第3回「ソトコトSDGsアワード2023」の授賞式が12月21日(木)、東京・渋谷で開催されました。ソトコトSDGsアワードは「未来をつくる活動を広報する」をテーマにしたアワードです。今回は6つの活動が選ばれ、それぞれの取り組みを行う企業・団体にトロフィーが授与されました。授賞式の模様をレポートします。
SDGsが日常にある時代に──実行委員会からのメッセージ。
授賞式はまず、『ソトコト』編集長でSDGsアワード実行委員長の指出一正のあいさつから始まりました。
指出はこの授賞式の前日、自分がどんなことを経験したか「編集長の一日」を話しました。群馬県前橋市の群馬県庁31階にあるソトコトプロデュース「ソーシャルマルシェ&キッチン『GINGHAM(ギンガム)』」を訪ね、管理運営をしてくれている20代のコミュニティマネージャーの話を聞き、その後、前橋市内のまち歩きをしたそうです。前橋市は今、中心市街地の歩ける範囲でコミュニティや福祉など、いろいろなことと出合えるまちづくりを進めています。ドーナツ店、チョコレート店、コーヒー店など、トレーサビリティやエシカルを意識した新しい店も増えています。
夜には高崎市にある実家へ行き、家族と地域の人と楽しい食卓を囲みました。指出はそんな一日を振り返った後、「この日感じたり、経験したりした、仲間の幸せ、家族の幸せ、まちへの思い、すべてがSDGsとつながっていました。今、私たちはSDGsが日常にある時代に生きていると言えます」と締めくくりました。
続いて、SDGsアワード実行委員会の『メトロアドエージェンシー』ビジネス開発局長・井上達也さんが登壇しました。
『メトロアドエージェンシー』は東京メトロの中吊り広告やデジタルサイネージ、ポスター、フリーペーパーなどのメディア開発を手がけています。そこには「お客様に役立つ情報を一つでも届けたい」という思いがあります。そして、SDGsアワードに実行委員として参画するのは「未来につながる活動をメディアとして応援したいためです」と井上さんは話しました。昨年発行したフリーペーパー『SDGsアワード特別号』は駅の配布場所から数日でなくなり、お客様の関心の高さを実感したそうです。
次に、SDGsアワード実行委員会の『ディスコ』取締役・石井伸明さんが登壇しました。
「はたらく」「学ぶ」の選択肢を広げるため、就活や進学を支援するサイト「キャリタス」を運営する『ディスコ』では、毎年、就活を終えた学生にアンケートをとっています。そのアンケートでは、SDGsに取り組む姿勢を見せている企業の人気の高さが見てとれるそうです。「『誰一人取り残さない』というSDGsのメッセージは、若い人たちにも多くの共感を得ていることを実感します」と石井さんは指摘しました。これからも学生や若い世代を巻き込み、SDGs17番目の目標「パートナーシップで目標を達成しよう」を実現していく思いを話しました。
活動に取り組む受賞企業・団体のそれぞれの思い。
次に受賞企業・団体へのトロフィー授与が実行委員長の指出から行われました。
1社目は、『アサヒ飲料』マーケティング本部マーケティング企画部長の古澤毅さんが登壇しました。アワードにエントリーされた際の活動メッセージは「100年後も豊かな自然と文化を引き継ぐ。その第一歩をつくる『三ツ矢青空たすき』」です。
受賞のあいさつに立った古澤さんは、三ツ矢サイダーには約140年の歴史があり、「それは日本の原風景をつくる豊かな自然や人と人とのつながりの中で育まれたものです」と話し、その恩返しとして「三ツ矢青空たすき」という取り組みを始めたことを感謝の言葉とともに説明しました。
続いて『明治ホールディングス』サスティナビリティ推進部サプライチェーングループ専任課長の原田暁枝さんにトロフィーが贈られました。アワードエントリーの活動メッセージは「『取り組む』だけでなく『見える化』も。カカオ農家を支援する『メイジ・カカオ・サポート』の次のステップとは」です。
あいさつに立った原田さんは、「SDGs」という言葉がなかった2006年から始まった「メイジ・カカオ・サポート」が、今の時代に改めて評価されたことに喜びを感じると話しました。現在は9か国でカカオ農家支援を行っており、栽培の直接支援のほか、資源ゴミの分別回収ボックスを提供したり、地域の子どもたちにカカオ豆を使ってチョコレートをつくる体験をしてもらったりしていることが語られました。
3社目には『サラヤ』広報宣伝統括部統括部長の廣岡竜也さんが登壇しました。アワードエントリーの活動メッセージは「生物多様性保全活動と事業を結びつけ、継続させる―20年続く『サラヤ』のボルネオでの取り組みを聞く」です。
トロフィーを受け取った廣岡さんは、『サラヤ』が2004年からマレーシア・ボルネオ島で生物多様性保全活動を続けてきた経緯を説明しました。そこには「ヤシノミ洗剤」を販売するメーカーとしての社会的責任、さらにビジネスを通じて社会課題を解決していく強い企業理念があったことが話されました。アワードを受賞したことで「社員にとって、自分たちがやっていたことに誇りを持てます」と感謝の言葉を述べ、今後は海や水産資源の課題解決にも取り組んでいきたいと語りました。
次に登壇したのは福島県・石川町にある『一般社団法人ひとくらす』代表理事・三森孝浩さんです。アワードエントリーの活動メッセージは「焚き火の周りに人が集まるように、まちと外をつなげる―福島県・石川町の『ひとくらす』」です。
廃校になった小学校を活用し、火のまわりに自然と人が集まるように、「楽しいことをすることでみんなが集まってくる」施設をつくったことを三森さんが説明しました。林業、農業の第一次産業に特化した体験を提供しており、「第一次産業はこれからもっと大事なものになっていくはず。みなさんの意見をいただきながら、いろいろな角度から掘り下げ、体験を提供していきたいです」と決意を語りました。
5社目には『HYPHEN』代表取締役社長の中屋光晴さんが登壇しました。アワードエントリーの活動メッセージは「メガネに骨伝導イヤホンを装着し、視覚と聴覚の機能を拡張。世界につながりをつくるアイウェア『GLASSHORN(グラスホーン)』」です。
中屋さんは、アイウェア(メガネ)に骨伝導イヤホンを組み合わせた新しいワイヤレスオーディオグラスを開発し、スタートアップ企業で広めていこうとしています。クラウドファンディングも始まりました。開発の背景には自身の祖母が晩年、難聴を患い、会話が減っていった体験がありました。「目と耳は重要な感覚器官で、人と人とをつなぐ器官です。SDGsのテーマの一つである、人と世界とのつながりをつくっていくことを、私たちのプロダクトを通じて多くの方に提供していきます」と話しました。
6社目の登壇は『戸田酒店』代表取締役の夏井宗矩さんでした。アワードエントリーの活動メッセージは「いいものをつくり、それを広める。歴史ある大豆を再興させる『戸田酒店』と農業協同組合の取り組み」です。
夏井さんは在来種の「津久井在来大豆」を復興するため、宍道湖のしじみを使ったしじみ汁を商品開発している例などを挙げながら、「全国を訪ね歩いていると、まだ知られていない地域の名産がたくさんあることがわかります。また一方で、販売方法などで困っている生産者が多くいる実態も見えてきます。現場の皆さんの声を聞き、私たちのグループ会社の力を活かしながら商品開発を進めています」と話しました。
トークセッション──「教育」と「遊び」をキーワードに。
授賞式の後、『デジタルシフトウェーブ』代表取締役社長で日本オムニチャネル協会会長、東京都市大学特任教授の鈴木康弘さんと指出によるトークセッションが行われました。
DX(デジタル・トランスフォーメーション)推進などに携わる鈴木さんは今、「教育」というキーワードが頭の中にあると話し、「SDGsもDXも、人がどうありたいか、どうすれば幸せになれるかという問いが根本にあります。変革を起こすのは人。日本は“失われた30年”といって、自信を失っている部分もありますが、新しいことに挑戦し、取り組むことを“教育”から解決していけないかと考えています」と続けました。
ほかにも鈴木さんからは「ワーク・ライフ・バランス」ではなく、「ワーク・ライフ・インテグレーション(統合)」で考えたほうが、人生も仕事もより深く楽しめるのではないかといった提案も出ました。指出も、大人が“遊ぶ”姿を子どもたちや若い世代に見せたほうがよく、それが、子どもが大人を真似る「まねび=学び」につながっていくはずだと応えていました。
トークセッションが終わり、指出は「冒頭で前橋市の話をしましたが、日本の各地で社会の変革、変容が起き始めてことを感じています。ワクワクする社会を一生懸命つくって、遊んでいる姿を次の世代に見てもらいましょう。それを見て、楽しそうだと“まねて”もらうことでサステナビリティが実現していくのかもしれません」とまとめのあいさつをし、授賞式は閉会しました。
第3回「ソトコトSDGsアワード2023」授賞式の模様は、YouTubeのソトコトチャンネルでアーカイブ配信しています。SDGsの最前線に立つ企業や団体の皆さんの思いを受け取っていただき、未来づくりへのヒントに満ちた鈴木康弘さんと指出によるトークセッションをぜひご視聴ください。
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photographs by Tomoki Hirokawa
text by Takeshi Konishi