東京都・渋谷に本社を置く東急不動産株式会社。誰もが自分らしく輝ける未来をつくるため「ライフスタイル」、「街と暮らし」、「環境」、「デジタル」、「人財」、「ガバナンス」の6つのマテリアリティを定め、それをコーポレートカラーの緑に、多様性を示すグラデーションを合わせて「WE ARE GREEN」という取り組みを進めています。今回は、6つのマテリアリティのなかで私たちの暮らしと特に深く関わっている「ライフスタイル」、「街と暮らし」、そして「環境」という3つのテーマについて、東急不動産がどのような取り組みをしているのか、同社のサステナビリティ推進部、企画推進室室長の古賀喜郎さんにお話をうかがいました。
大規模宅地開発の経験から育った「緑」のある暮らしへの意識
古賀 「GREEN WORK STYLE」はオフィスに緑を取り入れようというグリーンアクションのひとつです。ワークスペースの周囲に植物や自然があることで、そこで働く人はよりリラックスした状態で仕事に臨めるようになるなど健康やストレス軽減だけでなく、働く人のひらめきやコミュニケーション活性化、モチベーションアップなどパフォーマンスも向上することがわかっています。これは感覚的な話だけではなく、調査による科学的な根拠に基づいた研究結果でもあります。
東急不動産では、オフィス空間に緑を取り入れることで、企業や働き手のみなさまに理想的なワークプレイスを提供しています。代表的な例を挙げると「日比谷パークフロント」では、エントランスから休憩室、屋外のミーティングスペースなどに緑を多く配置したほか、入居者が自由に植樹することができるスカイガーデンを設けています。休憩室の緑はリフレッシュ効果を、ミーティングスペースの緑は創造性を、スカイガーデンの緑はモチベーションを高める効果があります。
古賀 東急不動産には、昔から社会課題をビジネスで解決するという姿勢があります。今から25年前の1998年には環境ビジョンをつくり、2000年代には環境配慮やライフスタイルを提案する建物づくり、2010年代には施設内で自社が生み出す再生可能エネルギーの使用を推進、2020年代には中長期経営計画に「環境経営」を組み込むなど、サステナブルな社会づくりを進めてきました。働き方をより良いものにするために、ワークスペースに緑を取り入れるというライフスタイルの提案には10年以上前から取り組んでいることになりますね。
この背景には、東急不動産がもともと大規模宅地開発を手がけてきた会社であるという理由があります。開発の際に、自分たちの仕事がその土地の環境や人々に与える影響を考える機会が多く、自ずとライフスタイル創造や環境問題に対する意識が育ちやすかったのだと思います。
また、これは初代社長である五島昇の言葉ですが、1980年代、オセアニアのパラオ共和国にリゾートホテルをつくる際に「ヤシの木よりも高い建物は建てるなよ」と、周囲の自然と調和した開発を行うように指示したのだそうです。このように創業当時から、自然や人々の暮らしに目を向けるスタンスは変わっていません。
そして、もう一つの理由として、これはビジネス面での成功体験に由来するものですが、緑を多く取り入れた建物をつくり始めた際、そこに入居した企業にとても好評だったんですね。それ以来、少しずつ評価をいただいて、いまでは当社ならではのブランドのようになることができました。
渋谷の街を、働く人、遊ぶ人、住む人にとって魅力的なエリアに
古賀 東急不動産は渋谷が拠点です。渋谷を中心に、代官山や表参道、恵比寿などをあわせて2.5キロメートルの範囲を「広域渋谷圏」として、他業種の企業やスタートアップ、自治体、地域社会と連携した創業・起業・協業の場づくりを「未来シェアリング」と名付けて推進しています。今年秋には大型複合施設「Shibuya Sakura Stage」が竣工を迎えます。日本電信電話株式会社(NTT)様とNTTドコモ様と協業し、「IOWN (Innovative Optical and Wireless Network)構想」に基づいた環境先進都市づくりを行うことを2023年6月に合意しました。街づくり分野への技術・サービス導入は世界初となります。
ソトコト 「IOWN構想」とは何ですか。
古賀 「IOWN構想」は、光を中心とした革新的技術を活用した高速大容量通信、膨大な計算リソース等を提供可能な端末を含むネットワーク・情報処理基盤をつくることで個と全体との最適化を図り、多様性を受容できる豊かな社会をつくる構想です。2024年の仕様確定、2030年の実現をめざして、研究開発が進められています。
ソトコト 技術革新による先進的な都市づくりも含め、東急不動産の考える、渋谷の街づくりのビジョンはどういうものなのでしょうか。
古賀 「働く・遊ぶ・住む」が融合した街、人々が訪れてみたい、働きたいと思ってもらえる街にできればと思います。そのためには、渋谷という街ならではの新しい出会いや発見があることや、居心地がいいことを多くの人に知ってもらう必要があり、そのお手伝いをできればと考えています。また、渋谷に住んでいらっしゃる方にも街づくりを通して貢献していきたいですね。渋谷は「谷」とつくその地名のとおり、高低差の大きい街です。高齢の方には歩きにくい部分もあります。そういった地形的な課題を開発によって住みやすく、バリアフリー化なども進めていきます。いま、分断気味になっている各エリアのつながりを回復させて、「広域渋谷圏」として、回遊性の高い街にしていきたいです。
渋谷というと若者の街というイメージがあるかもしれませんが、実際は子育てをされている世代の方やシニアの方、外国人の方など、とても多様性のある街なのです。東急不動産の施設をハブに、私たちの提供するハードとソフトの魅力、そしてそこを利用するパートナーの魅力、そして渋谷というエリアの魅力を高めていきたいですね。
再生可能エネルギー事業が創造する地域の新たな価値
古賀 再生可能エネルギー事業については2014年から取り組んでおり、脱炭素社会の実現、地域との共生と相互発展、日本のエネルギー自給率の向上という3つの目的を掲げ、2018年から「ReENE(リエネ)」というブランドを立ち上げました。現在は89の事業を展開し、その定格容量(取り出せる電気の量)は1,582メガワットとなっています(2023年5月現在)。一年間で生み出す発電量は、神奈川県川崎市の全世帯の年間の電力量とほぼ等しい数字です。
ソトコト 大都市ひとつまるごとの電気をまかなえる量ということですね。
古賀 はい。再生可能エネルギーの事業規模において国内トップクラスなのではないかと思っています。
ソトコト これほどの規模の取り組みができた秘訣は何なのでしょうか。
古賀 先ほど、かつてから大規模開発を得意としてきたとお話をしましたが、この際に得られた行政や地権者の方としっかりとコミュニケーションを取るノウハウが活きているのだと思います。たとえば現在、北海道の松前町に風力発電所があり、全長約150メートルの風車を12基稼働させています。この街には社員が常駐しており、地域の方たちと協業する仕組みをつくっています。
ソトコト 大きな施設や設備であるからこそ、何か疑問があるときにたずねられる相手がいるのは心強いですね。
古賀 北海道では、2018年の地震を契機に大停電が発生したことからエネルギーに対する意識が高く、「エネルギーを地産地消することによって安定供給しよう」という考えが広まっています。松前町はもともと風の強い地域で有名でしたが、この地ならではの資源を活用して風力発電で松前の電気をすべて補えないかという話になったのです。
いま、地域に再生可能エネルギーの発電所があることは、今後は、災害対応拠点のある土地としても、その土地の価値を高めることにもつながるのではないかと思います。また、潤沢な再生可能エネルギーのある街として企業が誘致できて、そこから雇用創出につながることにもなるなど、副次的な効果にも期待しています。
古賀 244ある東急不動産の施設、すべてで再生可能エネルギーを使用しています。こうすることで東急不動産の施設を利用する方が、自ずと再生可能エネルギーを使うことにもなり、これも当社ならではの強みになるのではないかと考えています。
東急不動産では引き続き再生可能エネルギー事業を推進し、2025年までに原子力発電所2基分の事業規模を目指しています。サーバーなどを保管し大量に電気を消費するデータセンターを丸ごと再生可能エネルギーでまかなう「ゼロエミッションデータセンター」の相談をいただくこともあり、再生可能エネルギー事業を活かした新たな事業・まちづくりも、東急不動産のできる社会課題の解決なのだと思います。
東急不動産株式会社
サステナビリティ推進部 企画推進室 室長
2007年2月東急不動産株式会社入社。経営企画部、不動産ファンド・リート、物流施設、再生可能エネルギー事業を経て、2022年4月より現職。全社のサステナビリティ活動や環境施策の推進、社内浸透、ESG対応等を担当。趣味は畑いじり。今夏はスイートコーンやなす、トマトを育てています。