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サスティナビリティ

連載 | 毎日がサスティナブル!? —アムステルダムとニッポンのSDGs—

あなたは「市民」? それとも「消費者」?

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持続可能な未来を目指すために必要なこと。たくさんのコト・モノを新しいカタチへとシフトすることが求められそうですが、その前に、まずは当たり前を見直し、意識を変革することが必要かも?? 消費や、「市民」について考えることも然り。オランダの普通と日本の普通。サスティナブルへの模索は続く……。

目次

企業をフィロソフィーで選ぶ!?

乾 前回に続いて、アムステルダムの取材以降、僕が変わったことといえば、日本のサスティナブルな取り組みを行う企業についても興味が湧くようになったことでしょうか。

桑原果林(以下、果林) コロナ関係なく、私も以前から、衣服を買うときに、ブランドのフィロソフィー(哲学・理念)を気にしていました。今では商品を買う目安になっていますね、確実に。ファストファッションの企業でさえ、最近はSDGs的な活動に取り組み、それをアピールしている時代です。

乾 僕も商品選択の際に企業のフィロソフィーを重視しています。前回お話した粉の洗濯洗剤は、北九州にある無添加石けんなどをつくる企業『シャボン玉石けん』のもの。「人に優しいものは、自然にも優しい」がコンセプト。子どもの健康と地元の海の環境を守るために、50年ほど前に合成洗剤から無添加石けんの製造に切り替えた企業なんですよ。

乾さんが自宅で使用している『シャボン玉石けん』の洗濯用の粉石けん。香料や酸化防止剤、合成界面活性剤を使用していない、無添加のもので環境に優しい。
乾さんが自宅で使用している『シャボン玉石けん』の洗濯用の粉石けん。香料や酸化防止剤、合成界面活性剤を使用していない、無添加のもので環境に優しい。

桑原真理子(以下、真理子) スウェーデン発祥の企業、イケアなんかは、不要になった家具を回収したり買い取ったり、それをメンテナンスしてアウトレット品として販売したり。ただ、消費させているだけじゃなにも変わんないけど、そういう点では企業努力を感じるし、サスティナブルだと思います。

乾 いいですね!

真理子 とはいえ、私はモノをほとんど買わないですけど。私はときめくモノしか買わない!

乾 それ”こんまり”じゃ……。
※「こんまり」の愛称で知られる片付けコンサルタント。海外でカリスマ的な人気を誇る。

真理子 ”くわまり”メソッドです(笑)。そもそもモノがないから断捨離しなくていいんで! メモしといてください。

果林 電力はどうですか? 私たちは、2人とも電力会社は『ファンデブロン』というところです。ここは100パーセントサスティナブルなエネルギー。しかも、契約のときに、「○○さんの電力」ってその人の写真と名前が出てきて。例えば、農家さんが太陽光や風力発電をやっていたりして、選べるんです。

真理子 完全に電力がどこから来ているか透明化できているんです。契約者への連絡の中には「あなたが『ファンデブロン』で契約したことによって、これくらいのCO2が削減されました」って内容もあったりします。

『ファンデブロン』から真理子さんに届いたメール。これまで削減できたCO2の量は「72本のジーパン(の生産に必要なエネルギー)」、「アムステルダムから北京までの電車移動3回分」、「アムステルダムからロンドンまでの飛行機移動14回分」などの内容が書かれている。
『ファンデブロン』から真理子さんに届いたメール。これまで削減できたCO2の量は「72本のジーパン(の生産に必要なエネルギー)」、「アムステルダムから北京までの電車移動3回分」、「アムステルダムからロンドンまでの飛行機移動14回分」などの内容が書かれている。

乾 実感できるのがいいですね。日本でも「みんなの電力」という企業をはじめ、同じように自分が使う電力を細かく選べるところが増えています。僕自身は、東日本大震災の被災地に太陽光発電を設置するボランティア活動から始まった「Looopでんき」を使っています。

果林 日本にもステキな取り組みをしている企業があるんですね。乾さんが注目している企業はほかにはありますか?

乾 調べたら、いろいろあることがわかってきておもしろいです! オランダつながりだと九州にある『ハウステンボス』。草木が生えないような荒地を、オランダの土壌再生技術を参考に土を入れ替え、森を再生した土地にテーマパークを造ったんです。アムステルダムのノールトにあった『Café De Ceuvel(カフェ ド クーベル)』を彷彿とさせます。

▼ソトコトで取材した『Café De Ceuvel(カフェ ド クーベル)」
https://sotokoto-online.jp/639

いずれ、こういうサスティナブルな企業、個人など、日本の事例なんかもここで紹介していきたいなって思ってます。

『Café De Ceuvel』は『De Ceuvel』の一角にある。汚染された元・造船所跡地をアーティストや企業家がオフィス、カフェなどクリエイティブビレッジとして再生。水質浄化、エネルギー循環、地域通貨など、さまざまな実験的取り組みが行われていた。
『Café De Ceuvel』は『De Ceuvel』の一角にある。汚染された元・造船所跡地をアーティストや企業家がオフィス、カフェなどクリエイティブビレッジとして再生。水質浄化、エネルギー循環、地域通貨など、さまざまな実験的取り組みが行われていた。

ポジティブに「市民」として行動する。

乾 2人はもともと日本で生まれ育って、現在はオランダで暮らしていますが、日々の暮らしの中で日本とオランダの違いを感じるところはどこですか?

真理子 仕事上だと名刺かなあ。こっちだと誰もやっておらず、日本のクライアントとの仕事でしか使っていないかも……。サスティナブルじゃないですしね。

果林 あとで見返している人、いないんじゃないかなあ。

乾 昔は電話やファックス番号を調べるのに、ファイリングした名刺を見返したりしてましたけど、今は一度メールやSNSで繋がってしまえば、使いませんものね……。

真理子 あとは、判子。ようやくコロナをきかっけに変わるみたいですけど。銀行のサービスも、オランダはオンライン化が進んでいるし、また1年中24時間ATMでお金を引き出すのに手数料はかからないけど、日本は違うでしょ? 

オランダのメガバンクの一つ「ABN AMRO(エービーエヌ・アムロ)」が造った複合施設『CIRCL』。廃材を再利用するなど、環境保護へ貢献しつつ経済的利益も追求するサーキュラーエコノミーの考え方も取り入れている。
オランダのメガバンクの一つ「ABN AMRO(エービーエヌ・アムロ)」が造った複合施設『CIRCL』。廃材を再利用するなど、環境保護へ貢献しつつ経済的利益も追求するサーキュラーエコノミーの考え方も取り入れている。

乾 いろいろ違うところが多いですね……。当たり前のことを、当たり前と思わず、一度、客観的に捉え直してみることが大事ですね。

真理子 ゴミ問題もそう。こっちは罰則じゃなく、特典を付けて解決しようとしたりしてますよー。

乾 え、どういうことです? なんだか楽しそうなんだけど!

真理子 こっちって、結構道にゴミが落ちているんですが、それを解消するために通り対抗で、「一番きれいな道には1750ユーロ上げます」っていうコンテストみたいのが行われたりしてます。先日も、うちの近所でありました。

Bos en Lommerという地区の一番きれいな通りを競うイベントで、1位だったら賞金1750ユーロがもらえるというもの。「3位とれたよ」とマジックで加筆されている。
Bos en Lommerという地区の一番きれいな通りを競うイベントで、1位だったら賞金1750ユーロがもらえるというもの。「3位とれたよ」とマジックで加筆されている。

乾 日本だったら、捨てたら罰金、とかかなあ。

真理子 まあ、そもそもこっちはコンテナ(ゴミ箱)が常時設置されてて、ゴミを捨てるのは簡単なんですけど(苦笑)。

でも、きれいにしたらお金あげるっていう、考え方が、日本とは真逆かなって。

乾 ちなみ真理子さんの通りはどうだったんですか?

真理子 負けました(笑)。隣の通りは3位になって、ポスターに「3位になったぜ!」って書いてありました(笑)。

乾 ポジティブでいいですね。真面目にやるんじゃなくて、楽しんでやるってのも大事だと感じます!

真理子 ほかにもあります。例えばコミュニティスペースの活用方法のアイデアを市民から集め、市民全員に1人1票を持たせ、投票で支持が高かったものを行政で進めたり。民主主義を常に感じますよ。市民が主体となって動くのを行政がサポートする感じですね。

コミュニティスペースの活用方法を提案する市民が張り出したポスター。この人の提案はバタフライ・ガーデンをつくりたいというもの。自ら考え、行動する市民は多いという。
コミュニティスペースの活用方法を提案する市民が張り出したポスター。この人の提案はバタフライ・ガーデンをつくりたいというもの。自ら考え、行動する市民は多いという。

乾 めちゃくちゃいいですね! 投票はオンライン?

真理子 はい、もちろんオンラインです。アムステルダム市から専用コードが書かれたメールが来て、それでログインして投票しました。アイデアを考えた市民は、「私のアイデアに1票入れてください!」ってポスターを街に掲出したりしていましたよ。

乾 おもしろいなあ。それに市民が街のことを「自分ごと」として、行動しているようで、それもステキですね。

果林 あくまで個人の感覚ですけど、オランダにいると「市民」なんですけど、日本にいると「消費者」としか扱われていない気がします。メディアも消費を促すものばっかりでうんざりすることも多いかなあ。

乾 なんとなくわかる気が……(苦笑)。街の広告もすごいですもんね。海外だと規制しているところが多いのに。

アムステルダム観光の拠点となる中央駅周辺。人が集まるエリアだが、屋外広告はほとんどない。
アムステルダム観光の拠点となる中央駅周辺。人が集まるエリアだが、屋外広告はほとんどない。

真理子 さっきのコミュニティガーデンの話もそうですね。そもそもアイデアが市民から出ていて、それを市民自身が投票で決められる。自分が投票する意味を知り、市民としての自覚を持てます。

そうそう、オランダでは小学校から模擬選挙があるんですよ。実際に行われる選挙のことをみんなで調べ、投票体験をすることが普通です。

乾 すごい! 小さいころから、民主主義や政治に触れることができるんですね。

真理子 「中立」の考え方も違いますね。政治に関して、日本では喋らないのが中立だけど、オランダではオープンに話すことが中立なんです。

乾 真逆ですね……。オランダ取材ではイエナプラン教育の取材もしましたが、やはり自主性や対話を重んじる教育が、そういう考え方を育んでいる気がします。でも、日本にも、長野県佐久穂町にイエナプラン教育を取り入れた学校ができたりしてきるので、可能性は感じます。

▼ソトコトで取材したオランダのイエナプラン校の記事
https://sotokoto-online.jp/613

真理子 コロナという危機の中、なかなか変わらなかったものが、日本はいろいろ変わったように思います。技術力は高いし、国民の教育レベルも高いし、ポテンシャルがあると思っているから、これからが楽しみ!

取材で訪れたイエナプランスクールの模範校『Dr. Schaepmanschool』。子どもたちは輪をつくり、意見や感想を述べて共有する。現実社会への参加の仕方を教えるものだ。
取材で訪れたイエナプランスクールの模範校『Dr. Schaepmanschool』。子どもたちは輪をつくり、意見や感想を述べて共有する。現実社会への参加の仕方を教えるものだ。

皆さんのご意見や相談、受け付けます!

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※お悩み相談の返事は気まぐれです。真理子

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桑原果林 くわはら・かりん
コーディネーター、翻訳者、通訳者。日本で日蘭バイリンガルとして育ち、2010年渡蘭。レインワードアカデミー美術大学文化遺産学科でミュゼオロジーを学び、在学中に姉・真理子と共に通訳・翻訳事務所So Communicationsをアムステルダムにて設立。メディア・教育・介護・農業・デザイン&アートなど多岐にわたる翻訳・通訳・コーディネート業務を行い、日本とオランダの交流のサポートにつとめる。
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桑原真理子 くわはら・まりこ
アーティスト。東京都生まれ。 父が日本人、母がオランダ人。19歳の時にオランダへ渡る。2011年、ヘリット・リートフェルト・アカデミー(アムステルダム)、グラフィックデザイン科卒業。過疎地域で出会った人々との対話を元に、ドキュメンタリー形式の出版物、映像作品を制作している。
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乾祐綺 いぬい・ゆき
編集者、フォトジャーナリスト。写真家でもあった祖父の影響から、幼少期より写真を始める。海、環境、暮らしなどを主なテーマに、日本各地はもちろん、海外への取材を続ける。未来をつくるSDGsマガジン『ソトコト』、ANA機内誌『翼の王国』誌上などで、写真と記事を掲載。日本と海外、それぞれのソーシャルグッドな文化や活動を双方向で伝えることをテーマに活動する株式会社ニッポン工房代表。

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