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サスティナビリティ

連載 | みんなのサス活

地元中高生と共創10年。 環境を「かんきょう」と柔らかくするハマの第一人者

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「未来を変えるプロジェクト」を続けてきたEARTH MALLでは、日常の中でその人らしく、小さくても地道に続けていけるサステナビリティに繋がるアクションを「サス活」と定義しました。会話の中から、誰もが始められる「サス活」アクションのヒントを探していきます。

ごみやリサイクルの課題と向き合い、中高生が環境問題を考え、写真やダンス、作品作りや音楽などで自己表現する場を提供してきた武松さん。2010年から横浜市内で開催する秋の文化祭イベントに向けてフォトコンテスト、ファッションショー、農やごみの現場の体験ツアーなどを運営し、成功を収める、若い世代もなかなか持つことが出来ない情熱です。環境を「かんきょう」と柔らかく伝え、中高生の共創を続ける原動力の源泉はどこにあるのでしょうか。拠点である横浜の街文化と武松さんの「サス活」に編集部が迫ります。 (聞き手・取材:EARTH MALL編集部 小田部巧/腰塚安菜)

 

横浜に暮らし半世紀。変化し続ける大都市の風景

EM 腰塚:横浜に帰る度、武松さんの足元の中華街まで出かけることが多かったですが、約半年、帰省が出来なかった初めての経験でした。久しぶりに横浜に来れたこともあり、またじっくりお話をお聞かせいただきたいと思います。

武松さん:お久しぶりです。EARTH MALLのご活動については拝見していて、サステナビリティについての考え方とか、こちらも気になっていましたよ。
 

EM小田部:もともと神奈川で育ってきたので、横浜は身近な街ですが、今日は賑わいが戻ってきたのを感じます。そういえば、桜木町にロープウェーが出来るのも、もうまもなくですね。
 

EM 腰塚:中高6年間と大学時代を過ごした「地元民」ですが、来るたびに横浜やみなとみらい周辺の風景が大きく変わっていて、開発ぶりに戸惑いを感じます。

武松さん:ははは。もしもIRが来たら、さすがに引っ越さないとな・・・とかね。でも今日は横浜の街文化や都市文化、最近の課題について語っていたら時間が足りなくなってしまいますね。よろしくお願いします。
 


写真、ダンス、そして音楽へ。地域密着型で中高生と共創

中高生との「かんきょう文化祭」代表はライフワーク

EM小田部:例年秋は地域密着型で環境イベントに取り組まれていると伺っていますが、いつもならもうすぐ企画や運営で忙しくなる頃でしょうか。

武松さん:そうですね。11月初旬に横浜ワールドポーターズで行っていた「かんきょう文化祭」という取り組みですね。かんきょうデザインプロジェクトの活動は2010年から継続して、かれこれ10年がたちました。当面は感染症対策が欠かせない活動となり、例年の規模で開催が出来なくなりそうですが・・・。

EM小田部:でも続いていることってすごいですよね。気づいたら10年経っちゃったという感じですか。

武松さん:小さくても持続可能な形で続けていきたいと思います。これまでたくさんの方に支えていただきながら、続けることができていますので、本当にありがたいことですね。
あとは(イベントで)人をむげに多く集めないのも長く続けられている秘訣かなと思います。
 

秋の文化祭シーズン真っただ中に行ってきた「かんきょう文化祭」
秋の文化祭シーズン真っただ中に行ってきた「かんきょう文化祭」

 

武松さん:「かんきょう文化祭」は腰塚さんには見ていただいているから、小田部さんに「ここは」という見どころを紹介するなら、中高生の写真を公募してアマチュアで表彰する取り組みに始まったのでフォトコンテストかな。今年も10月9日に公募テーマを発表します。そして、毎回取材に来られる方も多い「USEDリメイクファッションショー」。毎年モデルもデザイナーも主役が中高生となり、発表の機会を作っています。

EM 腰塚:ファッションショーは、横浜ワールドポーターズ特設会場で過去3年見てきました。女の子たちがリメイクの服を着てチアダンスを踊った年もあれば、バレエスクールの子たちが踊りを披露した年もあるんです。
 

EM小田部:このショーに参加している女子中高生さんはどういうモチベーションで参加するのでしょう。やっぱり、自分たちの関心事からでしょうか。

 

武松さん:家庭科の先生経由で服作りをしている子とかモチベーションの高い学生さんとつながってこのプロジェクトを彼女らに紹介してもらって実現することが多いです。年ごとに組む学校や団体も違ってきますが、これまで7~9組の学校と組みましたかね。
 

EM 腰塚:作る女の子と、踊る女の子がイベントで繋がるところも素敵な化学反応だと思います。
 

EM小田部:地産地消ツアーなどもされているんですね。こうやって環境体験の場をたくさん提供されていますが、中高生との共創を軸にした発起点は、どこにあったのでしょうか?
 

EM 腰塚:私も気になります。文化祭のサイクルを10回も繰り返す原動力は若者顔負けですよね。

武松さん: 2007年頃は少し悶々と考えていた時もありましたが、2010年の当初は「誰もやっていないフォトコンテストをとりあえずやってみよう!」と始めたので、そんなに前のめりではなかったんですよ(笑)。でも今も変わらず、中高生には環境の一通り全方位のことを体験して、情報発信してほしいと思っています。

一般生活者による「組写」フォトコンテストの審査
「組写(くみしゃ)」とメッセージで作品を審査する一般参加者

EM 腰塚:イベントごとに若い世代を育成して、環境人材を輩出しているという実感はありますか?

武松さん:「教えている、育てている」という実感よりも「場を提供し、伝えている」という意識で臨んでいますね。自分がちょっとアナーキー(※)な考え方もあるもので、この中からアナーキーな人が出てくることも期待しています(笑)。
※無政府主義、転じてクレイジーで我が道を行くという意味
 

どんなに延期しても、小規模でも開催することを選択

8月23日、中区山下町で行われた「対バンやろうぜ!」
8月23日、中区山下町で行われた「対バンやろうぜ!」

EM 腰塚:今年ならではのイベントは音楽×環境で伝える「対バンやろうぜ!」でしたよね。年初に企画構想を伺っていましたが、3月が中止になり、6月も延期になり、8月末にようやく開催。裏では大変なご苦労があったかと思います。

武松さん:そうですね。3月に開催できていれば10組出演予定でしたが、延期・再延期の末、3組で開催となりました。結果的に総勢20人くらいの規模で行いましたが、アンケートを必ず取って、やっぱり若い世代の生き生きとした表情や、通りすがりの人からいただいて取りまとめたアンケートからの声はリアルで「どんなことを一般の人が感じたか」を大切に、次回の開催につなげていきます。音楽や言葉の持つ「共感力」や「伝達力」は常々自分が実感し、大切にしてきたものでもあったし、環境問題への窓口をひとつ増やしたかったので、今回は音楽を若い世代の環境課題への窓口に据えたんです。

 


自分の地元の現状から向き合うごみ、脱プラ課題

「脱プラ」アクションはごみ捨てモラルの改善から

EM腰塚:武松さんがお持ちのバックグラウンドで、素通りできないのが「ごみ・リサイクル」というテーマ。今年の前半の自粛期間の家庭ごみの増加で、世間でごみやプラスチックをめぐる話題も多くなりました。
 

EM小田部:特にレジ袋の有料化ですよね。そこでようやく意識が向いたなと感じていて。分別しても、結局事業者さん側で “よきに計らって”もらっているというか、まとめて燃やされていたとは。
 

EM腰塚:コロナ禍の横浜中華街はどうでしたか?

武松さん: 5月前後、中華街の地元はお店がやっていないことでごみは減ったかな。詳しく調べていないからあくまで印象ですが、3割くらい減ったかな?という感じです。あと観光客が減ったのでポイ捨ても減ったね。

EM腰塚:平常時の中華街を知っているだけに意外でしたが、改めて聞いて納得です。世間的には家庭ごみは増えていた一方で、観光地では減っていたんですね。

武松さん:そもそも税金でごみが処理されているということ(※)、生活者は意識しない部分ですよね。※一般廃棄物を指す
 

EM腰塚:私はごみ回収業者さんの工場での仕分けの苦労話を聞いたことがあり、自分のケアレスさに気づきました。外出制限中から、集合住宅の集積場でごみを分別する時には武松さんの顔が思い出されます(笑)。

武松さん:感染対策、衛生面の懸念から、使い捨ての支持がどうしても上がりましたね。世界同時多発的なパンデミックはごみやリサイクルの世界も変えてしまいました。

EM小田部:オンライン注文も増えていますが、僕の気づきは、紙の包材で内面がプラのクッションになっているものがよく届くこと。分別しにくいので、大体の人はまとめて「燃えるごみ」行きになっているのでは。
 

EM腰塚:人から人へ、分別の徹底を呼び掛けてもどうも限界を感じてしまうし、個人の努力は無駄なの?と無力感すらあります。

武松さん:いえ、個人の努力がベースにあるから、国や自治体の環境政策が機能するのだと思いますよ。生活者は、まずは「ごみ」をちゃんと捨てる。これに尽きると思います。ごみはひとりひとりから出ますから、個人が努力を放棄したら大変なことになっちゃいます。

EM小田部:最近も畑に行くと、いまだに「ポイ捨て」があることに驚きます・・・。道路脇の畑の端のところにレジ袋や弁当ガラが散乱しているなど。
 

EM腰塚:「ごみ捨てモラル」の方が重要かもしれませんね。小売企業の方と交流したところ、例えばコンビニ企業の担当者の方に、ごみ問題の課題意識が大きいという印象でした。

武松さん:若い世代にコンビニは身近だから、企業が啓発する意義はありますよね。それと、当たり前にもらっているレジ袋などの「当たり前」が中学生と大人では違う。例えば、「リユースびん」が全盛だった時代を知っているのは、50代以上ですから。

EM腰塚:コロナ流行前、環境団体や環境啓発イベントでは回収して使うリユースびんやカップも普及したようですが、最近は衛生面も気にするかもしれません。3月頃、ベーカリーのパンが急に全て透明の袋で個包装になった光景にも違和感がありましたが、「衛生と環境」、それぞれの問題が拮抗して難しい時代ですね。

客足が減っても、中華街をきれいに保ちたい。

客足が減っても中華街をきれいに保ちたい。街への思いやりの表れ
中華街のごみ拾いは、街への敬意の表れ

足もとの「かんきょう」をみているか??

武松さん:先ほどプラごみの話が出てきましたが、僕が廃棄物問題に関していつも伝えてきたのは「入口あって出口なし」(つまり、アイデアや法律はたくさんあるけど実際の解決方法はわずか)。ニュースや近隣の環境を見ていて、何か疑問を抱いた時など啓発しようとしているのが、このブログです(iPadの画面を見せながら)。5月は「感染防止と分別」という題で、あまり認識されていない在宅医療廃棄物について書きました。

EM小田部:商業施設から出るものとか、産業廃棄物でも「何ごみに」なるのか知られていないものもありますよね。
 

EM腰塚:生活者も、廃棄物を処理する事業者さんの気持ちに立って共感しなければ、ごみの廃棄削減も脱プラも、本当の意味で意義を感じられない気がします。どうすれば、様々な視点に共感できるようになるのでしょうか。

武松さん:家庭で分別された資源物も次工程の選別工場で異物を取り除かれた後に、再生原料としてメーカに持ち込まれます。分別で大切なことは、新しい材料をつくりだすこと、次の人のことを考えて行うこと、なんです。「まちづくり」だってそうです。

再開発する時、市として地図の上では「住みよいまちづくり」の理想を形づくることができるけど、そこに住んでいる人たちの気持ちも考えること。SDGsの目標17に書かれる「パートナーシップ」は、そうした理想と矛盾があることを承知の上で(開発を)やっていかなきゃいけないですよね。・・・まちって「作」っちゃ、いけないんじゃないかなぁ。そろそろ「まちづくり」以外に何か別の言葉をつくらなきゃって思うんだけどね。

EM小田部:まちづくりに、新しい言葉の開発が必要。納得できますね。それこそ僕らの仕事ではないでしょうか。

 


武松さんの「サス活」とは?

武松さんのサス活

文化祭実行委員長から、中華街の美化委員まで。地球とごみを慮る、武松さんのサス活

初めて出会った武松さんは、若い世代と「×環境」で共創するイベントの発起人であり、ハマの文化に通じる”文化祭実行委員長”の顔。中高生やその親御さん、先生方をはじめ、中華街近隣の方からも慕われる存在だ。今回の再会で、コロナ禍以降のまちの足元を納めた写真、手まめに綴る日記などを見せていただき、中華街の”美化委員”としての顔も見ることが出来た。さらに話を紐解いていくと、再生資源事業を営む家庭に生まれ育ち、再開発による横浜のスクラップアンドビルドを見つめてきた武松さん。ごみ処理やリサイクルの実務知識に通じる事業者視点と、中華街に長年暮らす一人の生活者視点の両方を併せ持っている。

「環境問題にまつわる言葉は難解で、広く伝わらない」と唱える武松さんは、文化祭のテーマ設定で新しい言語化にもアプローチしている。

地球環境を考え、社会課題の解決に向かうヒントに、かんきょうデザインプロジェクトが活動当初から持つ「無関心を関心へ繋ぐ」想い、ごみは、その『無関心』が形になったものであるといった独自のことばで若い世代へ伝えてきた。

私も、日々働くなかで言葉の力を意識し、SDGsの教育現場への浸透、生活者の意識向上の一方で、難解なものにとどまってしまう〈環境〉まわりの表現の改善にやりがいを感じてきた。グローバルな課題であることを意識しながらも、余計なカタカナや英語を使わず、より平易な “地球愛” を切り口に伝えようする武松さんとは同じ方向を向いていると感じている。
 

横浜の街の風景は刻々と変わり、限りある資源や自然風景の存在を意識せざるを得なくなってきた。ここまで10年の環境啓発活動を振り返りながら「変化に対応するのではなく、変化を起こす主体者になること」を提案する武松さんの原点に「怒り」の感情も見え隠れするが、否定的なものではなく「批判も愛情のうち」と捉えられる温かさだ。

武松さんが次の10年も鋭い問題意識を持ち、中華街拠点のごみ拾いを続けていけるよう応援し、安心して移動が出来るようになった頃、ふるさとの横浜にまたいつでも帰ってきたい。

 

アフターショット

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