ホウ酸を使用した、建築物の木材保存処理を行なっている日本ボレイト・浅葉健介さんへのインタビュー第2回。今回は日本の住宅を取り巻く害虫の状況と、日本ボレイトが提供する木材高耐久化処理「ボロンdeガード」についてうかがいます。第1回の記事とあわせてぜひご覧ください。
日本の住宅を取り巻く害虫事情を訊く。従来の防腐防蟻処理が有効でない外来種の脅威
家も、人も、いつまでも健やかに。日本ボレイトの「ながいき住宅のレシピ」が叶えるSDGsな暮らしづくり
今回は、そのホウ酸を使った処理の有用性などについてうかがいたいと思います。
浅葉 まず最初に、なぜ木造住宅には防腐防蟻処理が必要なのかというお話をさせてください。日本の住宅は、世界先進国のそれと比べて建物の寿命がとても短いと言われています。ここでいう寿命とは、資産価値という点でもそうですし、そもそも物理的にその建物で生活できなくなってしまう状態を指します。国土交通省の資料によりますと、取り壊された住宅の平均寿命がイギリスでは約80年、日本は約30年と報告されています。
ソトコト 30年では、住宅ローンを払い終わったらもう……という感じですよね。
浅葉 そうなんです。しかし本来、日本の住宅は、厳しい建築基準法をクリアするために素晴らしい技術で作られています。また、木材は多くの生き物にとって栄養的価値がないので、そもそも長持ちする素材なんです。それにもかかわらず住宅が30年ほどしかもたない。さまざまな原因が考えられていますが、そのひとつが生物劣化。つまり、水に濡れることによる木材腐朽と、私達が気づかないうちに被害が進行してしまうシロアリによる食害です。住宅を長持ちさせるためには、腐朽を防ぐ「防腐」と、シロアリを防ぐ「防蟻」が必要で、建築基準法などの法律でも規定されています。
また、近年ではこれまでの日本のシロアリ対策が効かない、外来種のアメリカカンザイシロアリの被害エリアの拡大があります。
ソトコト シロアリの世界にも“外来種”という言葉があるのですね。アメリカカンザイシロアリとはどういったシロアリなのでしょうか。
浅葉 アメリカカンザイシロアリは輸入される家具や木材にくっついて日本に入ってきました。日本でシロアリというと、建物の下の方の湿った木材をボロボロにするイメージがあるかと思いますが、アメリカカンザイシロアリは乾燥した木材を好むので建物全体に被害を及ぼします。早期発見が難しく、駆除は困難を極めますので、近年、より脅威とされています。
ソトコト 住宅にとっての害虫は増えているわけですね。そのため、備えをしないと30年という短さでせっかく建てた住宅に住めなくなってしまうことがあると。
一度の処理で長期的に防腐防蟻効果が続く。SDGs時代のウェルビーイングな木材高耐久化処理、日本ボレイトの「ボロンdeガード」
浅葉 「ボロンdeガード」は、一言で表すと“人と環境に寄り添った防腐防蟻、木材高耐久化処理”です。住まい手さんに安全で、効果が持続する、まさにウェルビーイングを実現できる、SDGs時代の新しい防腐防蟻処理です。
自然素材のホウ酸を高濃度に調製し、適切に木材に処理を施します。処理した後は水分が蒸発し、ホウ酸が木材に残ります。ホウ酸は無色・無臭で、空気中に溶け出したり、分解することがありません。そのため過敏体質の方や妊娠中の方、赤ちゃん、ペットなどに健康被害を起こすことがありませんし、無くなることがないのでシロアリ被害や木材の腐朽などを防ぐ効果が持続するということでもあります。また、ホウ酸は目を洗えるほど人体には安全ですが、害虫が摂取すれば死を免れません。ゴキブリのホウ酸団子がいい例ですよね。しかも、耐性を持つことができない成分ですので、一度処理をしてしまえば再処理の必要がなく、維持コストも抑えることが可能です。
ソトコト 聞いていると、「ボロンdeガード」による処理はいいことづくめに思えますね。
浅葉 ホウ酸は水に溶けるという特徴があるので、雨に濡らさないようにしなければいけないのですが、その点は日本ボレイトの技術によってカバーしていますし、ホウ酸の残留をチェックできますので問題ありません。ただし前回の記事でも少し触れましたが、新築時のみのコストで言えばホウ酸による処理よりも合成殺虫剤による処理の方が安くあがることもあります。しかし、合成殺虫剤による処理は数年で効果が切れてしまいますので、その後何度も再処理をすることになります。しかも一度建ててしまった住宅では、合成殺虫剤を再処理できない箇所が出てきます。そのため、防腐防蟻効果がない部分が出てきてしまうため、処理をしているのに腐朽やシロアリの被害を受けてしまうことがあります。総じて、合成殺虫剤による処理では長く住み続けるほどコストがかかってしまい、また腐朽・シロアリのリスク、健康被害のリスクもたかまります。トータルで見るとやはりホウ酸による処理の方がコスト面、安全面でも優れていると思います。
ソトコト 一度処理をすれば長期間にわたって効果が続くということですが、新築時だけでなく、すでに家を建てて住んでいる場合にも有効なのでしょうか。
浅葉 はい、すでに居住中の場合のご相談も承っています。特に、居住中の床下を合成殺虫剤で処理されてしまうと、健康被害につながるリスクが高くなるので注意が必要です。「ボロンdeガード」であれば、ホウ酸が入ったシーリング材やパテを使ってシロアリの侵入経路を塞いだり、空気を汚さず効果が持続するホウ酸処理を施すことによって、住宅の耐久性を安全に高めることができます。ほかにも屋外用途として「ボレイトスティック」というものがあるのですが、これはホウ酸が水に溶けるという性質を逆に利用したもので、ホウ酸を特殊な技術でチョーク状に固めた木材保存剤です。木材に穴をあけて内部に入れておくと、木材が濡れることによってホウ酸がゆっくり溶けながら内部で広がっていきます。そうして拡散したホウ酸が、腐朽やシロアリの被害から守ってくれます。こちらは住宅だけでなく屋外の木橋や公園などでも使用実績があります。
ソトコト 新築時以外でも、既存の建物などにも対応できるわけですね。
浅葉 「ボロンdeガード」は“人と住まいのいのちを「やさしく・つよく・いつまでも」守る”がコンセプトです。2018年には防腐防蟻処理では初となるグッドデザイン賞も受賞しています。その際も「気密性の高い高断熱住宅においても、防腐防蟻に有効なホウ酸を高濃度に処理することが出来る。その効果や安全性を担保するため、同社責任施工で保証期間も長く、近年増えつつある蟻の外来種への対策としても建物全棟へ容易で安価に施工出来る点が優れている」という評価をいただけました。そのほかにも、ウッドデザイン賞、キッズデザイン賞、エコプロアワード奨励賞を受賞するなど、業界の外から光をあてていただいています。
ホウ酸による防腐防蟻処理を常識に。啓蒙活動を続け、日本ボレイトが業界の内外から変えていく
浅葉 住宅建築業界の古い慣習のようなもので、日本ではいまだに合成殺虫剤による処理が一般的です。しかし、これまでお話ししてきたように、合成殺虫剤では効果が長続きせず、また仮に再処理をしたとしても、すでに断熱材などで囲まれている箇所には合成殺虫剤を処理することができません。結果、防腐防蟻効果を持続させるために、健康被害の恐れのある薬剤を、床下だけに、コストをかけて撒きつづけるというまったく安心・安全でない状況に陥ってしまいます。私は、これを“再処理地獄”と呼んでいます。
日本ボレイトでは、住まい手さんがこの再処理地獄に陥ることのないよう、今後もホウ酸による防腐防蟻処理への啓蒙活動を続けていきたいと考えています。最近は、とてもうれしいことにSNS上で情報発信されることにより、「ホウ酸での処理がいいらしい」という認識が少しずつ広まってきていると感じます。
それでもまだホウ酸による処理の普及度は数パーセントといった段階です。もし、住まい手さんに直接、本日お話ししたような内容をお伝えして「合成殺虫剤とホウ酸、どちらがいいですか?」と聞ければ、ほとんどの方がホウ酸を選んでくださるだろうという自信はあります。しかし、新築時のコストのみを伝えて合成殺虫剤による処理を勧められることが多いため、ホウ酸処理のことが住まい手さんまで伝わっていない現状があります。ホウ酸処理について、住まい手さんへの発信だけでなく業界の内部からも変えていって、家も、人も、いつまでも健やかに保てるようにする。それが日本ボレイトの使命だと考えています。
ソトコト 本日は、ありがとうございました。
1971年東京生まれ。産能短期大学卒業。
営業会社、会計事務所、経営コンサルタント会社を経て、建材メーカーにて企画開発・営業・経理に携わる。
2005年10月、米国大使館「ホウ酸セミナー」で理学博士・荒川民雄と出逢い、弟子入り。2011年10月、荒川民雄を会長に迎え、日本ボレイト株式会社を東京・錦糸町でスタートする(現在の本社は東京・秋葉原)。
ホウ酸処理「ボロンdeガード®」を開発し、施工代理店を通じて全国に展開。防腐防蟻処理では初となるグッドデザイン賞、ウッドデザイン賞、キッズデザイン賞、エコプロアワード奨励賞を受賞。日本の木造住宅を、家族の健康とマイホームの健康が両立する「ながいき住宅®」とするべく、奔走している。
著書に「ながいき住宅のレシピ」(セルバ出版)がある。