SDGsやサーキュラーエコノミーなどの分野で、数々の先進的な取り組みを行うオランダ・アムステルダム市。現地に暮らす桑原姉妹と、編集者・乾祐綺の日々の対話を切り出し、「でも、実際サスティナブルとかサーキュラーエコノミーとか、いまいちよくわからない…」と思っている方々へ、「それなら取り入れられるかも!」と感じてもらえたら幸いです。
プラスティックをなるべく使わない。
乾 前回はコロナ禍のアムステルダムの様子が中心でしたが、暮らしの中で実践されているサスティナブルな暮らしのアイデアを教えてください。
桑原果林(以下、果林) 大きいところだと、プラスティックをなるべく使わないようにしていることかなあ。
乾 どういうことです?
果林 例えば洗剤。液体洗剤の成分ってほとんどが水で、その分、大きなプラスティックの容器を使っていたりしますよね。それを捨てるときに嫌だなあと思って。だから洗濯に使う洗剤も、リキッドタイプじゃなくて、粉のものに変えてみたり。
乾 オランダにも粉の洗剤、売っているんですね。
果林 洗濯洗剤だけじゃなくて、窓ガラスやお風呂とか、家の掃除の洗剤なんかも水に溶かして使うタブレット状のものにしたり。自分の持っているボトルにポチャンと落とすだけで使えます。
乾 うちも一緒。粉の洗濯洗剤使っています。そういえば、窓ガラスは新聞で拭いているかな。
果林 歯磨き粉も、タブレットを唾液で溶かして使うタイプのもの。化粧品は難しいんですけど、なるべくローカルなものを使うようにしています。
乾 めちゃめちゃやっていますね……!
果林 子どものおもちゃもプラスティックじゃないものにしています。どうしても、ってモノは中古で買うとか。
桑原真理子(以下、真理子) こっちにはリサイクルショップがたくさんあって。乾さんも取材で行ったと思うけど、そういうところは就労支援施設にもなっているところが多いので、そこを利用するという行為自体が社会のためになっていると実感できるのもいいなあって思ってます。
果林 結局、プラスティックを素材としてリサイクルできるといっても、実際にできるのは全部ではないし……。
乾 燃やして発電とかしてますけど、温室効果ガスも問題になってますもんね……。
果林 回収されたプラスティックの中で、本当の意味でリサイクルされているのはごくわずかのようだし、海洋汚染の原因にもなっていると知って、それならまず「買わない、使わない」という考えに至ったんです。
“自由になった時間”が変化をもたらした。
乾 「買わない、使わない」という考え、いいですね。
果林 洗剤や化粧品など、前から気にしてはいたけど……。あとは、youtubeにも感化されましたね。
乾 どんなyoutubeですか?
果林 その人はスキンケアのyoutuber。化粧品のことだけではなくて、ボトルのことにもコメントしたりしてて、そういうのを見て影響されたりしたかも。
食品もプラスティックやビニールの包装のものはなるべく買わないようにしています。食材の宅配も利用するけど、それもほとんど紙包装だけで届けてくれるところにお願いするようになりました。一般の大手スーパーはプラスティックだらけなので、「断然こっちがいいじゃん!」ってなりました。
乾 進んだ取り組みをされているスーパーもアムステルダムにはありますよね。「エコプラザ」はプラスティックフリーを推進しているスーパーで、店の入口に、プラスティックを使わない商品の数を掲示していました。
果林 オランダではレジ袋有料化により国民の「一人当たり年間170枚のレジ袋を削減」「83パーセントがエコバッグを持参している」と政府のウェブサイトにありました。
乾 オランダは2016年からすでにレジ袋が有料化されていたんですね。日本は2020年の7月から始まったばかり。これからが試されますね。
果林 そうそう、すごく小さいことなんけど、コンディショナーをスプレータイプにもしました。
乾 洗い流さないタイプ?
果林 はい。シャワーの時間が減り、水も削減できるかなと思って。それだけでもシャワー1回につき数十リットルの差がつくんじゃないかなあ。
まあ、そもそも毎日シャンプーしないけど(笑)。2、3日に一回くらい。母親から毎日シャワーしなくてもいいってずっと言われてきてて、それが最近になって美容師さんからも毎日しない方がいいって聞いて。ああ、うちのやり方は間違っていなかったって思いました(笑)。
乾 みんなシャワーしすぎなのかも。日本だと、毎日シャワーしないと不潔みたいなプレッシャーがあるような気がしますね。
果林 私も、人前では毎日しているみたいなことを装っていました(笑)。
乾 果林さん、いろいろ実践されてますね。なにかきっかけがあったんですか?
果林 いろんなことを実感できるようになったからですね。温暖化さえ実感できるくらいの気候の変化を感じているから。子どもの将来や、未来の環境のことも気になるし。あとは、やっぱりコロナも影響してるかなあ。コロナで“時間的に余裕ができたから”より実践しているのかもしれない。
真理子 コロナで時間があるのは確かなんじゃない? 今までは例えば買い物なんかもスーパーマーケットで済ませていたものを、なるべく個人商店に行って彼らをサポートするとか、環境や身体にいい食品を食べようとかって、時間があるからできるライフスタイルなんじゃないかとも思います。コロナで、そういうことができる環境になったとも言えます。だから、“自由になった時間”というのは大きいと思うな。
乾 今までは忙しすぎて、いかに効率良くするか、って視点で暮らしていたような気がします。僕も今はコロナで取材が減って自宅作業が多いからほとんど自炊だし、食材はローカルの個人商店で良いものを買ったり、なんなら自分で栽培したりしてますもん(笑)。
果林 あと、コンポストもやっています! もともとは真理子の家にあったものなんですけど…。
乾 真理子さん、コンポストやっていたの?
真理子 今、住んでいる家は、もともと大学でサスティナブル関係の授業を持っていた先生の家で、新しいマンションには残念ながらバルコニーがないからって引っ越しの際にコンポストを置いてってくれたんです。私はまさかミミズが入ってると思わなくってこころよく引き受けたのですが、やっぱり気持ち悪いと思って……。ちょうど果林のパートナーの誕生日だったのでそのコンポストを去年の夏に譲ったんです。道中ミミズが飛び出してきたらどうしようとハラハラしながら2人掛かりで運びましたよ。
乾 優しさですね(笑)。
真理子 コンポストといえば、アムステルダムには街中に「ワーム(ミミズ)ホテル」がありますよー。
https://wormenhotel.nl
乾 すごっ! これ、地域で共有するコンポストなんですね! 住民が生ゴミを持ち込んで、できあがった栄養豊富な土を分かち合う。取材に行ったときに、排泄物をコンポストする仕組みのあったレストランにも衝撃を受けたけど、これもすごいなあ。さすがサーキュラーエコノミーの先進地ですね。
オランダ取材を経て変わったこと。
真理子 乾さんはサスティナブルな取り組みをなにかやっていますか?
乾 海で体を洗っていました(笑)。あ、サーフィンし始めたんですね、コロナ禍に。でも、実際に僕もシャンプーはもともと3、4日に一回くらいかなあ。お酒はほぼほぼヤメました。一時期は自宅にいることが多いからアルコールの量が増えちゃって……。でも、持続可能な未来のために身近でできることを考えたら、まずは身体の健康かなと思いまして。
真理子 私はジムが閉まっちゃったから筋トレがもう出来ない……(苦笑)。なので仕方なくランニングを始めました。
果林 ほかにもなにか始めたりしましたか?
乾 あとは、なんだろう。スーパーや商店で、見切り品は積極的にレスキューしたり。アルミホイルとかサランラップは、前はちょっと使ったら捨ててたけど、今は汚れていなかったら洗って干してまた使ったり。新聞を取っているんですけど、古新聞を畳んでゴミ袋にしたり、あとは、掃除に使ったりしていますね。主夫みたいでしょ?
果林 さすがORIGAMIの国! 畳み方を教えてほしいです(笑)。でも、今の乾さんの「主夫みたい」はジェンダーの観点からするとちょっと違和感あり!
乾 なるほどですね、勉強になります! ありがとうございます!
果林 いえいえ(笑)。
乾 あと見切り品は、フードロスの削減に貢献できたらいいなあと。アルミホイルとかサランラップはゴミの削減。古新聞の袋は、前は生ゴミなんかはレジ袋に入れていたけど、レジ袋が高価になったので(笑)。でも、結果、プラスティックの削減に貢献できたらいいなって思ってやっています。
やっぱり「ソトコト」のアムステルダム特集の影響が大きくって、取材以来、新品の服は買わないようにしているし、買うならセカンドハンド(中古品)を買うようになりました。「誰かが愛着を持ってきた服を受け継いでいく」いう、果林さんの言葉に感銘を受けまして。
果林 恐縮です(笑)。オランダ取材がいろいろきっかけになっていたんですね。
乾 発信することもそうですね。以前は出版社や新聞社などの依頼で取材、執筆、撮影などをして、それが記事になって終わりだったのですが、今は「もっと伝えたい!」って気持ちが強くって。だからイベントやワークショップへの参加にも積極的になりました。
果林 一緒に東京・銀座の MUJI HOTELでのイベントに参加しましたね!
乾 はい。そのほかにも、編集の竹中さんと企業内でおしゃべりさせてもらったり、福岡・六本松の蔦谷書店でトークイベントをさせてもらったりとか。先日は地元・福岡のラジオ局Love FMの 『Departure Lounge』という番組で、アムステルダム特集をはじめ、海外取材のことも話させていただきました。
果林 乾さんもいろいろやってますね。
乾 これもアムステルダムで出会った『San Serriffe(サン・セリフ)』のピーター・フェルベーケさんの受け売りですけど(苦笑)。やっぱり、自分がいいと思ったもの、楽しかったこと、伝えたいという気持ちは大切にしなきゃって、学びました。
▼ソトコトで取材した『San Serriffe(サン・セリフ)』
https://sotokoto-online.jp/624
桑原果林 くわはら・かりん
コーディネーター、翻訳者、通訳者。日本で日蘭バイリンガルとして育ち、2010年渡蘭。レインワードアカデミー美術大学文化遺産学科でミュゼオロジーを学び、在学中に姉・真理子と共に通訳・翻訳事務所So Communicationsをアムステルダムにて設立。メディア・教育・介護・農業・デザイン&アートなど多岐にわたる翻訳・通訳・コーディネート業務を行い、日本とオランダの交流のサポートにつとめる。
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桑原真理子 くわはら・まりこ
アーティスト。東京都生まれ。 父が日本人、母がオランダ人。19歳の時にオランダへ渡る。2011年、ヘリット・リートフェルト・アカデミー(アムステルダム)、グラフィックデザイン科卒業。過疎地域で出会った人々との対話を元に、ドキュメンタリー形式の出版物、映像作品を制作している。
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乾祐綺 いぬい・ゆき
編集者、フォトジャーナリスト。写真家でもあった祖父の影響から、幼少期より写真を始める。海、環境、暮らしなどを主なテーマに、日本各地はもちろん、海外への取材を続ける。未来をつくるSDGsマガジン『ソトコト』、ANA機内誌『翼の王国』誌上などで、写真と記事を掲載。日本と海外、それぞれのソーシャルグッドな文化や活動を双方向で伝えることをテーマに活動する株式会社ニッポン工房代表。