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特集 | 地域をつくるローカルデザイン集

中井 祐さんが選ぶ「公園×ローカルデザインのアイデア本5冊」

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土木デザインの分野から、まちづくりの研究と実践を行う中井さんが考える理想の公園とは?そのヒントは、意外にも江戸時代の庶民の暮らしのなかにあるという。公園にまつわる、新たな気づきと知見を与える5冊を紹介しよう。

目次

中井 祐さんが選ぶ、公園×ローカルデザインのアイデア本5冊

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(左から)1. 公園の誕生 / 2. 新版 江戸名所図会(上・中・下巻)
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(左から)3. 自然と人間の哲学 / 4. 湿地転生の記 ─風景学の挑戦 / 5. 逝きし世の面影
橋やダム、道など社会のインフラをつくる土木のなかでも、私は日常の風景をどのようにつくるのかという観点で学生たちと研究や勉強をしています。また、実際にデザインや設計に関わることもあります。今回のテーマである公園は本来、造園学やランドスケープを学んだ方が設計するのが一般的です。土木が専門の私が公園づくりに関わる場合は、公園法により決められた敷地の中のデザインを考えるというより、まちづくりとして「この公園がもっとこうなったら、まちがおもしろく豊かになるのではないかな」という観点で市民と議論を進め、デザインにコミットするような形になります。

では、そもそも公園とは何なのか。それを考えるうえでお薦めしたいのが、小野亮平先生の『公園の誕生』です。実は、いまの僕らが思い浮かべる公園というものは、近代以降の制度として出来上がった空間です。市民革命以降のヨーロッパで生まれた、行政が市民に提供した市民社会のための公共空間がそのモデルです。この近代制度としての公園が日本にどのように輸入され、明治政府が定着させようとしたのか。この本ではこうした公園の歴史の一面を知ることができます。

近代前の日本は公園のような開かれた空間を持っていなかったのかといえば、あったのです。それを教えてくれるのが『江戸名所図会』です。身分制度があったにもかかわらず江戸時代の農民や町民といった庶民は、水辺や鎮守の森など身近な自然を憩いの場所として楽しんでいました。それが名所となり江戸の文化になったのです。これは、同じ身分社会でも近世のヨーロッパの都市には見られない特徴です。この名所がまとめられた「名所図会」は、江戸の観光ガイドブックのような役割も果たしていました。名所とは、庶民たちが自分たちのまちを自由に楽しんでいた証拠だといえるでしょう。

『江戸名所図会』と併せて読むと当時の庶民の日常の暮らしが、想像しやすくなる一冊が『逝きし世の面影』です。幕末から明治初期に日本にやってきた欧米の外国人が書いた日記の内容が紹介されています。彼らの多くは被支配階級の庶民がまちなかで楽しそうに笑い、いきいきとしていることに驚いていたようです。

私は江戸時代の人たちが分け隔てなく自由に楽しんでいた身近な自然やオープンスペースこそが、日本の公園の原形であると考えています。また、それは私がつくりたいまちなかの公園の形でもあるのです。

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なかい・ゆう●1968年愛知県豊橋市生まれ。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了(土木工学専攻)。同大学社会基盤学科教授。専門は土木デザインとまちづくり、景観論。身近なインフラのデザインを通じて各地のまちづくりに実践的に関わる。
記事は雑誌ソトコト2022年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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