「強い農林水産業」と「美しく活力ある農山漁村」の実現に向け、農山漁村の地域資源を引き出すことで地域の活性化や所得向上を目的にした取組が日本各地でおこなわれています。農林水産省では、その優良な事例を「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」として選定し、全国へ発信しながら他地域への展開を図っています。第11回となる令和6年度は、「全国496件」の応募の中から「30件(27団体と3人)」が選定されました。その中から、今回紹介する特別賞は審査にあたった10名の有識者懇談会委員がそれぞれ選出し、命名した賞です。ソトコトオンラインでは、各受賞者を取材し、取組の内容やこれからの目標について伺いました。
環境教育賞
あん・まくどなるど委員(上智大学アイランドサスティナビリティ研究所所長)
NPO法人SDGs Spiral

「山」と「海」の課題を包括的に解決する『NPO法人SDGs Spiral』
私たち『NPO法人SDGs Spiral』は、北九州市における竹林整備・森林保全などのいわゆる「山」の課題と、流れ着く海洋ゴミに対処する「海」の課題を包括的に解決する活動に日夜取り組んでいます。『NPO法人SDGs Spiral』では、子どもと大人が楽しく学ぶことができる環境教育プロジェクトを通じて「山」と「海」の課題解決を推進し、資源の大切さや地球に対しての思いやりを育む活動をしています。
「SDGs万華鏡“KAGUYA”プロジェクト」が解決する課題
そうした活動の一環として今回、私たちが特別賞をいただいたのが「SDGs万華鏡“KAGUYA”プロジェクト」という取組です。「SDGs万華鏡“KAGUYA”プロジェクト」は、「山」と「海」の課題以外にも、例えば、北九州市が抱える諸課題(次世代教育・障害者の社会参加・少子高齢化)を包括的に解決するためのプロジェクトとして立ち上がりました。社会のさまざまな課題を解決するためには「一人の100歩ではなく、100人の一歩」が大切であると考え、これまで子どもから大人まで1500人を超える方々が活動に参加し、自分から動き出すことで、課題や困難を克服し、物事が変わっていくということを体感しています。

「SDGs万華鏡“KAGUYA”プロジェクト」でつながる大人と子どもたち
「SDGs万華鏡“KAGUYA”プロジェクト」では、大人と子どもがつながることで相互に良い影響を受けながら一緒に学び合っています。ワークショップを体験した子どもは、「万華鏡をつくることで、世界の誰かのためになるから嬉しい。私の宝物です。」と感想を述べるなど、多くの子どもたちがゴミからできた万華鏡を嬉しそうに見せ合い、大事に抱えて帰っていきます。また、活動を支援している大人たちも参加している子どもから学ぶことが多くあります。
今後の展開としては「SDGs万華鏡“KAGUYA”プロジェクト(KAGUYA1)」をさらに発展させ、「KAGUYA2:肢体不自由障害者や寝たきりの高齢者でも楽しめる投影式万華鏡」「KAGUYA3:不要となった竹や木材、海洋ゴミを使用した万華鏡型回収ボックス」「KAGUYA4:子どもの浴衣を回収し、次の子どもに循環するプロジェクト」「KAGUYA5:リサイクルした浴衣を世界中の子どもたちに届け、平和祭りの実施」と取り組んでいく予定です。
農村RMO賞
今村司委員(札幌テレビ放送(株) 取締役副社長)
吉縁起村協議会

デジタル技術を導入してもたらされた地域活性化
岡山県真庭市の『吉縁起村協議会』は、地域活動の停滞や高齢化する状況に対して農業者と非農業者が農村RMO※1を組織し、デジタル技術を導入しました。デジタル技術を導入することで地域活性化を図っています。今回その「クリエイティブ(創造する心)を大切に!」する活動が評価され、特別賞を受賞しました。
※1 Region Management Organization。複数の集落の機能を補完して、農用地保全活動や農業を核とした経済活動と併せて、生活支援等地域コミュニティの維持に資する取組を行う組織のこと。
『吉縁起村協議会』では、農村RMOの農地保全活動の一環で「リモコン草刈り機」を導入しました。その結果、高齢化と人手不足の解消が図られ、国交省の地域管理構想でGIS※2を活用して、中山間地域の20~30年後の将来設計に役立てています。
※2 Geographic Information System。位置に関する情報を管理・分析・表示する技術のこと。
様々な交流の活発化で地域に明るさが戻った
『吉縁起村協議会』による活動以前は、地域では小学校の廃校や郵便局の撤退などで住民には暗い気持ちが広がっていました。しかし『吉縁起村協議会』の構成4団体(吉縁起村/中山間直払い協定/デマンド交通/猟友会)の共同作業を通して人の交流が活発化。住民への活動報告として『吉縁起村新聞』を発行することで、徐々に地域社会のなかでコミュニケーションの機会が増えました。また大学生の地域活動への参加もあって、交流人口も増え、その一連の活動が報道されることで地域に明るい話題をもたらしています。

自立した経営を実現するためのスマートストア運営と特産品の販売活動実施
今後の展開としては、真庭市内主要地区(落合・久世・勝山)にデジタル管理によるスマートストア3店舗を新たに開設する計画があり、実際に2025年4月から本格的に稼働する予定です。また、これまで『吉縁起村協議会』で開発してきた特産品、翠王(サツマイモ)を使ったシリーズ食品(翠王茶・翠王ようかん・翠王アイス)やプリンセス・サリー(米)をどのように広報し着実な販売に結びつけていくか。また、デジタルスマートストア3店舗での販売活動でどのように利益を上げていくかが、協議会での最大の関心事になっています。自立した経営を続けていくためにも地域住民の理解と協力のもと、『吉縁起村協議会』の協議会組織を法人化し、地域社会のさらなる活性化に貢献してまいります。
美しい景観の保全に資する取組賞
織作峰子委員(大阪芸術大学教授、写真家)
服部農園有限会社

町と農業の新しい関わり方の構築を目指す
愛知県・大口町にある『服部農園有限会社』は、町と農業の新しい関わり方の構築を目指して日々活動しています。私たちの「新・地域循環! 町と人と農業のいい関係」に関する活動が、特別賞を今回受賞しました。
『服部農園有限会社』では、町内のゴミ拾いや耕作放棄地に花を咲かせる活動、米づくりを通じて農業や環境を学ぶ「田んぼの学校」など、地域貢献活動を積極的に行っています。
耕作放棄地にひまわりの花を咲かせたことがはじまり
平成30年に耕作放棄地にひまわりを咲かせたのが最初の取組でした。その後には同じ場所で、季節に応じてひまわりや菜の花、コスモスを咲かせました。しかし、程なくして世の中はコロナ禍に。外出自粛要請がなされるなかでも花畑を観るために地域の人が集まるようになりました。「密になっているから撤去しろ」という声も寄せられるほどでしたが、それ以上に寄せられたのが「ありがとう」の声でした。
以前よりも、町と農家が密接に関わり、これからの町の農業をどうしていくかを話す機会は増えたと思います。また町内における「服部農園」の認知度もかなり高くなったと感じます。

花が咲くと人が集まり笑顔になる
「大口町の花畑」は、毎年観に来る人が増えてひとつの観光名所になりました。また、花畑の種まきや、石拾いなどの整地作業には、ボランティアの人たちが集まってくれています。町のゴミ拾い活動は、毎月第3土曜日の朝6時から始まり、地域の農家が主催する呼びかけに毎回20名〜40名の方が、朝早くから集まります。
花畑をつくる作業(整地、種まき、石拾い)をイベント化し、地域の人たちの手を借りられないかと試験的に行ってきました。数年前からは花畑に関わる作業をバックアップしてくださる企業が運営をお手伝いしてくださり、ボランティアとして参加して下さる地域の人たちと本格的に取り組むことになりました。
デザイン&アート賞
田中里沙委員(事業構想大学院大学学長)
有限会社 玉谷製麺所

世界で玉谷製麺所でしか創れない食開発
山形県・西川町にある『有限会社 玉谷製麺所』は、「世界でここでしか創れない食開発」を目標にかかげ、持続可能な農業を応援するために活動をしています。今回、私たちの「山形で採れる食材をフル活用して全世界へ」に関する活動が特別賞を受賞しました。
平成26年に「雪結晶パスタ」を開発し、その後にお客様の声を反映したアートパスタの技術を構築しました。利用予定のないビーツペーストや摘果したラ・フランスなど、以前までは廃棄していた素材や山形県産の農産物をパスタに練り込み、日本の四季や山形の産物、歴史文化を象ったストーリー性のあるアートパスタを製造し販売しています。
きっかけはビーツペースト
最初のきっかけは「サクラパスタ」に使用した「ビーツペースト」でした。これは熱に強い赤色素材を探していた時、偶然にも農家さんから「なんとかして欲しい」と持ち込まれた素材でした。
その後、地域にはまだまだ「もったいない」が隠れていると思い、サクラパスタの恩返しとして、農家さんが少しでも喜ぶ素材活用を考え続けています。「将棋駒パスタ」に入っている摘果したラ・フランスは、農家さんが喜んで協力をしてくれるおかげで事業としての成長を感じています。

日本の伝統的な食文化に寄り添う新たなアートパスタの開発へ
私たちは地域ならではの素材をパスタに使用し、それがなぜパスタに練り込まれるまでに至ったのか、そのストーリー性を大切にします。地域からの応援を得ながら、お客様に共感してもらえる食づくりをしています。今後の展開としては、皆さんに喜ばれ必要とされる楽しいパスタを創り出すため、アートパスタの技術を使って日本の伝統的な食文化に寄り添う、日本ならではの新たな形状のパスタを開発しようと、地域の別業種の方と話を進めています。
人が輝くで賞
永島敏行委員(俳優、(有)青空市場代表取締役)
株式会社なかせ農園

熊本地震被災後、事業の転換と集中、そして農福連携
熊本県・大津町にある『株式会社なかせ農園』は、人材不足が進む地域農業での働き手の確保のため、農福連携による農業を実行しています。今回その農福連携が「創造的復興と経営の選択肢としての農福連携」と評価され、特別賞を受賞しました。
『株式会社なかせ農園』では「社会貢献としてではなく、経営の選択肢としての農福連携」を一つのビジョンに掲げて事業を行っています。特産品であるサツマイモに特化した農福連携では、採苗、除草、選果、洗果、出荷調整など幅広い業務を就労継続支援 A 型事業所の利用者が担当しており、作業の様子もSNS等で発信しています。
事業の農福連携を通して起きたイメージの変化
就労継続支援 A 型事業所の利用者に業務をお願いするなかで起きたいちばん大きな変化は「イメージの変化」でした。熊本地震での大きな被災を経験し、経営規模拡大に伴い家族以外の人材の選択肢として農福連携を模索するなか、社員として初めて受け入れたスタッフと出会い、それまで持っていたイメージが変わりました。仕事に対して真面目で、丁寧で、朗らかな彼とのコミュニケーションを重ねるなかで、怖いと思っていたイメージは全くなくなりました。施設利用者の方も真面目で素直な方が多く、農園側のスタッフにも良い影響を受けています。

地域での農福連携を加速するための仕組みづくりを模索
今後は地域での農福連携の動きを加速していくために、自社での就労継続支援施設の設立予定です。地域農業者の担い手が減る現状に変化を生むためにも、地域を支える若手の中核農業経営体へと入り、彼らの持続的な経営を支えてくれるような仕組みを考えています。もともと地域のさつまいもの魅力を県内外に伝えることを目的として、若手たちで「二代目イモセガレブラザーズ(現:農事組合イモセガレ)」というチームを組んで活動しています。まずは彼らのもとで特産品のさつまいもに特化した農福連携の横展開ができればと考えています。
農福連携で福祉側の参入ハードルになっている農業者側の「イメージ」や「思い込み」を変化させるきっかけづくりをしていきます。