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サスティナビリティ

平飼いたまごを買ったことある?チキチータファームのトリと人に優しいたまごとは

斉藤恵美利

斉藤恵美利

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私たちにとって身近な食材であるたまご。最近はスーパーでも平飼いたまごが並んでいるが、実際に買ったことはあるだろうか。今回は“平飼いかつ放牧”のたまごを生産し、トリと人が幸せでいられる養鶏を目指す、チキチータファームの鈴木章子さんにお話を伺った。

目次

養鶏場「チキチータファーム」を営む鈴木章子さん

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鈴木章子さん。
神奈川県横須賀市にある養鶏場、「チキチータファーム」を営む鈴木章子さん。
鈴木さんは作業療法士養成校の教員だったが、環境問題に関心を抱いたことをきっかけに実家の養鶏場で働き始め、その後近くの土地で新しく「平飼いかつ放牧」でトリを飼育する養鶏場を始めた。
鈴木さん「最初は実家の養鶏場で平飼い部門を作れたら、と思っていましたが、今までのやり方を変えることは難しいと感じて。それで自分で平飼いをやろうと思いました」
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平飼い養鶏」とは、ケージがなく、トリが自由に運動できる飼育方法のこと。チキチータファームでは「平飼いかつ放牧」の飼育方法を採用している。
では、一般的な養鶏方法と比べて、どのような違いがあるのだろうか。また一般的なものより値段の高い平飼いや放牧のたまごを私たちが買う理由は何だろうか。
鈴木さんのお話は、たまごが作られるまでの過程を消費者側に改めて考えさせてくれるものだった。

日本では少ない「平飼いかつ放牧養鶏」。ケージ飼いとの違いは?

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チキチータファームがあるのは、見晴らしのいい丘の上。養鶏場に着くと、自由に動き回るトリたちが出迎えてくれた。
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一般的な養鶏場では平均7万4800羽(*1)のトリが飼育されているが、チキチータファームは160羽と小さな養鶏場だ。
「チキチータ」とは、スペイン語で「小さなかわいい女の子」という意味。チキチータファームは「トリヒトハッピー」をモットーに、トリも人も幸せになれるよう、なるべく自然な飼育方法でトリを育てている。
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チキチータファームにはトリのためのブランコもある。
チキチータファームのトリたちは、羽を広げたり、地面をつついたり、止まり木で休んだりしながら、思い思いの時間を過ごしていた。
しかし、日本の養鶏の93%(*2)は「ケージ飼い」で、針金でできたケージにトリを入れて飼育している。
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一般的な「ケージ飼い」の様子。トリ1羽当たりの面積はB5用紙一枚分ほどで、トリは生涯をその中で過ごす。
一方、全体の10%以下(*2)である「平飼い」は、ケージがなく自由に運動できる飼育方法。平飼いの中にはエイビアリー方式という、屋内で多段式の床を自由に動ける飼育方法を採用している養鶏場も多い。
チキチータファームは、土の上を自由に動き回れる“平飼いかつ放牧”の飼育方法。このような自然養鶏は、全体の2%にも満たない(*2)のだ。
*2 『採卵鶏の飼養実態アンケート調査報告書』(平成27年3月)公益社団法人 畜産技術協会より
アンケートは採卵養鶏農家724軒に実施し、回答率は55.0%であるため、比率はおおよその傾向です。
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チキチータファームでは目隠しされている産卵箱で、安心してたまごを産むことができる。
鈴木さん「ケージ飼いのトリは、自由に動くことはできません。たまごも本来は隠れて産みたい習性がありますが、ケージ飼いでは金網の上で産むしかない。たまごが転がるように傾斜のついた金網の上でずっと、踏ん張るしかないんです」
さらにケージ飼いは、そこで働く人間にとっても大変なものだと話す。
鈴木さん「体温の高いトリが密集することで、臭いやダニ、ホコリもすごい。そんな過酷な環境の中で、苦しむ生きものをずっと見続けなければならないので、飼育員の精神的負担も大きい。平飼いはトリのためでもあるけれど、人間のためでもあると思っています」

トリと人に優しい養鶏のために

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手作りの美しい「藁つとパッケージ」は予約にて購入できる。
トリと人に優しい養鶏のために、飼育方法の他に鈴木さんが取り組んでいることは大きく2つ。一つは地域のゴミを活用したエサ。もう一つはたまごの自給を広めることだ。

輸入に頼らない、地域の食品残渣を活かしたエサ

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エサは毎日鈴木さんが混ぜて作っている
チキチータファームのエサは、豆腐屋のおから、蕎麦屋の出汁ガラ、お米(弾き米)、牡蠣殻石灰など、地域でゴミとなってしまうものをエサに活用。地域のゴミの削減にも貢献している。
一方で、ほとんどの養鶏場はエサを輸入に頼っている現状だ。一般的なたまごは濃い黄色のイメージだが、それは輸入したトウモロコシを色出しのために使っているからである。チキチータファームでは、そのトウモロコシをお米で代用。
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エサを食べるトリたち。
鈴木さん「わざわざ海外から輸入しなくても、地域でゴミを減らしてそれを家畜のエサにできるんです。大規模な養鶏場では難しいことも、小規模だからこそ工夫できています」
トウモロコシが入っていないチキチータファームの卵の黄身は、鮮やかなレモンイエロー。臭みがなく新鮮なため、卵かけご飯や目玉焼きがおすすめの食べ方だという。
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レモンイエローの鮮やかな黄身。
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焼くことで白身はふっくらと盛り上がる。
時間やコストはかかるが、どこでどのように作られたかが分かるエサは、たまごを食べる人の安心にもつながっている。

たまごを自給する庭先養鶏のススメ

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昨年ヒヨコだったトリが産み始めた初卵(ういらん)。小ぶりだが黄身が丸く厚みがあるのが特徴。
そしてもう一つチキチータファームが取り組んでいるのが、家庭の庭でトリを飼い、たまごを自給することだ。昨年、一昨年と横須賀にある『SHO FARM』で始まった、トリの飼育をサポートする庭先自然養鶏勉強会を、今年からチキチータファームが開催する。
鈴木さん「トリが2〜3羽いれば家族分のたまごは調達できます。生ゴミはトリが食べて減らしてくれるし、たまごパックのゴミも出ないし、運搬コストもかからない。だから私は自給を応援して広めたいなと思っています」
実際に三浦半島では、庭先自然養鶏勉強会によって、トリを飼育する家庭が増えたのだそう。
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ふかふかの土の上でくつろぐトリ。
さらにたまごを自給することで、「動物たちのいのちと向き合うこともできるのではないか」と鈴木さんは話す。
鈴木さん「トリたちも家族の一員として大事にされたら幸せだろうし、たまごを産まなくなった時にどうするか考えることで、食に対する考え方も変わるかもしれないですよね」
トリの平均寿命は約10年だが、一般的な採卵鶏は1年〜1年半ほどたまごを産み続け、その後食肉用にされる
たまごを産まなくなった時にどうするのか。日本のどこかで起きていたことが、トリを飼うことで自分ごとになる。そうすることで、本当の意味でいのちと向き合うことができるのかもしれない。

1個100円のたまごは高いのか、安いのか

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トリの種類によって殻の色は異なり、カラフルなたまごが産まれる。
チキチータファームのたまごは1個100円。スーパーで売られている1個10~20円のたまごと比べたら、高いと感じるだろう。
しかし今までの常識を取っ払って考えた時、この値段は本当に高いのだろうか
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産まれたばかりのたまご。
取材中、産まれたばかりのたまごを触らせてもらうことができた。手のひらに乗せたたまごはまだ温かく、小さな重みを感じた。
普段スーパーに並んだ冷えたたまごしか触ってこなかったが、その温かいたまごは確かに「生きている」感じがした。トリは1個のたまごを産むために、30分〜1時間かけるという。
トリが時間をかけて産んだ、まだ生きているたまごをもらうということ。理解しているつもりだったが、今まで“食べもの”としてしか見れていなかったような気がする。
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エサをつまみ食いするトリ。
そしてのびのびとトリらしく生きるための環境を準備すること、エサや飼育方法を工夫することはコストがかかるため、値段が高くなることも、生産過程を知ることで納得ができる。
一般的なたまごがこれほど安価になったのは、需要が大きく、大量生産せざるを得なくなった結果なのだろう。
1個100円の理由を知ることで、「ただ高いから」と避けるのではなく、平飼いたまごが選択肢の一つになるのではないだろうか。
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鈴木さんの回りに集まるトリたち。
鈴木さんは、消費者側にもエシカルな(倫理的な)視点でものを選んでほしいと思う一方、難しい面もあると話す。
鈴木さん「どうやってその食べ物が生産されているのかまで意識を向けて、考えてほしいとは思いますが、エシカルなものはコストがかかってしまうんですよね。お金に余裕のある人しかできない現状はどうなんだろうって」
だからこそ鈴木さんはたまごの自給を勧めている。
鈴木さん「家で出た生ごみがエサになるので、トリが何を食べているか自分でわかりますよね。新鮮だし、安全。たまごが毎日手に入る、しかも安く。エシカルなのにお財布に優しいのは自給の魅力です」

トリも人もハッピーになれる養鶏を目指して

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トリと人がハッピーでいられることを目指す、チキチータファームの鈴木さん。ケージの中で苦しむトリやそこで働く人の大変さ、環境問題など、平飼いかつ放牧の養鶏場を営むことを通して、さまざまな問題と向き合っている。
そして私たち消費者にできることは、きっとそれぞれ違う。生産過程を調べること、平飼いや放牧のたまごを選ぶこと、トリを飼って自給すること。
どれが良い・悪いというわけではないが、たまごを産むトリやそのトリを飼育する人、環境のためにできることは、一人一人にきっとあるはずだ。
たまごは直売所以外に、横須賀や葉山、鎌倉の店舗でも販売中。日によって変わることもあるため、チキチータファームのInstagramをチェックするのがベスト。自由に駆け回るトリたちの顔を見に、養鶏場を訪れてみるのもおすすめだ。
▼チキチータファーム
住所:神奈川県横須賀市長坂4-20-1
Instagram@chiquititafarm
卵つとの予約:Face bookメッセンジャー、Instagramダイレクトメッセージ、または電話で可能
庭先自然養鶏勉強会:開催時期や詳細はInstagramで確認できる
取材・文・写真:さいとうえみり

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