2020年10月23日(金)〜25日(日)にかけて、第7回宗像国際環境会議が開催されました。40名以上の登壇者によって、濃密な議論が交わされたこの3日間。あなたは、地球環境問題についてどう考えますか?
日本から世界規模で考える、持続可能な社会とは。
玄界灘に面し、世界遺産「神宿る島」沖ノ島を有する福岡県宗像市で、日本の自然環境について考える「宗像国際環境会議」。第7回目を迎える今年は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、現地での参加を制限し、初のオンライン配信での開催となりました。
近年、大規模な災害をもたらす豪雨や台風が頻発し、日本でも異常気象が続いています。その原因が地球温暖化による海水温度の上昇であることは、ニュースなどでもよく耳にするようになりました。このように私たちの生活にも環境問題の深刻な影響が迫っています。今、どんなことが起きているのか? そして、これから自然とどのように共存していくべきなのか? 登壇者たちの発表や議論を通して、地球の未来について考えました。
今年の宗像国際環境会議のテーマは「常若〜自然の摂理と生命の循環〜」。この全体テーマをもとに、環境省事務次官の中井徳太郎氏や東京大学名誉教授の黒田玲子氏をはじめとして、年代や国籍、性別もさまざまな著名人、知識人が登壇し、プレゼンテーションや対談・鼎談形式で多角的な視点による議論が交わされました。
そんな濃密な3日間のなかで、最終日の様子をお届けします。
深刻な環境問題の実態と、日本の自然観。
すでに2日間にわたり、「自然の摂理と生命の循環」や「社会貢献事業 エコロジーとエコノミーの融合」といったさまざまなテーマのなかで、日本古来の自然観や経済的な視点を交えながら、自然環境やその保全について多様な議論が交わされてきました。
3日目となるこの日は全体で8つのテーマが設定され、環境問題の影響や地球温暖化の実態、そして自然崇拝の信仰が世界遺産にもなったこの宗像の地から、自然と共存する日本の精神性を世界へ伝えていくことの意義やその必要性を発信した一日となりました。
特に衝撃的だったのは、私たちの身に迫る、地球温暖化や環境汚染の深刻な影響です。この日の中盤に、3つ立て続けに映像を交えながらプレゼンテーションされた「牙を剥く温暖化 迫る生活危機?」(KBC九州朝日放送 報道情報局解説委員長 臼井賢一郎氏)、「呼吸で体内に? 大気中のプラスチック最新研究」(RKB毎日放送 報道部記者 後藤弘之氏)、「コロナ禍からのグリーンリカバリーとライフスタイルチェンジ」(NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー 堅達京子氏)は、地球温暖化やマイクロプラスチックの問題について、それぞれ私たちの生活のすぐそばまで迫っている危機を切実に伝えるものでした。
各プレゼンテーションのなかでは、豪雨被害に遭った熊本県球磨村や漁獲量の減少に苦しむ漁業関係者、そしてマイクロプラスチックを研究する大学教授など、各関係者への取材した映像を交えながら、地球温暖化やマイクロプラスチックが私たちの生活にもたらす深刻な影響を鮮明に伝えました。こうした地球温暖化や環境汚染による影響は数年後にやってくるものではなく、すでに私たちの生活のなかで影響が出始めているのです。そうした映像資料から、一刻も早くそれらの対策や改善に取り組む必要があることを訴えかけました。
そして同時に、持続可能な社会の実現に向け、続々と新たな取り組みをスタートさせる企業の様子も映像で紹介され、自然環境改善のためには、私たち消費者一人ひとりの意識が大企業や世の中を動かすのだというメッセージも印象的でした。
「常若」を世界へ。
また、この会議の全体テーマにもなっている「常若」ということばに込められた思想についてもさまざまな議論が交わされました。「常若」とは神道のことばで、「常に若々しくいること」という意味です。自然界の物質は常に循環し、新たな生命を宿します。そのように、再生することで若々しくいることを「常若」ということばで表現するのです。
こうした思想は、現代の「サステナビリティ」や「持続可能な社会」といったことばにも通ずるものがあります。宗像国際環境会議では、古来から自然を崇拝し、自然とともに生きる方法を考え続けてきた歴史ある日本の心を世界へ発信すべく、この「常若」をテーマに掲げています。
今年の宗像国際環境会議のなかでは、「海の神殿『宗像』山の神殿『富士山』」と題し、そうした自然崇拝の歴史を持つ世界遺産、「沖ノ島」を有する宗像と「富士山」を有する静岡の両県知事が登壇し、互いに手を取り合い、両遺産の環境保全活動に関して連携していくことを確認しました。これまでそうした日本の世界遺産同士をつなぐネットワークはなく、今回が初めての試みとなりました。
さらに、国際的な視点を交えた「世界遺産が抱える地球環境問題と危機遺産」では、ミクロネシア連邦特命全権大使のジョン・フリッツ氏が登場。世界遺産と同時に、その存続が危機的状況にあるという危機遺産にも登録された「ナン・マドール」についてや、ミクロネシア政府が取り決めた「使い捨てのプラスチック製品の輸入禁止」の法律などが紹介され、一国では解決できないという環境問題の本質について触れながら、問題解決へ向けて世界で団結する必要性を訴えました。
そして女優の平祐奈さんや、モデルの西内ひろさんも登壇した「地球規模の常若社会」では、「常若」ということばが持つ日本人の精神性をどのように世界へ発信していくべきか、ということが議論されました。日本らしい伝統工芸やアニメなどの日本文化とともに世界へ発信するといったアイデアに加えて、古来から自然崇拝の思想を持つ日本が、自然との共存が必要とされるポストコロナの世界をリードしていく意義を伝えました。
水産業や観光業からの視点も。
このほかにも、「気候変動と海洋問題 今、海の中で何が起こっているのか」では、海の環境変化や漁獲量減少などの問題に対し、さまざまな事例や現在の取り組みが紹介された一方で、理論的で正確な原因を特定する重要性と、この宗像国際環境会議全体に水産業からの視点が欠如していることが指摘されるなど、鋭い議論がなれさました。
また、星野リゾート代表取締役社長・星野佳路氏が登壇した「サスティナブル・ツーリズムとレジリエントな環境づくり」では、これまで星野リゾートとして取り組んできた、脱化石燃料やフードロス削減の取組みとそこに至るまでの思想や経緯を紹介しつつ、観光の観点から世界遺産を守っていくために、ガイド役となるインタープリターの重要性や、資金源としての観光と環境保全を両立する必要性が示されました。
3日間の集大成、宗像宣言の採択。
この日の全プログラムの最後には、福岡県知事と静岡県知事による「世界遺産共同声明」や、3日間の集大成として参加者全員による「宗像宣言」が採択され、宗像の地から、自然との共生や持続可能な社会を構築することが宣言されました。
このあとオンラインでは、「常若な海をめざして 海ごみ問題徹底討論」と題し、九州で環境保全の活動に取り組む市民団体や漁業関係者、学生団体のメンバーによる討論会のオンライン配信や、昨年出雲大社で行われたきゃりーぱみゅぱみゅ『音ノ国ライブ〜まぼろしのユートピア MUNAKATA ECO FES物語』のライブ映像がYouTubeで無料配信されるなど、盛りだくさんの内容で、今年の宗像国際環境会議は閉幕しました。
この10年が正念場。
いきなり“地球温暖化”や“環境汚染”と言われても、ピンとこない人は多いと思います。自分たちの生活とは関係ない、あるいは、自分たちではどうしようもない問題だと感じている人はたくさんいるはずです。しかし、この宗像国際環境会議では、刻一刻を争う深刻な自然環境の実態が伝えられました。「このままの状況が続けば、あと数十年でこんな被害があります」と言われてきたことも、今もうすでに現実になっているものもあります。
NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー 堅達京子氏は、自身のプレゼンテーションのなかで「この10年が正念場」と語りました。100年に一度と言われるレベルの豪雨災害の頻発や気温・海水温の上昇など、環境の変化に適応していくと同時に、私たちは経済活動と環境保全を両立させる仕組みづくりを早急に目指さなければなりません。
そしてそれは、誰かひとりが取り組んで変わることではなく、自然環境を考える人が増えなければ、世の中は動きません。とはいえ、全員が100%の力で環境問題を考えることは難しいと思います。できることや考えられることは人それぞれです。どんなに小さなことでも、まずは自分にできることから考えてみませんか。
宗像国際環境会議の公式ページでは、「徳が循環される共生圏へ ポストコロナの真の豊かさへの日本からの提言」や「宗像版SDGs 海でつながる人とまち」といったテーマが議論されたプレシンポジウムの動画も公開中です。気になった方はぜひご覧ください。
<第7回 宗像国際環境会議:常若〜自然の摂理と生命の循環〜>
開催日:2020年10月23日(金)〜25日(日)
主催:宗像国際環境会議実行委員会
共催:国際文化芸術プロジェクト
後援:環境省 福岡県
協賛:トヨタ自動車九州 株式会社/株式会社 トヨタプロダクションエンジニアリング/キリンビール 株式会社/シャボン玉石けん 株式会社/日本製鉄 株式会社/日鉄エンジニアリング 株式会社/日本航空 株式会社/株式会社 筑邦銀行/西日本電信電話 株式会社/国際ロータリー第2700地区