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サスティナビリティ

コーヒー1杯からSDGsを始めよう。生産者と消費者がフェアな世界を目指して

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コーヒー伝来の地・長崎で、フェアトレードなコーヒーを提供するカリオモンズコーヒーロースター。自ら産地へと赴き、生産者と直接言葉を交わし合う彼らが伝えたい「フェアな世界」が、SDGsのための道筋を示してくれる。

目次

コーヒー伝来の地・長崎でフェアトレードを実践

あなたがコーヒーを飲みたくなるのはいつだろう。
朝の目覚めの1杯?ドライブのお供に?午後の憩いのひと時?
僕たちの毎日の暮らしに欠かせないコーヒー。実は、日本に初めて伝来した地は長崎なのだ。海外から長崎に伝わった多様な文化の一つも、今では日本中で多くの人が親しむ日常の一部として溶け込んでいる。

さて、そんなコーヒーは一体どこで作られているのか?どんな旅路を辿って僕たちの手元にやって来ているのだろう?これだけ毎日飲んでいるのに、僕たちはコーヒーのことをあまり詳しくは知らない。

カリオモンズ時津店、伊藤さん

長崎でスペシャルティコーヒーの焙煎・挽き売り・カフェを営む「カリオモンズコーヒーロースター」は、毎年コーヒーの産地へ足を運び、仕入れてきた美味しいコーヒーと共に現地の様子をお客様に情報提供する。年に1回、産地で直接農家さんとコミュニケーションを交わしながら買い付けをする彼ら。品質に対する正当な評価を以って、市場価格に捉われない対価で農家さんと取引を行う姿は、長崎でも多くの注目を集めている。

僕たちが淹れるコーヒーでは、誰も不幸な人を作らない。今も昔も変わらない目標です
そう教えてくれるのは代表の伊藤寛之さん。1杯のコーヒーを通して、伊藤さん達が僕らに伝えたいこととは何だろうか。

伊藤さん、抽出中

伊藤さん達が築いてきた、コーヒー生産者とのリレーションシップ

伊藤さんがコーヒーの海外の産地へ足を運び出したのは2011年から。初めて降り立ったのは中米ニカラグア。それからニカラグアとエルサルバドルの2カ国、毎年同じ産地に通い続けた。2016年からはホンジュラスも加わり、3週間程度の滞在期間中に3ヶ国の農家さんの元をめぐるような動きを続けている。

中米の風景

毎年決まって、収穫期の終盤を迎える3〜4月に買い付けの旅に出る。しかし、2011年から続けてきた産地への旅、10年目となる2020年は新型コロナウイルスの影響で断念せざるをえなかった。ということで、今年は産地の農家さんにお任せすることに。

伊藤さん「あちらも僕達が何をどれだけ欲しいかは分かってくれていますし、農家さん自身が日本の僕達に何を飲ませたいか、ということも含めて、お任せでサンプルを送ってもらいました。こちらで届いたものをテイスティングして、結果は全てOK。今まで築いてきたリレーションシップに今年は助けられましたね。

伊藤さんと、産地の農家さんと
産地の農家さんと

そう語る伊藤さんも、もちろんオンラインで完結させることは本意ではない。本当は彼らに直接会ってコミュニケーションを取ることに意味があり、ビジネスの取引だけの関係性に留まらない信頼関係をおざなりにはしたくなかった。今では日常的にFacebookなどで連絡が取れるため、ささやかなやり取りは可能だが、彼らに会いに行きたい気持ちは募るばかりだ。

そのように親交が深まっていたのは、伊藤さんが徐々に農家さん達との向き合い方を見つめ直し、共に過ごす時間を大切にしてきたから。最初は小さなカフェオーナーが集まり、グループでまとまって買い付けを行なっていた。団体で動くということや、ビジネスとして取引先に迷惑をかけるわけにもいかないので、滞在期間中のスケジュールは忙しない。およそ2週間程度の日数に用件を詰め込んで動き回っていた。

コーヒー農家さんの働く様子
現地で見る、コーヒー農家さん達の働く風景

それから、段々と皆のお店が成長していき、各人の買い付けの量も十分なものになっていった。やがて、個人的に行きたい場所があっても、皆のスケジュールに合わせないといけない…というケースも起きてくる。結果、グループでの買い付けは2016年で解散、2017年からは各人が単独で買い付けをするように。伊藤さんも単独で産地へ向かうようになった。

グループで産地をめぐる最後の年、たまたまある農家さんから言われた一言が心に残った。
せっかく自分の国のことを紹介したり、知って欲しいことがあるのに、あなた達はすぐに日本へ帰ってしまう。ゆっくり案内する時間がない

この言葉が胸に響いた。伊藤さんが自分だけで行くようになってからは、滞在期間を延ばし、スケジュールは過ごし方にゆとりを持たせるように。各国に1日は必ずフリーな日を作った。何も予定がない日は、農家さんと一緒に遊びに出かけたり、家のテラスで座って話したり。同じ時間を過ごす、共有することを大切にしている。親戚に会いに行くような気持ちで彼らとの交流を楽しみにしているようだ。

農家さんと過ごす時間

長崎に帰って来たら、伊藤さんや同行したスタッフが農園レポートにまとめる。店舗を訪れるお客様に読んでもらうのはもちろん、後から自分たちが読み返すこともしばしば。産地から帰って来た直後は熱を帯びているが、やはり日常の中でその熱は落ち着いてくる。現地で感じたこと、自分たちが長崎の人に伝えたいことを再確認し、モチベーションを保つことにも役立っているようだ。それもあって、毎年産地に直接足を運んでは刺激を受けに行っているという意味合いもある。産地への買い付けの旅は、カリオモンズコーヒーの大切な原点回帰として毎日のコーヒーの味わいに生かされている。

スタッフ制作の農園レポート
スタッフ手作りの農園レポート。事細かに現地での様子や感じたことをお客様に伝える

長崎のまちで広げたい、コーヒーの作り手と買い手のフェアな関係性

カリオモンズコーヒー長崎店の始まり

2020年4月22日。カリオモンズコーヒーは、時津と大村という長崎市中心部とは少し離れた場所に2店舗構えていたが、そのうち大村店を閉店し、新たに長崎店をオープンさせた。旅を続けて11年、どうしてこのタイミングだったのだろうか?

カリオモンズコーヒー長崎店の前で
カリオモンズコーヒー長崎店の前で

 

伊藤さん「数年前から長崎市内にお店を出したい気持ちはずっとありました。チャンスさえあればいつでも、というくらい。時津店だけでもずっと継続することは出来ました。だけれど、アクセスの問題でどうしても県外の方が来店するのが難しい。長崎に来て、美味しいコーヒーを飲んで帰ってもらいたい。長崎のまちの為に貢献したいなと考えていました

今まで培ってきたものを、長崎のまちに還元したい。伊藤さんは、数年前からそのような感情が芽生え始めた。10年程お店をやってこれたなぁと、ふと振り返ってみた時。色々な人が繋いでくれたり、紹介してくれたおかげで、たくさんのお客様が来てくれた。結局は、自分も社会に生かされているんだと気付いたのだ。

じゃあ逆に僕は長崎のまちの為に何ができてる?そう考えた時、実感として何も無かった。今までそういう感情を抱いたことが無かったが、まちに関わる多様な人たちと触れ合う中で、今まで培った力を社会にどう生かせばいいのかを学んでいる最中だという。そういった心境の変化から出した答えの中で一番の形が、長崎店としての新たなスタートであった。

長崎というまちで、改めて伝えていきたいことは?

コーヒーのサプライチェーンの中で、生産者はとてもアンフェアであることを認識して欲しいと伊藤さんは主張する。現状として、これは構図的に致し方のないことであり、ネガティブに捉える必要はない。農家さんは初めからそういった状況だった為に、もしかしたら現状に違和感を覚えることもないのかもしれない。しかし、少なくともフェアな関係性であって欲しい。伊藤さんはそのように願う。

フェアな関係性とは、決してお金だけの話をしているわけではない。そうではなく、お互いにお互いがいないと成立しないという、相互依存の関係であることを認識するということだ。現状の構図では、お金を払う方が偉いような立場の差が生じているが、産地の人が作らないと僕たちは朝のコーヒー1杯を飲むこともできない。作り手がいないとコーヒーにはありつけないし、消費者がいないと作り手も続ける意味がないのだ。この生産者と消費者が存在を肯定し合う関係性が成立して初めて、フェアな世界になる。伊藤さんは、この実現のためには時間がかかることも、もちろん承知している。

コーヒーを淹れる

まずは自分たちのコーヒーで不幸な人を作らない
それがカリオモンズコーヒーの目標。この目標や、フェアな世界が小さくとも自分たちの中で実現できたのなら、それをもう少し広げていくことができるのではないだろうか?伊藤さんは、そう信じて長崎のまちで信念を発信している。

伊藤さん「想いを持って行動するためには、まずは小さく試していかないといけない。僕たちには、そんな実践の場がお店としてあったことは、幸せなことでした

時津店の内観

カリオモンズコーヒーは市場価格を使わずに、直接買い付けをする。実際には最低でも3倍くらいの価格で買い付けをしているのだという。商品の品質を見極め、毎日の暮らしぶりや見えない努力を評価するためにも、顔を突き合わせてのコミュニケーションが肝要なのだ。そんなことを毎年繰り返していると、農家さんから「この新しい機械を買ったんだ!」と言って見せてくれる、なんてことも。素直に嬉しくもあり、良い循環が生まれ始めている兆候でもある。

伊藤さんと農家さん、会話をする様子

良い機械で農家さんの生産性やコーヒーの品質が向上すると、その恩恵を授かれるのは結局僕たちだ。もっと美味しいコーヒーが作られるようになり、コーヒーの消費者はもっと楽しむことができ、豊かになっていく。伊藤さんは、カリオモンズコーヒーのビジネスが安定してきたからこそ、社会に還元しようという感情が芽生えてきた。生産者も同様に、ゆとりが生まれることで雇用者の労働環境を改善したり、畑の環境を良くしたりなど、自然とサステナビリティの循環に還元されていく。

この10年間で、当初から取引があったが、今では世界的に有名になった農家さんもいる。しかし、世界中からバイヤーが買い付けに来るようになった今でも、その農家さんはカリオモンズコーヒー用に豆を確保しておいてくれる。たとえ取引量は小さくてもだ。お店でコーヒーを買うことが農家さんへの応援になることは間違いない。

伊藤さん「ただコーヒーが美味しいから。それだけでも、もちろん構いません。でもそれが結果的に社会への貢献になる。その道筋を作り、橋渡しをするのは僕たちの仕事です

コーヒーを淹れる伊藤さん

果てしない距離の先にあって僕たちの手が届かなかった場所に、カリオモンズコーヒーは橋を架けてくれる。「美味しかった」という声を彼らが生産者の元へ届けてくれる。それでは僕たちは、遠い世界の反対側に、今日も美味しいコーヒーを作ってくれる作り手が確かにいることを想像し、自分に何ができるのかを考えてみよう。コーヒー1杯から始める、SDGsの一歩目を踏み出してみて。

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