20年以上もの歴史を持つカフェ『マキネスティコーヒー』。コーヒーの本場であるアメリカ・シアトルで学んだ手法を活かし、本格的なデミタスコーヒーやエスプレッソドリンクなどを提供している。東京とシアトルで二拠点生活を送る副社長の辻英子さんにお話を伺った。
両国・錦糸町エリアに佇むカフェ。
『マキネスティコーヒー』は2011年、JR両国駅と錦糸町駅のほぼ中間の大通り沿いにオープンした。
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「焙煎コーヒー」と聞くと良い香りをイメージしがちだが、実際に焙煎を行う際は豆を挽いたりカスを焼き切る工程で煙や匂いが発生してしまうため、住宅地で行うのはハードルが高い。開業を決めた当時、このエリアには個人経営の小さな工場や工場跡地が多かった。辻さんは「そのような環境でなら、焙煎機を使っても煙や匂いで迷惑をかけるリスクは低いと考えました。また建物のオーナーが協力的で、一緒に周囲に説明をしてくれたことも決め手になりました」と当時を振り返る。
2015年頃から近所の風景が変わり、住宅地が増え、客層も変わってきたそうだ。最近は東京スカイツリーや両国・錦糸町近辺の下町らしさを楽しむ観光客も増えており、店を訪れたインバウンド観光客に「この町で本格的なスペシャリティコーヒーを飲めるなんて」と驚かれたこともあったという。
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デミタスコーヒー「ロマーノ」(506円)。砂糖の入ったエスプレッソに、レモンの皮から出るオイルを飛ばして飲む。体の中からコーヒーとレモンの香りが湧き立つような感覚を味わえる。
シアトルでの付き合いが、カフェ開業につながった。
約30年前からシアトルと東京を行き来していた辻さん。そのシアトルから、誰もが知るコーヒーチェーン『スターバックスコーヒー』が生まれた。日本では1996年に銀座に一号店がオープンし、それまで「ラテ」や「カプチーノ」という言葉さえもあまり知られていなかった世間のコーヒーに対する見方を一変させた。
シアトルで建築関係の仕事をしていた辻さん夫妻は、「『スターバックスコーヒー』のようなカフェをやりたい」という日本人客からの問い合わせに応じて、エスプレッソマシンの案内を手掛けることもあった。そうしているうちにマシンの製造会社やシアトルのカフェオーナーたちと付き合いが生まれたという。「シアトルには個人経営のカフェがたくさんあります。2000年頃に登場したエスプレッソマシンは使い方にコツが必要で、カフェオーナーたちが日々集まって試行錯誤しながら一緒に学んでいました。それを私たち夫婦も手伝っていたら『日本でカフェをやってみたら?』と提案され、開業することにしました」と、店を始めた経緯を教えてくれた。
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とはいえ当時は全くの素人だったため、シアトルでトップのカフェオーナーがコーヒー豆の会社を紹介してくれ、生豆の取り扱いやコーヒー豆の選び方などを教わったという。「普通はコーヒーに詳しい人がカフェをオープンしますよね。私たちは実際にやりながら一つひとつ教えてもらいました。苦労の連続でしたが、学ぶことがすごく多かったんです」と当時を振り返って笑う。今も変わらずその会社から豆を仕入れているそうだ。
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豆は産地をたどることのできるトレーサブルなもののみを使用。生産地の持続可能性につながり、店としても質の高いコーヒーを提供し続けられるのだという。「コーヒー豆の栽培は難しく、気候変動により豆の味が昨年と全く変わってしまうことはよくあります。多少値段が高くなるのは承知の上で仕入れており、お店で扱っている豆はすべて元をたどることができます」と辻さん。
そして、コーヒーの淹れ方もシアトル直伝だ。日本から社員を連れていき、温度管理からラテアートまであらゆることをシアトルの仲間から習得したそうだ。当時研修を受けた社員は、今もバリスタとして活躍している。
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CO₂の排出量を抑えるシステムを導入。
また、環境負荷への配慮もシアトルで身につけた価値観だ。焙煎機で豆を焙煎する際に出てしまう煙と粉塵は、焼却炉で高温処理して焼き切るのが一般的だが、完全燃焼させるためには多大なCO₂が発生してしまう。以前使っていた焼却炉が壊れた際、モーターを動かして少量の水を噴射し粉塵を抑えるシステムがアメリカで開発されており、導入を即決したそうだ。このおかげで焼却炉に比べてCO₂の排出量を格段に抑えることができているという。
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シアトルとの縁から生まれたスペシャリティコーヒーを味わえる、貴重なカフェ『マキネスティコーヒー』。きっと一口飲めば、深みのある味わいに驚くはずだ。ぜひ訪れてみてはいかがだろうか。
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photographs by Takeshi Konishi
text by Mai Inoue