土木デザインの分野から、まちづくりの研究と実践を行う中井さんが考える理想の公園とは?そのヒントは、意外にも江戸時代の庶民の暮らしのなかにあるという。公園にまつわる、新たな気づきと知見を与える5冊を紹介しよう。
中井 祐さんが選ぶ、公園×ローカルデザインのアイデア本5冊
では、そもそも公園とは何なのか。それを考えるうえでお薦めしたいのが、小野亮平先生の『公園の誕生』です。実は、いまの僕らが思い浮かべる公園というものは、近代以降の制度として出来上がった空間です。市民革命以降のヨーロッパで生まれた、行政が市民に提供した市民社会のための公共空間がそのモデルです。この近代制度としての公園が日本にどのように輸入され、明治政府が定着させようとしたのか。この本ではこうした公園の歴史の一面を知ることができます。
近代前の日本は公園のような開かれた空間を持っていなかったのかといえば、あったのです。それを教えてくれるのが『江戸名所図会』です。身分制度があったにもかかわらず江戸時代の農民や町民といった庶民は、水辺や鎮守の森など身近な自然を憩いの場所として楽しんでいました。それが名所となり江戸の文化になったのです。これは、同じ身分社会でも近世のヨーロッパの都市には見られない特徴です。この名所がまとめられた「名所図会」は、江戸の観光ガイドブックのような役割も果たしていました。名所とは、庶民たちが自分たちのまちを自由に楽しんでいた証拠だといえるでしょう。
『江戸名所図会』と併せて読むと当時の庶民の日常の暮らしが、想像しやすくなる一冊が『逝きし世の面影』です。幕末から明治初期に日本にやってきた欧米の外国人が書いた日記の内容が紹介されています。彼らの多くは被支配階級の庶民がまちなかで楽しそうに笑い、いきいきとしていることに驚いていたようです。
私は江戸時代の人たちが分け隔てなく自由に楽しんでいた身近な自然やオープンスペースこそが、日本の公園の原形であると考えています。また、それは私がつくりたいまちなかの公園の形でもあるのです。