2006年10月に大阪の万博記念公園からスタートし、その後、全国各地で開催されてきた「ロハスフェスタ」。「みんなの小さなエコを大きなコエに」をテーマに掲げて、来場する人はもちろん出展者や各協力企業、スタッフといった関わる人すべてがウェルビーイングになれるイベントです。毎回、多くの人が来場する大人気イベントはどうつくられ、どんな取り組みがされているのか。ロハスフェスタ実行委員長の池谷綱記さんにお話を伺いました。
これからは五感に訴えるリアルなイベントが求められる時代。
池谷綱記さん(以下、池谷) 「ロハスフェスタ」は、「身近なことから楽しみながら始められる、ロハスでエコな生活スタイル」を目指した環境啓発イベントです。2006年に大阪府吹田市にある「万博記念公園」で始めて以来、同会場でこれまでに37回、2010年からは東京都練馬区の「光が丘公園」や兵庫県淡路市、広島県広島市、福岡県福岡市などでも開催し、これまでに計61回開催、380万人以上の方々が「ロハスフェスタ」に来てくれました。
池谷 私は大阪で地域情報紙を37年前に創刊し、現在も『City Life』という紙媒体での情報発信を続けています。創刊時はリサイクル情報紙として個人間の売買を中心に、フリーマーケット情報なども掲載していました。若いころ、アメリカで暮らしていた当時、リサイクル情報を扱ったフリーペーパーを活用しており、日本でもあったら喜ばれると思い帰国後、リサイクル情報紙を立ち上げました。
日本での立ち上げ後、情報を発信するだけでなく、フリーマーケットなどのイベントも始めました。10年ほど続けましたが、インターネットの普及に伴って売り買いがネットで行われるようになり、リサイクルをテーマにしたイベントは役割を終え、その後は紙面を通じて地域の活性化や環境、健康をテーマにした情報を発信してきました。
池谷 アメリカで生まれたロハス(LOHAS, Lifestyles of Health and Sustainabilityの頭文字をとったもの、健康的で持続的な生活様式という意味)という考え方を知ったのは2002年、日経新聞に掲載された大和田順子さんの記事でした。この考え方は地域情報紙の読者にも必要とされているのではないかと感じ、その後『City Life』でロハス特集を組みました。そんな情報発信を継続する中で健康で環境に配慮した生活スタイルを求める人々が増えていることを実感し、さらに、実際に物を手で触れてみたり、作家と会話をしたり、風や匂いを感じながら自然の中で家族や友人と一緒に過ごす、そんな五感を刺激するリアルな場が求められていると感じ、環境と健康をテーマにした「ロハスフェスタ」を開催することにしました。
来場者が一緒に場をつくっていけるのも、大きな魅力。
池谷 最初は「イギリスのポートベロー・マーケット(骨董品や中古品の市)が万博公園に」という気軽な感じで、健康を意識したものや手づくり雑貨、オーガニック商品など約100ブースが出展する規模のイベントでしたが、この最初のイベントに2万人以上が来場し、多くの人に求められていると確信に変わりました。当時は大量生産、大量消費の時代から脱却し、ものを大切に長く使い、そのことが地球のためになっていて心地よいというロハスな意識を持つ人が増えてきており、手づくりのオリジナル作品が好まれるようになってきたと思います。
そして、2007年の3回目からイベント時に出るゴミの量を減らすために、飲食用のマイ食器やマイボトルを来場者に持参してもらったり(持参しなかった人にはオリジナルのリユース食器の貸し出しや販売)、回収した使用済の天ぷら油は会場内で使う発電機の燃料として活用したりしています。また、イベントスタッフが着用するTシャツは、企業のデッドストック品となっていた過去のイベントTシャツを集め、裏返した面に「ロハスフェスタ」のロゴを印刷してつくったもの。その後も来場者や出展者からの声を参考に、カーボンオフセット(温室効果ガスの排出量を、他の場所での温室効果ガス削減・吸収活動で埋め合わせること)につながるアクションを積極的に取り入れるようになりました。
池谷 そうですね。こだわりの手づくり作品や飲食ブースだけでなく、ワークショップなど参加型のブースも増えています。例えば、2019年からはイベントで使用してきたテント生地を使ったトートバッグづくりのワークショップを実施しており、大変人気です。これまでは産業廃棄物として捨てるしかなかったテント生地が新たにバッグとしてアップサイクルされ、フェスなどで使われたテント生地からつくるバッグにはどんな絵柄が出てくるのかワクワクしながら参加できるのも魅力となっているようです。
健康や環境に加えて、SDGsを意識した取り組みへ。
池谷 出展者はすべて、「ロハスフェスタ」独自の審査基準をクリアした方々です。アクセサリーや雑貨、オリジナルの服、体に優しい食品、家具やアンティークなど、ここでしか出合えないクオリティの高い作品が多いことが特長ですね。「『ロハスフェスタ』に出展するのが目標」と言ってくださる方もいるほど、出展者にとっても認知度や満足度の高いイベントになっています。普段はネットで作品を販売している作家さんたちにとってもリアルな出会いの機会は貴重で、来場者との会話や反応を通じて、より魅力的な作品づくりのヒントの場にもなっているようですね。
2010年からは環境団体を中心に、各災害支援団体や日本赤十字への寄付を始めました。現在は「誰一人取り残さない」という理念に沿って、SDGsの活動に関連するさまざまな団体に寄付を行っています。
「ロハスフェスタ」の出展者も、作品づくりにおいてSDGsに取り組んでいます。その思いを店頭に掲示することで、見た目では分からない、作品が持つもう一つの意味を来場者に共有してもらうようにしています。これも「ロハスフェスタ」にとって、とても大切な取り組みです。
池谷 「ロハスフェスタ」は3世代の家族が一日中楽しめるイベントで、テントを張ってお父さんはゆっくりとくつろぎ、子どもたちは緑の中で思う存分駆けまわり、お母さんは好みの作品を探したり、おじいちゃんやおばあちゃんもステージの音楽や孫との触れ合いを楽しんだりと、それぞれが自由に過ごしているシーンを多く見かけます。世代に関係なく家族みんなが一緒に楽しめるイベントは案外少なく、春と秋に開催される「ロハスフェスタ」は家族の定番イベントになっているようです。そんな皆さんの笑顔がこのイベントを続けるモチベーションにもなっています。
そしてこのイベントの一番の主役は子どもたち。会場に来てくれた子どもたちが楽しい思い出とともに大きくなってさらにその子ども、そのまた子どもがこの思いをつないでいってくれることがまさにウェルビーイングのバトンをつなぐことになるのではと考えています。
時代が求めているものをテーマに、地域で幸せが増えていくようなアクションを今後も起こしていきたいと思っています。ただし、時代が求めていると言ってもそれを難しく取り入れるのではなく、楽しく実践して気づいたらそれがエコやロハス、SDGs、そしてウェルビーイングにつながっていくというスタンスで続けていきたいですね。
ロハスフェスタ実行委員長/『シティライフNEW』代表取締役社長
1980年代、渡米の際に見たアメリカのリサイクル情報紙に触発され、1986年、大阪府茨木市にて地域情報紙『City Life』創刊。現在も北摂地域にて月刊発行。もう一つの事業の柱であるイベント事業では、環境啓発イベント「ロハスフェスタ」を全国展開。その他、行政の地域イベントやフードフェスなど地域活性化を促すイベントなども企画・運営・実施。人とモノ、人と地域、人と人をつなぐ「情報」と「場」、そしてそこから生まれる笑顔を大切に事業を展開中。