道と一緒になっている箇所も多いですし。自転車用信号や、同時に複数の信号が青になるシステムはもちろんないですしね。あー、やっぱりオランダの自転車インフラは素晴らしいなあって思っています。
真理子 あとはやっぱり若い子たちは環境意識が高いなって。今、私、10代や20代の人たちと一緒に学校に通っているんです。フランス語の学校だから、通っているのはドイツ人やスイス人、オランダ人。ドイツ人の子は飛行機を使いたくないからフランスまで18時間かけて電車で来たって言っていました。ペットボトル買わないとかも普通でした……。
果林 私たちの世代は、まだ人それぞれだもんね。
真理子 もちろん10代でも気にしない子は気にしない。けど、電車よりも飛行機のほうが安いし、それなのに電車を選ぶのってすごいと思いました。
果林 でも、私も真理子のとこに電車で行きますよ。
乾 アムステルダムからどのくらいかかるんですか?
果林 トータルで8時間、しかもパリで一度乗り換え。地下鉄を使って。家族3人で600ユーロくらい。飛行機だったら1時間半〜2時間で400ユーロ。時間も、お金も、電車はデメリットしかないけど(苦笑)。
真理子 私は飛行機を使いました。先日オランダのラジオでジャーナリストが話していて、飛行機に乗れる人は世界人口の約10パーセントの限られた人々で、残りは飛行機が飛んでいるのを見ることしか出来ないと。私を含め先進諸国の限られた人がバンバン飛行機に乗りまくって、環境を汚しているという現状は以前から問題視されていましたが、コロナによってさらに注目されるようになったように思います。
果林 ヨーロッパでは「せめて欧州域内の移動は電車でしようよ」って動きはありますね。とくに若い世代はそう考えている人は多いと感じます。
日本の言葉がオランダの話題に。
乾 雑誌『ソトコト』はじめ、農家さんや漁師さんの取材が多いんですが……。その中で先日ある農家さんが話された言葉が心に残ってます。
「日本で市場に出回るレモンの大きさはほぼ規格が一緒。でも、レモンを普通に育てたら、結構でかくなったりするけど、日本では『この大きさ!』みたいなものがある。それも固定概念。これから、そういうのが突き崩されていったらいいですね」
日本は「これはこういうもの!」みたいなことが多いから、そこに対して一石を投じる、いい話だなあって。
真理子 いい喩えかた! 私は日本の教育のことを考えます。中身も、味も、ポテンシャルも全然違うのに、同じようにされているように思います!
乾 あとは、最近僕のまわりでは、サスティナブルのことって実はもともと日本の古い考え方としてあるよね、って、結構多くの人が言っていますね。僕のコミュニティにはそういう人が集まるからかもしれないけど(笑)。
果林 貧しかったら自動的にサスティナブルになるから、豊かでなかったころの日本はいいお手本だと思います。
乾 『2050年は江戸時代』って本があるんですけど、それおすすめです。日本でゼロ・ウエイストを推進する『ゼロ・ウェイスト・ジャパン』の坂野晶さんから教えてもらった本。僕も読みましたが、タイトルから想像するように、江戸時代にあったリサイクルやリユースの世界こそが、理想の姿なんじゃないかなって思わされました。https://sotokoto-online.jp/sustainability/10533
果林 高度成長期前の日本、食べ物の無駄も出さなかっただろうし、なにかにつけて節約し、モノを大事にしたんじゃないかなって思いますね。
乾 そうそう、先日京都府の北部、美山地区にある茅葺きの集落に行ってきたんですが、ここで茅葺きを研究している西山史一さんは、もともと宇宙建築などを勉強されてきた人で、ドイツにも留学していたのですが、『茅葺きこそ自分が探していた未来の建築、循環型な社会をつくるものなんじゃないか!』と気づき、今現地に移り住んでいます。
真理子 乾さん、『ダッチデザインウィーク』に来れたらよかったですね。今回、自然の素材からつくられた展示物がいっぱいあったみたい。カビや微生物を使った建築材なんかも。https://ddw.nl/
乾 来年こそは行きたいなあ。
真理子 そうそう、テレビで見たんですが、『ダッチデザインウィーク』に参加した一人のアーティストは日本の沖縄に行ってサスティナブルの本当の意味を理解できたって言っていました。出会った女性にご飯をいただく機会があり、その時にこの言葉を教えてもらったって。
乾 どんな言葉だろう?
真理子 「腹八分」だそうです。「そこにサスティナブルの答えがあった!」って彼はすごい熱く語っていて。「サスティナブルは8割でいいんだ、100パーセントを求めている今の社会がよくないんだ」って。ただ、私にはとてもおかしくって(笑)。
果林 オランダ人にとっては初めて聞く言葉だからファンシーなのかもね(笑)。
乾 いいこと言ってるんですけどね。でも、なんとなくその感覚わかります(笑)。
果林 ちなみに、その前にオランダの中で流行っていた日本の言葉の一つは「生き甲斐」。
乾 どういう意味の言葉として認識されていたんですか?
果林 マインドフルネス的な、意味合いでしょうか。でも、「日本ではこうなんだぜ!」って勝手に新しい概念をつくって発表している感じもします。
真理子 ちょっとどことなく微妙に変換されている感じはしますね。まあ、それが文化交流なんだけど、日本語で言ったらなんでもクールみたいなオランダの感覚に、私たちは戸惑うことがあります。(笑)でも「腹八分」をサスティナビリティーと結びつける感覚はあっぱれだと思います。私は「食べ過ぎんなよ!」っていう意味でしか捉えていなかったので。(笑)。
乾 先日、解剖学者の養老孟司さんをインタビューしたんですが、今の世界はやはり行き過ぎているという話になって。日本人はここで立ち止まるべきだ、というメッセージをいただきました。「足るを知る」。日本の古い言葉ですね。
真理子 どんな意味ですか?
乾 足りている、充足している。足りていることを知るっていう意味。「腹八分」だとちょっとおもしろい感じになってしまいますけど、「足るを知る」だと、日本人は「なるほど!」となるかも。言葉のチョイスって難しいですね。
ちなみに、フランスの著名画家である故バルティスさんの奥さま・節子さんは日本人で、数年前に取材したことあるんですけど、節子さんもインタビューで言っていました。「いい暮らしをみんなしたい。でも、いい暮らしの敵はなんだと思う? もっといい暮らしよ」。もっともっとと追及する姿勢が、いい暮らしをどんどん破壊していく。幸せのベースは、日本の質素な暮らしにあるのかなあって感じました。
果林 だから、質素を好むオランダ人は心が豊かなんですかねえ(笑)。
乾 ちょっと笑ってます?(笑) 含んだ意味があるような……。
真理子 アムステルダムだからなのかもしれませんが、今はあんまり質素さは感じません。外食もバンバンしますし……。私たちのおばあちゃんは、クッキーを箱や缶から一個取ったら蓋を閉めていました。孫やお客さんが遊びに来ても、一個だけ出して渡すんです。今は何個取ってもいいんじゃないかなあ。
乾 質素は、逆に工夫するし、心も豊かになるのかもしれませんね。そういうことが見直される時代になってきたのかもしれませんね。
桑原果林 くわはら・かりん
コーディネーター、翻訳者、通訳者。日本で日蘭バイリンガルとして育ち、2010年渡蘭。レインワードアカデミー美術大学文化遺産学科でミュゼオロジーを学び、在学中に姉・真理子と共に通訳・翻訳事務所So Communicationsをアムステルダムにて設立。メディア・教育・介護・農業・デザイン&アートなど多岐にわたる翻訳・通訳・コーディネート業務を行い、日本とオランダの交流のサポートにつとめる。
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桑原真理子 くわはら・まりこ
アーティスト。東京都生まれ。 父が日本人、母がオランダ人。19歳の時にオランダへ渡る。2011年、ヘリット・リートフェルト・アカデミー(アムステルダム)、グラフィックデザイン科卒業。過疎地域で出会った人々との対話を元に、ドキュメンタリー形式の出版物、映像作品を制作している。
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乾祐綺 いぬい・ゆき
編集者、フォトジャーナリスト。写真家でもあった祖父の影響から、幼少期より写真を始める。海、環境、暮らしなどを主なテーマに、日本各地はもちろん、海外への取材を続ける。未来をつくるSDGsマガジン『ソトコト』、ANA機内誌『翼の王国』誌上などで、写真と記事を掲載。日本と海外、それぞれのソーシャルグッドな文化や活動を双方向で伝えることをテーマに活動する株式会社ニッポン工房代表。