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サスティナビリティ

[ソトコトSDGsアワード2021]ファッションに新たな選択肢を提案。 町工場×百貨店によるリサイクルデニム再生プロジェクトが動き出す。

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東京の下町の工場に運び込まれた大量の古着のデニム、そのすべてが「リーバイス®501®」。その量約20トン、股が破れたものや油汚れにまみれたデニムを、一つずつ丁寧に時間をかけて洗浄すると見違えるような風合いの生地が現れます。古着として引き取り手がなかったデニムの再利用を目指す小さな町工場と大手百貨店・三越伊勢丹が中心となり、小売各社やデザイナー・クリエイターをつなぐプロジェクト。他百貨店やデザイナーを巻き込んだ壮大な「デニム de ミライ~DENIM PROJECT~(以下、デニムプロジェクト)」が来春始動します。約50のブランドとクリエイター、学生らが賛同し、ファッション業界にサスティナブルな風を吹き込む三越伊勢丹の試みが「ソトコトSDGsアワード2021」に選ばれました。プロジェクトを手がける伊勢丹新宿店の婦人服自主編集売場リ・スタイル バイヤーの神谷将太氏と町工場ヤマサワプレス(足立区)代表取締役の山澤亮治氏に、試みの目的や意義、今後の展望などについてお聞きしました。

目次

“サスティナブル”なストーリーにフォーカス。活用の幅は無限大。

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左:株式会社三越伊勢丹 伊勢丹新宿店 リ・スタイル バイヤー 神谷将太氏
右:株式会社ヤマサワプレス 代表取締役 山澤 亮治氏

ソトコトNEWS 「デニムプロジェクト」の活動内容や目指すビジョンなどについて教えてください。

㈱三越伊勢丹 神谷将太(以下、神谷) 「デニムプロジェクト」では2022年3月に伊勢丹新宿店をはじめ、阪急など他百貨店やセレクトショップなどでデニムをアップサイクルした商品の販売を予定しています。現時点で50社ほどの参加が決まっていて、ほとんどのブランドの商品サンプルが出来上がってきております。

まだ販売はスタートしていない状態ですが、このように注目頂いていることはありがたいことですね。商品そのものというより、ストーリー性や取り組み全体に対して評価していただけたことが何よりも嬉しい。ヤマサワプレスさんも含め、関わる多くの方とともに、この受賞を喜びたいです。まだまだプロジェクトは道半ばですが、すべての商品が完成され、店頭に並ぶときを想像すると期待でワクワクしています。再利用されるデニム生地は、洋服にこだわらず家具やアートなど幅広い分野に取り入れております。

そしてこのプロジェクトでは環境面だけではなく、ファッション文化の持続可能性などにも貢献したいと考えています。
「環境に良いから着る」というよりは、「長い時間をかけてファッションと付き合いながら、広い視点での繫がりを楽しみませんか?」というコミュニケーションを山澤社長やデザイナー、そしてお客さまと一緒になって創っていきたいですね。

確かな技術と熱い想いでよみがえったデニム生地。 バイヤーとしての直感が反応した

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コンテナーで送られてきた大量のユーズドストックのリーバイス®501®をひとつひとつ確認しながらA~C 3段階の状態別に分けていきます。
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ソトコトNEWS プロジェクト始動のきっかけは何だったのでしょうか?

神谷 昨年の9月ごろ、知り合いのファッション関係の方から「竹ノ塚に面白いものがあるから、1回来てみない?」と誘われたのがきっかけですね。ふらっと立ち寄ってみたら、山積みになったデニムが。まず、その量に驚きました。そしていろいろなものが混じり合ったような古着独特の臭い。

正直、最初は汚れなどもあり、使い道が想像できなかったんです。内心、不安になりましたが、ヤマサワプレスさんの丁寧なクリーニングと補修によってよみがえった生地は全くの別物でした。美しい生地をひと目見て『素材として使える』と直感しました。

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㈱ヤマサワプレス 山澤亮治(以下、山澤) 私たちは、アパレル製品のアイロン仕上げや検品などを主に、下請け工場として26年携わってきました。その中で、「試着の段階で口紅が付いた」「試し履きで汚れた」などの些細な理由で商品が廃棄される光景を目のあたりにしてきました。この問題は、長年、アパレル産業の大きな課題だと感じていました。
だからこそ「僕らの技術できれいにして、もう一度お店に並べられないだろうか。」という思いで、古着の洗浄などの取り組みを続けてきました。

2019年ロサンゼルスへ旅行に行った際に、仕入れ業者から買い手がつかないユーズドストック(※)のリーバイス®501®の話を聞き、私自身がもともと古着好きということもあり、いてもたってもいられず日本に戻ってきてから購入を決めました。

まず、衝撃を受けたのは長年蓄積された強い臭い。そして、エンジンオイルやペンキなどの汚れ、太ももより下の部分しかない大量のパーツ生地…。どれもひどい状態でしたが「何とかしたい」という思いでした。気づけば後先考えず、どうやって持ち帰るかを古着業者と相談していました。手作業で1本1本、洗剤に付け置きしてからブラシで叩いて汚れを落とす。洗濯機にかけて落ちるような汚れじゃありません。本当に地道な作業です。洗い上がった生地を神谷さんが見に来てくれて「この生地を、生まれ変わらせることができます」と仰っていただき、本当に嬉しかった。一気に話が盛り上がりました。

神谷 ものを買うきっかけは可愛い、カッコいいなどの純粋な高揚感ですよね。バイヤーという仕事はものづくりを仕掛ける側ですから「サステナブルだから買ってください」ではなく、百貨店として純粋にファッションの楽しさをお客さまに伝えていきたいんです。よみがえったデニム生地と出会った時、純粋に素材としても、取り組みとしても素晴らしいと感じました。

山澤 1番嬉しい言葉ですよね。そう言ってもらえるようにずっと取り組んできましたから。

※ユーズドストック:着用されたデニムパンツ・デニム生地

業界全体で作る新たなファッションカルチャー。社会意識の変化も追い風に

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12月に開催されたプレス展示会の様子
ソトコトNEWS 他百貨店やセレクトショップも巻き込むデニムプロジェクト。社内では反対意見などはでなかったのでしょうか?

神谷 反対は無かったですね。初めこそ「競合他店を巻き込むのはどうなの?」と言われましたが、私の中では「自社だけではなく周りを巻き込みたい」と考えていました。コロナの影響もあり、百貨店業界はあまり良いニュースが聞かれません。三越伊勢丹単体でこのプロジェクトをやっても、一過性のニュースで終ってしまうでしょう。大きな課題だからこそ、自社だけではなく業界全体で受け止め、広げていくべきだと思いました。皆で課題を共有して、力を合わせて良くしていく意識の方が大事だと。「ブーム」ではなく「カルチャー」として今後も取り組んでいきたいですね。関西の阪急さんや福岡の岩田屋三越、セレクトショップそしてお客さまも含めて仲間を作り、育てていきたいんです。

ソトコトNEWS 新しいものを売る百貨店でリサイクル商品を並べることへの抵抗感などはありませんでしたか?

神谷 それは全くありませんでした。この素晴らしい素材を、お客さまが「欲しい」と思えるものへと、どのようにして生まれ変わらせるかを考えました。一流のクリエイターやデザイナーの力を活用すれば、きっと良いものができるだろうと。「古着だから良くない」とか、「新品だから良い」という既成概念が、社会的にも変わってきているのを感じています。

また、私が担当するリ・スタイルでは、元々、ヴィンテージのアパレルや、デッドストックとして眠っていた素材や商品を活用した取組や、アパレル製品を京都の黒染め技術を活用してアップサイクルさせる取組なども従来行っており、そこでのお客さまの反応からも、受け入れてもらえる感触は感じていました。お客さまから素材や製作背景などについて聞かれることも以前に比べて増えましたね。

山澤 僕らはものは作れません。神谷さんたちと出会い、ものづくりが始まっていく様子を見て、ようやく夢がかなう、そんな気持ちでいます。まだまだ汚れたままの生地がたくさんあります。工場のスタッフとともに今後も良い素材を提供していきたい。

「選ぶこと」は「未来とともに生きること」。当たり前のことこそがサステナビリティ

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ソトコトNEWS デニムプロジェクトの課題や今後の展望などがあれば教えてください。

神谷 課題は「一過性で終わらせないこと」ですね。今後もお客さまやデザイナーなど、多くの方々とコミュニケーションを続けていくことが大切です。そして、デザイナーたちが「自分のコレクションでこのデニムを使いたい」と感じてもらえたらプロジェクトは繋がり、広がっていくでしょう。

今回のようにプロモーションやイベントを通して発信をしなくても、このサスティナブルの考えが当たり前になる世の中を目指したいですね。三越伊勢丹では、今年の4月から、彩りある豊かな未来へ向けて「想像力を働かせ、真摯に考えることからスタートする」という想いを込めた「think good」という合言葉のもと、サスティナビリティ活動に企業としても力を入れて取組んでいます。本デニムプロジェクトもその一環となります。

選ぶこと、それは、未来とともに生きること。リサイクルやヴィンテージを選択するから「think good」であるとは思っていません。自分が着たいものや欲しいものを大事にしようよ、というシンプルな考え方です。大切なものってやっぱり愛着がわきますよね。

手に入れるのは、何の変哲もない一着のデニムかもしれない。でも、ひとりひとりが本当に大切にできるものを選べば、それは「一緒に未来を生きていく服」になります。そんな当たり前を生産者、消費者の皆さんと共に創っていきたいですね。

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デニムプロジェクトで生まれ変わる生地。2022年春から展開される商品サンプル

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