「未来を変えるプロジェクト」を続けてきたEARTH MALLでは、日常の中でその人らしく、小さくても地道に続けていけるサステナビリティに繋がるアクションを「サス活」と定義しました。会話の中から、誰もが始められる「サス活」アクションのヒントを探していきます。
今回お話を伺ったのは「旅するデザイナー」の肩書を持ちながら、旅先の海外で寿司をもてなし、大学で准教授を務める等、幅広く活動されてきたデザイナーの市角壮玄さん。全国的な移動制限により旅に制約が及んでも、在宅歴18年のノウハウや畑とともにある暮らしをYoutube動画「CHANNEL HOXAI」で伝える。デザインや発信活動から得られる市角さんのクリエイティビティと「サス活」のヒントを、福岡と繋ぐ会話で紐解いていく。
(聞き手・取材:EARTH MALL編集部 小田部巧/腰塚安菜)
「旅」をとりまく環境が大きく変わっても
EM 小田部:お久しぶりです。Facebookで気にかけてはいたけど、どのくらいぶりになるだろう。壮玄くんとの繋がりは10年前くらいにさかのぼれるけど、当時、同世代のデジタル系の仲間のみんなが一斉に食の活動に目が向いた時があって懐かしいな。最近、何してるの?
市角さん:今は福岡で在宅中ですが、最近はリモートで旅人仲間たちと情報交換をしながら「どうしたら旅を続けられるか」をよく話し合ってます。
今までは旅の動機に、旅していることをSNSでシェアする 「承認欲求のため」 が多かったんじゃないかと思うんですが、今まさに「一人で旅は完結できるのか」ということを突き付けられているなと。でも、やっぱり体験はシェアしたいから、これから旅の体験はひっそり、こっそりとシェアしていくようになるんだろうなという話をしていました。そうしたあたらしい旅の仕方の模索と、家でいながら旅気分や、ここにいても旅できるといった考え方、両軸で模索している感じですね。
EM 腰塚:つい2週間前、市角さんのYoutube動画「CHANNEL HOXAI」に見入ってしまったのですが、それからほどなく、こうして直接お話しできる機会が叶って光栄です。
市角さん:実はこの3月から5月くらいまで「旅するデザイナー」という“看板“を降ろしてたんです。でも今はまた、使っていこうかなという気になりました。この肩書を使い始めたのは、たぶん2012年くらいからだと思います。旅を加速化していったのは、震災だったので。
EM 小田部:なるほど。震災後だったのは、なぜなんだろう?
市角さん:占いや音楽活動の仕事でちょくちょく海外に行くことはあったんですが、面白いなとは思ってはいても、そんなに価値は感じていなかったんです。震災が起きてからは、自分自身の人生をサステナブルにしていくために、いろんな価値観をインスト―ルしたり、外側の視点で日本を見たりすることが不可欠なんだなと考えました。
東京から千葉に引っ越して、畑を始めたのも震災後です。
在宅・リモートワークで心が折れないコツとは?
EM 腰塚:終日在宅という日もある生活が続くので、まず初めに見てしまったのが、12のポイントで解説された【在宅ワークのコツ】動画でした。見て以来、なるべく家の中で一つの場所にずっと座っていないよう努力しています(笑)。在宅歴18年っていうことは「自粛」に流されない揺るぎ働き方なんですね。
市角さん:あの「リモートワークのコツ」動画は、”Stay Home”がすごく不自然な状況だったから、その状況を打破したくて。なんで、家の中にずっといると体が参っちゃうのかなと思ったんですが、”Stay Home””すると免疫力がダダ下がりになるなと思い、少しでも自然な状態に近づける基盤をつくるため。自分の体のサステナビリティにも目を向けて。デザイナーという職業もそうですが、デジタルだらけの生活をしていると、生ものとか、生き物とか触れたくなる。
EM 小田部:すごい、わかるな。
EM 腰塚:動画のタイトルにつけている”Stay at Farm”は、畑をやる人だからこそ実感できる言葉だなとも思うのですが、面白いですね。他に、誰も言ってないですよね?
市角さん:ハッシュタグ検索すると、アメリカの農家のおじちゃんも使ってるようなんですが・・・。千葉の自宅から伝える畑Vlogシリーズです。よければ #StayatFarm にして、巧君も畑にいる時使ってください(笑)。
90歳になっても、葛飾北斎のように
90歳になっても、クリエイティビティを失わないでいたい
EM 腰塚:ずっと気になっていたのですが、グラフィックデザインから料理まで、多岐にわたるご活動すべて、なぜHOXAI(ホクサイ)が付いているんでしょうか?
市角さん:学生時代、演劇の舞台美術・宣伝美術の世界から、デザイナーの方面に進んだ過去があるのですが、その頃、役者ばかりスポットライトがあたるのが腑に落ちなくて。舞台芸術を支える裏方の活動支援をしたいと思って 「労働組合」みたいなものを結成しました。それが「ホクサイ」の始まり。
単純に葛飾北斎みたいに、何歳になってもクリエイティビティを失わないでいたいという気持ちと、当時は辞めていく人も多かったけど、自分はいつまでも諦めねぇぞという想いを込めて。
葛飾北斎は70歳くらいから「絵が描けるようになってきた!」と言っていたといいますからね。
以前は「hoxaigraphics」という名前でしたが、今は活動がグラフィックだけではなくなっていると思い「HOXAI.com」を中心に様々に展開しています。
EM 腰塚:「HOXAI KITCHEN」のご活動でフランスで催されていた、華やかなお寿司パーティーの様子を拝見しました。旅先での「もてなし」も、普通じゃ味わえない創造的な印象ですね。
市角さん:「HOXAI KITCHEN」の活動は2017年から始めました。それまで旅先で日本の料理を作ったりする「ポットラック」(気軽な持ち寄りパーティー)などをやっていて、その延長です。動画シリーズの旅先はフランスの他にも、マレーシア、アメリカ、ベルリン、タイなど。そこでは地元の食材を使うようにしています。
ホームパーティーで気づいたのは、ヴィーガン・ベジタリアンの方が5分の1ほどいらっしゃること。そこで、魚が食べられなくても楽しい寿司体験が味わえる「VEGESUSHI」を開催しました。
EM 腰塚:旅先でこうしてクリエイティブにもてなすことでさえなかなか真似できないと思いましたが、より柔軟なべジ対応にして、地元の食材を使うまでのこだわりが素敵だと思いました。
市角さん:「クリエイティブにすること」を考えていたら、結果的にべジ対応になってしまった、という感じなんです。
「旅先で手に入る食材を日本化するとどうなるんだろう?」というのが、楽しいなと思いまして。見たことない!これ食べられるの?みたいな紫色の野菜とかを使っていたら、結果的に地産地消となっていたという感じ。
べジ対応やヴィーガンも、人のニーズに合わせていくことで生まれてきたものだと思います。それに、ものづくりって制約があった方が面白いですよね。
EM 小田部:そうだね。クリエイターは、制約がある方がやりがいがあるとも言える。壮玄くんは、何でも面白がって自分のものにして新しいものを作るから、多様な価値観を分け隔てなく吸収する柔軟性があるのでは。
市角さん:自分で意識していないけど、言われてみるとそうなのかもしれない。飲み屋で毎回ずっと同じ仕事論を話すおじさんになりたくないという意識はあって(笑)。
EM 腰塚:自家製「チャイ」の動画の市角さんのゆるやかな手つきに魅了されました。最後にもう一度動画についてお伺いしたいのですが、Youtube「HOXAIチャンネル」は全て、市角さんの自作自演なんですか?
市角さん:そうです。もうすぐアップするのは畑での収穫祭ですが、自粛中の働き方アドバイス、デザインの話、今温めているのだと、地方の友人に「主夫のすすめ」を尋ねるインタビュー形式の動画もあります。
Youtubeでの発信は「続けていいのかな」という迷いもあったんですが、意外と楽しみに見てくれている人がいるので、色々なシリーズで続けていこうと思います。動画やYoutubeをやっている人って何か答えを持っていて、提供しますという感じで発信している人が多いけど、僕は困っている様子を投げかけて、それを見てもらうことに重きを置いています。
「一緒に悩もう系Youtuber」なのかも(笑)。
EM 腰塚:動画の今後も楽しみですし、次に直接お会いできる機会も楽しみです!
市角さんの「サス活」とは?
好奇心最優先。結果的にサステナブル。市角さんのサス活
「自身の好奇心を最優先し、結果的にサステナビリティに向かっていく」と話した市角さん。柔軟に、絶えず自己変革してきた姿勢が伝わった。市角さんは、旅でも日常生活でも自分らしい暮らしが営み続けられることを、自作自演で発信する動画を通して、力強く伝えている。
取材の後、巷で「ステイケーション」という言葉が聞こえてくるようになったが、市角さんは特にそんな流行語にとらわれていない様子だ。代わりに「特別な時間だけじゃなく、常日頃から自分の心地よい生き方は何だろうと考えるために、いいきっかけになる言葉では」という感想を頂いた。
旅先でも、家にいても、どこでも仕事を続けられる時代がすぐそこまで来ているようだが、そんな生き方は、市角さんにとって今に始まったことではないのだろう。
私も、周囲の環境と自分の活動の変化に柔軟な市角さんの姿勢に倣い、新しい生活様式を自分なりにポジティブに切り拓いていけたらと思う。
旅する機会がほとんどなくなって、チャイを飲む機会といえば、だいたいアジアの筋に詳しい友人の手製をいただくかインド料理店くらいだった私だが、自家製チャイを提案する市角さんの仕事場にも、いつかお邪魔できる日を楽しみにしている。