140年にわたり「三ツ矢サイダー」を日本中に届けてきた『アサヒ飲料』が、2023年6月から新たにスタートさせた「三ツ矢青空たすき」。三ツ矢サイダーを飲んだ思い出にあった日本の豊かな自然と文化を100年後にもつないでいくため、さまざまな体験プログラムを提供しています。
三ツ矢サイダーと共にある、日本の原風景
「三ツ矢サイダー」の始まりは、1884(明治17年)。兵庫県に湧出する天然鉱泉を起源とし、140年近くにわたり、さまざまなシーンで人々の喉の渇きを潤してきました。
この「三ツ矢サイダー」を日本中に届けてきた『アサヒ飲料』は、「三ツ矢青空たすき」というプロジェクトを行っています。それは、“自然の好循環・持続可能な暮らし”をテーマに「三ツ矢」が100年先の未来へ伝えていきたいこと・ものを、みんなで楽しみながら“たすき”のようにつなげていく事業です。豊かな自然を有する地域で思いを持って活動する語り部による体験プログラムを、2023年6月から提供しています。
「『アサヒ飲料』は、三ツ矢サイダーをはじめ、カルピス(R)、ウィルキンソンの3つの飲料を100年以上提供し続けている日本で唯一の会社です。世代を超えて皆様に愛されてきたブランドだからこそ、これまで育んでもらった社会の課題解決に貢献できることはないかと模索しました」と同社マーケティング本部 マーケティング企画部 ブランド活用推進グループの宮本史帆さんは説明します。
三ツ矢サイダーならではの価値とは何かを見つめ直す中で、約400人に三ツ矢サイダーが最高においしいと感じた思い出を聞いてみたところ、自然の中で大切な人たちと一緒に汗を流した後に飲んだ時の記憶が多く出てきたそうです。「例えば、おじいちゃん、おばあちゃんの家に行って田植えを手伝った後に飲んだ三ツ矢サイダーがおいしかったとか、夏休みにお父さんと一緒にカブトムシを探しに行った時に林で飲んだとか。40代以上の方からは、このような日本の原風景を思い出す声が多くあります」。
しかし現在は、特に都市に暮らしている人や若い人たちは地域との結びつきが薄れて、日本の原風景に触れるような機会は少なくなりつつあります。そこで、日本の豊かな自然をこの先100年もつないでいくため、自然を身近に感じたり、自然に関心を寄せたりするきっかけとなるような体験プログラムを届ける活動を始めることにしました。
「三ツ矢青空たすき」では、福岡県糸島市での五感を刺激するような現地体験や、事前に発送された体験キットを使ったオンライン体験プログラムを提供しています。自然・文化体験となると子ども向けのものは多いですが、ここでは大人が一人でも気軽に参加できる体験を多く用意しているそうです。「次世代につなぐためには、今の大人たちが意識を変えて、生活や消費行動を変えることが大事であることから、大人にこそ今の社会が抱える課題を知ってもらい、日本の自然や文化を好きになってもらう体験が必要だと思い、親子に限らず大人が一人でも気軽に参加できる体験プログラムを多く用意しています」と宮本さん。
体験プログラムには、自然体験、食にまつわる体験、作ることを楽しむ体験の3つのテーマが設けられています。社会の課題解決をテーマに掲げると難しそうに感じて敬遠されてしまう可能性があるため、楽しさや面白さを前面に打ち出して、実際に参加したら学びが多いと感じてもらえるような内容となっています。
豊かな森づくりを広げる『いとなみ』の活動
「三ツ矢青空たすき」の体験プログラムでは、それぞれの体験の楽しさや面白さを伝える“語り部”の存在が欠かせません。福岡県糸島市と福岡市を拠点に森づくりの活動を行う『いとなみ』代表の藤井芳広さんもその語り部の一人です。『いとなみ』は持続可能な社会をつくるため、森づくりとアジア交流の2つをテーマに2012年から活動しています。
「持続可能な暮らしを一言で表すと、一年間で生み出される自然の量で暮らしていくということ。これを貯金に例えると利子で生きていくということですが、今の社会はこれができずに元本をどんどん切り崩して、利子自体もどんどん減っているような状況です。今の利子の範囲で暮らそうとするととても貧しくなってしまうため、元本を増やす必要がある。この元本は生物多様性の高い森だと認識していて、森からの恵みを増やすために多様な植生を豊かにしたい。そして、同時にこの森づくりをしながら、私たちが森を豊かにするような暮らし方や社会の在り方を取り戻そうともしています」と藤井さんは説明します。
日本では戦後、木材需要が高まったことから、成長が比較的早く、経済的に価値の高い針葉樹の人工林に置き換える政策が進められました。その結果、今では日本の森林面積の約4割が人工林を占めていますが、コストが掛からないといった理由から輸入木材が多く利用されるようになり、日本の人工林は間伐もされずに放置されていることが問題となっています。
「スギやヒノキといった針葉樹の場合、枝がぶつかり合ってしまうと幹が太くならず、根も張れなくなっているのに、上へ上へと木は伸びていきます。すると重心が上になって倒れやすくなり、土砂災害のリスクが高まっている状況です」と藤井さん。
『いとなみ』ではこのような森の現状を伝えて、豊かな森づくりをするため、皮むき間伐の体験事業を行っています。皮むき間伐とは、スギやヒノキの樹皮を剥いで1〜2年は切り倒さず、立ったまま木を枯らす間伐の方法です。伐採時には乾燥が進んで木を運び出しやすくなり、時間は掛かりますが手間は掛けずに間伐を行うことができます。
藤井さんは福岡県糸島市の森で、この皮むき間伐を体験できるプログラムを実施しています。「子どもから大人まで参加できるのが、皮むき間伐の良さです。いろんな人が参加することで森との関わり方が多様になり、ヨガインストラクターとコラボして皮むき間伐をした後にヨガをしたこともあります。私自身、森の中でヨガをしたのは初めてだったのですが、森との一体感が感じられて、とても良い体験でした」。
間伐材を削りながら森の話に耳を傾ける
「三ツ矢青空たすき」は、自宅からでも気軽に体験ができるよう、オンラインのプログラムも用意しています。皮むき間伐をした木材でコースターを作りながら、豊かな森づくりに関するお話をたっぷり聞くことができる2時間のプログラムで、藤井さんは“語り部”をしています。
申し込みを行うと、自宅に体験に必要なキットなどが届きます。箱の中には、間伐された材やコースターを作るのに必要なヤスリ3種類、最後に参加者全員で乾杯するための三ツ矢サイダーと森林農法で作られたコーヒーのドリップパックが2袋入っていました。あとは申し込みをした日時になったら、オンラインで参加をするだけです。
ヤスリで削りながら好みの形にした後、表面を滑らかにして仕上げます。手を動かしながら藤井さんが営む福岡県糸島市のカフェの様子が映し出されたり、皮むき間伐をはじめとする豊かな森づくりに関する話を聞いたり。時折参加者の作業状況を確認し会ったり、藤井さんに直接質問をしたりしているうちに、あっという間に2時間が過ぎていきます。
藤井さんのお話の中で、森林農法で作られたコーヒーがキットに入っていた理由についても説明がありました。それは、一般的なコーヒー栽培とは異なり、多様な植物と一緒にコーヒーの木を育てる方法で、農薬や化学肥料に頼らずに生態系を保護しながら育てることができます。100年先まで豊かな森をつないでいくには藤井さんはこの方法が一つの解決策になると考え、福岡県糸島市でも森林農法を応用して耕作放棄地となったみかん畑を再生しています。
藤井さんの話を聞いていると、普段の暮らしの中でもどのように木を活用して森づくりにつなげられるのか、ヒントをたくさん得ることができます。心が豊かになる暮らしをに興味がある方、日本の原風景を未来につないでいきたい方は、ぜひご自身が楽しそう、面白そうと感じるプログラムに参加してみてはいかがでしょうか。
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photographs by Takeshi Konishi, Asahi SoftDrink Sales Co., Ltd.
text by Mari Kubota