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サスティナビリティ

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特集 | 第4回「ソトコトSDGsアワード2024」

アミノ酸で人と牛、そして地球にも貢献する味の素社の牛用アミノ酸リジン製剤AjiPro®-L。そのサステナブルな技術としくみがおもしろい

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牛用アミノ酸リジン製剤AjiPro®-Lは、乳牛や肉牛の餌に含まれるアミノ酸の一つ、リジンを補って飼料中のアミノ酸バランスを整え、生乳や枝肉の生産性の向上と飼料効率の改善をもたらす画期的な製剤です。同時に、地球の環境負荷軽減にも貢献するSDGsなチカラを秘めています。いったいどんなところがSDGsなのか。味の素社の久戸哲郎さんに詳しく聞きました。

目次

リジンの「桶板」を高くして、生乳の生産性を向上

1頭の乳牛が1年間で生産する生乳の量は約9,000キログラム。たくさんの生乳を生産していますが、より効率よく生乳を生産する方法があることを味の素社は長年の研究から発見しました。アミノ酸はタンパク質をつくるために欠かせない栄養成分です。動物の体を構成するタンパク質の基となるアミノ酸は20種類あり、アミノ酸がつながることでタンパク質をつくるのですが、いくつかのアミノ酸は体内で合成することができないため食べ物から摂取する必要があります。それらは「必須アミノ酸」と呼ばれ、牛も人と同様に必須アミノ酸が必要となります。味の素社は、必須アミノ酸の一つであるリジンに注目しました。なぜなら、リジンは一般的な牛の餌に含まれる必須アミノ酸の中で最も不足しやすいものの一つだからです。

必須アミノ酸の量を、桶板で表現した図。中でもリジンは最も不足しやすい必須アミノ酸の一つである。

リジンの量が不足することがなぜ注目に値するのでしょう。それは、「桶の理論」で説明できます。ここに板を貼り合わせてつくった桶があるとします。それぞれの桶板は必須アミノ酸の量を表しており、牛の餌に含まれる必須アミノ酸の量はまちまちですから、桶板の高さもまちまちです。そして、一枚でも低い桶板があると、そこまでしか水が入らないのと同じように、不足するアミノ酸があると最も不足するアミノ酸のレベルまでしかタンパク質が体内でつくられません。乳牛にとって桶の水は生乳を意味するといってもいいでしょう。つまり飼料中のリジン量が不足していると、リジンの桶板の高さまでしかタンパク質(生乳)をつくることができないのです。

では、どうすれば生乳の生産性を向上させることができるのか。リジンの桶板を高くすればいいのです。「ただ、リジンの桶板を高くするのは簡単なことではありません」と、AjiPro®-Lの研究・開発を振り返るのは、バイオ&ファインケミカル事業本部CFS事業部戦略推進グループマネージャーの久戸哲郎さんです。

味の素社バイオ&ファインケミカル事業本部CFS事業部戦略推進グループマネージャー・久戸哲郎さん。

「牛には4つの胃があります。牛にリジンをそのまま与えると、大半が1番目の胃(ルーメン)でバクテリアに分解されてしまい、小腸まで届かず栄養素として吸収されません。そこで、リジンが第一胃で分解されないように保護しながら、小腸にたどり着くとゆっくり溶け出して体内に吸収される技術の開発が求められたのです」。

リジンが第一胃で分解されないよう保護し、小腸に到達すると溶けて吸収されるようにする技術を「コントロールリリース」という。

その研究・開発が始まったのは1984年のこと。第一胃で分解されずに小腸で溶けるリジン製剤をつくるために試行錯誤が続けられましたが、あまりの難しさに1999年に一旦研究・開発を中断しました。しかし、諦めることなく2003年に研究・開発を再開。牛の栄養に関する専門性を持った社員と、リジンを製剤化するための専門性を持った技術者たちがタッグを組み、見事に牛用アミノ酸リジン製剤の製造技術を開発することに成功しました。2011年に北米での製造、販売がスタートし、2015年には日本での販売も始まりました。

AjiPro®-Lの造粒技術をわかりやすく説明したオブジェ。AjiPro®-Lはリジンの周りを単にコーティング(左)するのではなく、リジンと植物油によるマトリックス構造(中央)の表面に保護層をつくり、小腸に到達してから溶け出すよう造粒したリジン製剤(右)。長年の研究開発の賜物。

「リジンと植物油によるマトリックス構造の表面に保護層をつくる、独自の造粒技術を確立し製品化することができました」と久戸さんは話します。AjiPro®-Lを乳牛の餌に混ぜて与えることで、低かったリジンの桶板が高くなり、生乳の生産性を向上させることができたのです。その後も製剤の粒を小さくしつつ、牛の体内に吸収されるリジンの量を増やすという改良を重ね、今の形に至っています。

研究と改良を重ね、ここまで小さくなったAjiPro®-Lの粒。

AjiPro®-Lを牛に与え、温室効果ガスの排出を削減

飼料と一緒にAjiPro®-Lを摂取する乳牛。

AjiPro®-Lで飼料中のアミノ酸バランスを整えることで生乳の生産性が向上することは、科学的にも裏付けられています。生産者からの評判もよく、販売開始当時から販売量も増えていますが、生乳の生産性が向上するという効果だけではなく、AjiPro®-Lを活用することによって地球の環境負荷軽減に貢献する効果もあるのです。「先ほどの『桶の理論』を思い出してください」と久戸さんは説明を続けます。「リジンの桶板を高くすることで、他のアミノ酸の余剰分が減ったことに気づかれたでしょうか。タンパク質の生成に使われなかったアミノ酸の余剰分は窒素化合物となり、糞尿に混じって排出されます。そして糞尿中の窒素化合物は一酸化二窒素という温室効果ガスとなって大気中に放出されますが、アミノ酸の余剰分が減ることで、その排出量も減らすことができるのです」。

一酸化二窒素の温室効果はCO2(二酸化炭素)の約300倍もあるので、その効果はあなどれません。牛のげっぷによるメタンの排出等も含め、牛の生育に関わる温室効果ガスの排出量は全世界の温室効果ガス排出量の約9.5パーセントを占めるとも言われ(参照:Food and Agriculture Organization「Livestock solutions for climate change」P3)、それらを減らすことが地球温暖化防止の喫緊の課題となっている今、AjiPro®-Lの価値は非常に高いものがあると言えるでしょう。

味の素社は、酪農における温室効果ガス排出量削減を目指して2023年3月から明治グループとの取り組みを進めています。この取り組みは、牛の餌に含まれる大豆粕などの天然タンパク源の量を減らしつつ、AjiPro®-Lで飼料中のアミノ酸バランスを整えるというもの。その結果、生乳の生産量を維持しながら温室効果ガス排出量と飼料コストを削減することができます。「大豆粕は高タンパクなので、大豆粕を減らすと餌に含まれるアミノ酸の量が全体的に減ります。それによって、各アミノ酸の余剰分を減らすことができますが、同時にリジンの量も減ってしまいます。そこで減ったリジンの量をAjiPro®-Lで補うのです」と久戸さんは言います。リジンを補うことでタンパク質の生成に使用されるアミノ酸の量は変わらず、生乳の生産量は以前と同じ水準を維持することができます。しかも、各アミノ酸の余剰分を減らせるので、一酸化二窒素の排出量も25%程度減らすことができるのです。

また、昨今の飼料価格高騰が生産者の経営を圧迫していますが、高タンパク・高価格な大豆粕の使用量を減らすことで飼料コストが下がり、生産者には経済的メリットがあります。

AjiPro®-Lから得られるリジンの効果は、肉牛においても同様である(鹿児島県の肉牛生産者でのAjiPro®-L給餌の様子)。

また、乳牛だけでなく肉牛にも、AjiPro®-Lを与えることで効果が得られています。肉牛の場合、生後27、28か月間で出荷されますが、肥育段階の餌にAjiPro®-Lを加えてリジンを補うことで、体内でタンパク質の生成に利用されるアミノ酸の量を増加させて、肉用牛の生産性を高めることが可能となり、1か月から2か月ほど早く出荷できるようになります。出荷時期が早まるということは、短縮された肥育期間中の肉牛のげっぷから出るメタンや糞尿から出る一酸化二窒素等の削減につながり、同時に飼料コスト削減にもつながります。

あるいは、通常と同じ期間肥育した場合は、肉牛がより大きな体になり、取れる枝肉の量も増えることになり、肉の重量あたりの温室効果ガス排出量の削減にもつながります。「2024年4月には、鹿児島県および県内の畜産関係団体等と、肉用牛・乳用牛飼養における温室効果ガス削減と産業振興を図るため連携協定を締結しました。AjiPro®-Lを活用したソリューションを鹿児島県・県内の畜産関係団体等と連携して県内に普及し、肉牛・乳牛起因の温室効果ガス排出削減と生産者の収益改善を図る取り組みの推進を今、鹿児島県の畜産事業者等と一緒に行っています」と、久戸さんは肉牛でのAjiPro®-Lを活用した取り組みも話してくれました。

J-クレジット制度を活用して経済価値を創出

味の素社は、従来は飼料会社や生産者にアプローチしてAjiPro®-Lを販売していましたが、現在ではAjiPro®-Lを活用した牛の生育に関わる温室効果ガス排出量削減と飼料コストの削減を両立するソリューションを、乳業・食肉メーカーや地方自治体等に提案しています。乳業・食肉メーカーは生産活動や調達活動の中で発生する温室効果ガスの排出削減を求められているので、「今できる温室効果ガス排出削減策を一緒に取り組んでいきたい」と望む企業も多いからです。そして、メーカーとつながりのある飼料会社や生産者を巻き込みながら、ソリューションの普及に努めています。

「単に温室効果ガスの排出削減に取り組みましょうとアプローチするだけではなく、削減された温室効果ガスを見える化しています。加えて明治グループ様との協業では、国のJ-クレジット制度を活用しています」と、久戸さんは今回の取り組みの特徴を次のように話します。

AjiPro®-Lを活用した温室効果ガスの削減が、経済価値化するまでの流れを示す相関図。環境配慮型の酪農が、収益化可能なビジネスモデルであることを明確に説明している。

AjiPro®-Lを活用した温室効果ガス削減手法はJ-クレジット制度に方法論として登録されており、味の素社はその方法論を使ったプロジェクトの運営を行っています。そこでは、まず、➀味の素社が明治グループにAjiPro®-Lを販売し、②明治グループはAjiPro®-Lを含む飼料を生産者に提供し、③~⑤生産者は削減できた温室効果ガスの価値を味の素社に譲渡。⑥味の素社はそれをJ-クレジット制度に申請してクレジット化。それを⑦明治グループが購入し、⑧購入代金に相当する額を生産者にインセンティブとして支払うとともに、⑨味の素社にはプロジェクト運営に関する手数料を支払う。そして、⑩明治グループは購入したクレジットで温室効果ガスの排出量をオフセットできるという、まさにwin-win-winの仕組みが成立するのです。「これら取り組みを進め、2030年までに牛1頭につき1トン、年間約100万トンのCO2排出削減を目指します。国内はもちろん、海外でも展開していきます」と、久戸さんは意気込みます。

地球の環境負荷軽減と経済価値の創出を両立させながら、味の素社が目指す食資源の持続可能性を実現させるため、AjiPro®-Lを活用した取り組みはますます本格化していきます。

関連リンク:
コストを下げながら環境課題解決に貢献?! 「AjiPro®-L」が生み出す社会価値と経済価値とは? | ストーリー | 味の素グループ

text by Kentaro Matsui


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