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サスティナビリティ

連載 | 毎日がサスティナブル!? —アムステルダムとニッポンのSDGs—

選挙もサスティナブル!?

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2021年3月17日、オランダで国政選挙(下院)が行われました。ルッテ首相が所属するVVD(自由民主国民党)が最大政党を維持したことが、日本でもニュースで報じられましたが、ぼくたちが注目したのは各政党が提案したサスティナブルな政策や投票の仕方などなど。

目次

動物の権利を守るための政党もある?

乾 今回、ルッテ首相が所属する、中道右派のVVD(自由民主国民党)が最大政党を維持したようですが、2人はどういう点に注目されていましたか?

桑原果林(以下、果林) 残念だったのは、全体的に左派な政党が票を獲得できなかったところですね。とはいえ、よかったことは、VVDに次いで票を取ったのが、D66という、“ソーシャル・リベラル”な政党だったこと。私も、GroenLinksという左派党と迷いましたが、最終的にD66に投票しました。

今回の投票結果。D66は議席数を伸ばし、第二党に。出典:NU.nl
今回の投票結果。D66は議席数を伸ばし、第二党に。出典:NU.nl

乾 そうなんですね。ちなみにソーシャル・リベラルというのはどういう思想なんですか?

果林 リベラルからさらに発展した思想でしょうか。市場経済への規制だったり、市民の政治的権利の拡大などが掲げられているみたいです。

乾 なんとなく今っぽい感じがしますね。

桑原真理子(以下、真理子) 今回はアンチVVDの左派の人たちの票が、ソーシャル・リベラルのD66に集まりました。

おもしろかったのはオランダでも2019年に欧州議会議員選挙の時に発足されたVolt Europa(ボルト)という政党がオランダの国政選挙に初めて参加したこと。ボルトは欧州各地にある政党で、親ヨーロッパ主義というか、ヨーロッパ全体の協力を強めていこうと、若者が集まって始まった政党。環境や教育、電力など、さまざまな分野においてサスティナビリティに重きを置いています。今回、オランダでは若者からの票を集めて3議席を獲得しました。

乾 真理子さんはボルトに入れたんですか?

真理子 思想や考え方的にはボルトでしたが、私もD66に入れました。女性党首だから。オランダは女性が首相になったことがなく、「初の女性首相を!」と推す人が女性だけでなく男性にも多かったように感じます。

そうそう、こっちは、動物の党もあるんですよ。

乾 動物の権利を守るための党? オランダらしいですね。

果林 動物の権利がメインではあります。最近は移民問題や環境保全についての提案もしていますけど。

真理子 ただ、小さい政党だけど、彼らがしてきたのは結構すごいかも。食肉の飼育環境において、動物のウェルビーイングがどのくらい尊重されてきたかをランク付けする仕組みは、彼らの功績。小さい政党や活動でも、何年もやっていくことに意味があるんだと感じます。

スーパーなどに置かれている肉のパッケージ。飼育状況が動物たちにとって快適かどうか、星の数で評価、表示する取り組み。
スーパーなどに置かれている肉のパッケージ。飼育状況が動物たちにとって快適かどうか、星の数で評価、表示する取り組み。

サスティナブルな政策も議論される。

乾 サスティナブルに関して、話題になった政策などはありましたか?

果林 私が特に気になったのは「肉税」と「短距離フライトへの課税」です。

乾 肉税って関税ではなく、食肉に対して税金をかけるということですね?

果林 主に食肉用の動物の飼育が環境に負荷を与えるという考え方や、動物愛護の視点からの政策ですね。オランダは食肉も多く輸出してますが、国内で消費するお肉だけでなく輸出肉の値段も高くなるということです。D66はじめ、左派はだいたい提案していました。私はぜひやってほしいけど、反対の人も少なくないでしょうから、どうなるのか。

短距離フライトへの課税はまさに環境への配慮から。欧州内の移動は電車でもできるのに飛行機を使うのはよくないんじゃないか、という視点です。

乾 いろいろ興味深いです。日本は、そういう議論あったかなあ。

果林 肉税もそうですが、各党のサスティナブルな政策には畜産農業に関連したものが多かったです。畜産農業規模を維持したい派と縮小したい派で議論が盛んでした。オランダの農業ってめちゃくちゃ産業化されてて、規模が大きい。オランダは農業で経済が成り立っている部分があるので維持すべきという考えに対し、環境負荷を少なくするために縮小すべきでは、という考え。

真理子 でも、オランダは技術改革してサスティナブルな環境にシフトしつつあるから、縮小して別の国に生産を移行しても、そこで今のようなサスティナブルな農業をできないのなら、地球全体で見たらよくないよね、っていう意見もあります。

果林 住居にも関わってくる話で、オランダは土地が少なくて、住むところが少なすぎるから家が足りていないっていうのもあります。若者が家を買えないという問題。

乾 水の上の家もありますもんね。

真理子 水の上も高いですからね。

果林 なので、農地を縮小して、そこに建てればいいって政党もあれば、新しい実験的な街をつくろうって党もあるんです。

ロッテルダムにある水上農場。海の上で牛を飼育する実験的な取り組み。
ロッテルダムにある水上農場。海の上で牛を飼育する実験的な取り組み。

政治の話をするのが当たり前の社会。

乾 日本だと“政治と野球の話はタブー”みたいに言われ、人前で話すことがはばかられている風潮もありますけどオランダはどうなんですか?

真理子 みんな街中で普通に話していますね。昔、私がカフェでアルバイトしていたときにも「今日は選挙行くの?」とか「どこに入れるの?」とかお客さんに聞かれるので、「この政党で迷っている」とか答えたりして、友達でなくても、選挙が近づくと政治の話をします。

家の窓に支持政党のポスターを貼るのも普通らしい。
家の窓に支持政党のポスターを貼るのも普通らしい。

果林 選挙の翌日に街中で聞き耳を立てていると、みんな選挙の話をしています。そうそう、印象的だったのが、14歳くらいの男女の2人組がいて、その子たちも選挙の話をずっと熱心にしてて。選挙権を持っていないのにですよ、彼らは。で、「4年後はぼくたちも選挙できるね」みたいなこと言ってて。そういうのはこっちでは普通だけど、日本ではごくごく一部の若者にしか見られないんじゃないかって。

乾 子どもたちが政治について話すって、すごくいいですね! 日本は大人ですらなかなか。前に飲み屋であった初老のおじさんと政治の話になっちゃって、思想の違いから最終的に殴られそうになったことあるもん(苦笑)

果林 多様性を認めないとね(笑)。

乾 若い人たちはやはりネットなどで選挙や政治の情報に触れるんですか?

果林 ネットもそうだし、党首たちが集まって子どもにもわかる言葉でディベートする番組とかもあります。こっちの国営放送NOSが主に若者に向けて独自に作った各党の説明動画は、全部YouTubeで見られるようになってたりもします。

乾 日本だと街頭演説とかあるけど、オランダでは?

真理子 普段はもっと道に出て握手したり、ビラを配ったりしているけど、今はコロナでできないというのもありますね。車で回ったりとか、“お涙頂戴”的な、日本の演説カーのようなものはやっていないですね。

乾 投票率が高かったり、街中で普通に政治や選挙について話していたり。オランダのそういう雰囲気はどうやったら育まれるんだろう。

果林 子どもの前で親が政治や選挙の話をするのも普通ですからね。そういう家庭での環境や、あとは学校によっては模擬選挙をして、選挙権のない学生たちが選挙を練習できる環境があったりもするようです。

真理子 政治的な思想を表明することに、なんのためらいも、うしろめたさもないと感じますね。家の前に支持する政党のポスターを貼ったりするのも普通。こないだ見たのは、ルッテ首相がきらいな人の家なんでしょうね、その家の窓ガラスに、「続投しないなら腎臓をあげてもいい!」って貼っているのを見ました(笑)。ユーモアがあっていいでしょ!

投票の仕方もいろいろ工夫されている。

果林 今回、オランダの選挙は投票日が3日間あったんですよ。市によって違いますけど、アムステルダム市は最初の2日間は高齢者や体の弱い人向け。3日目は誰でも投票できる日。今回、コロナでいろいろルールが変わったんです。

乾 日本では投票は基本1日。期日前投票とかはできますけど。

真理子 高齢者対象ですが、今年は郵便投票もできました。あとは、投票会場はコロナでなくてもミュージアムや駅などさまざまな場所で投票できたのですが、今年はコロナでこれまでより多く、カフェや映画館など多くの会場に分散していましたね。今回は特別に、世界3大オーケストラの一つであるロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の本拠地であるコンセルトヘボウ(コンサートホール)でも投票できたようです!

乾 いいですね! 日本は学校とかが定番かなあ。

果林 人に委任することも簡単にできるんです。郵送された投票用紙にサインして、身分証のコピーと一緒に他の人に渡すだけ。

乾 日本だと……今見てみたら、海外在住者の投票なんかは委任できるみたいですね。でも、オランダのみたいに簡単ではない模様。コロナでいろいろ変わったらいいなと思います。

真理子 障害がある人の投票も2016年からルールが変わって、もともとは一人でしか行けなかったけど、補助の人と入れるように。また2019年からはすべての投票会場がバリアフリーでなければならないと法律で制定されました。

乾 日本は補助者や介助者の投票所への入場は認められているようですね。でも、こういう話をしたから調べてわかっただけで、知らなかったのが恥ずかしいです。

果林 投票も簡単でわかりやすいです。投票用紙に政党名などが書いてあって、指定された箇所を色鉛筆で塗るだけ。ちなみに今回は89政党が参加したから、投票用紙がすごく大きかったです!開いたのを元の形に折りたためるように、事前に折り紙ワークショップに行って練習した人もいたって、ニュースでやってました(笑)

オランダでは簡単なマークシート方式で投票できるそう。
オランダでは簡単なマークシート方式で投票できるそう。

乾 簡単なんですね。それにしても89政党ってすごい数だったんですね。今回はオランダの下院選挙は日本でいう衆議院。政党数が多いことも多様性を認めている社会なのかなと感じます。

果林 投票率はどのくらいだったと思います?

乾 60パーセントくらいですか?

果林 いやいや。オランダの下院選挙投票率は平均80パーセントくらいで、いつも70パーセントを超えるのが普通なんですよー! 今回も全体の投票率が80パーセント前後で、18歳から24歳の投票率も同じく約80パーセントってデータが出てるそうですよ。

乾 うーん、日本の投票率は言いたくないかも(苦笑)。2017年の衆議院選のデータを見たら、全体で約54パーセント、20代では30パーセント代という……。
出典:総務省
https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/nendaibetu/

真理子 オランダのニュースで、車椅子に乗った目も悪いハンディキャップの女性がインタビューに答えてて。その人は今回、補助の人のサポートしてもらって投票したんですけど、彼女のコメントがすばらしくって。「選挙に行かない人は、政治に文句言う筋合は一切ない。私でもできるんだから、みんな選挙行くべき!」って。彼女の言葉が、すべてを言い表しているなあ、と思いました。

乾 まずは、選挙に行くことから。そういう部分、日本はもっとがんばらないとって思いました!

「投票して得たのは、この鉛筆だけ」「やあ、また僕だよ!」と書かれたルッテ政権に対する新聞の風刺画。
「投票して得たのは、この鉛筆だけ」「やあ、また僕だよ!」と書かれたルッテ政権に対する新聞の風刺画。

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※お悩み相談の返事は気まぐれです。真理子

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桑原果林 くわはら・かりん
コーディネーター、翻訳者、通訳者。日本で日蘭バイリンガルとして育ち、2010年渡蘭。レインワードアカデミー美術大学文化遺産学科でミュゼオロジーを学び、在学中に姉・真理子と共に通訳・翻訳事務所So Communicationsをアムステルダムにて設立。メディア・教育・介護・農業・デザイン&アートなど多岐にわたる翻訳・通訳・コーディネート業務を行い、日本とオランダの交流のサポートにつとめる。
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桑原真理子 くわはら・まりこ
アーティスト。東京都生まれ。 父が日本人、母がオランダ人。19歳の時にオランダへ渡る。2011年、ヘリット・リートフェルト・アカデミー(アムステルダム)、グラフィックデザイン科卒業。過疎地域で出会った人々との対話を元に、ドキュメンタリー形式の出版物、映像作品を制作している。
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乾祐綺 いぬい・ゆき
編集者、フォトジャーナリスト。写真家でもあった祖父の影響から、幼少期より写真を始める。海、環境、暮らしなどを主なテーマに、日本各地はもちろん、海外への取材を続ける。未来をつくるSDGsマガジン『ソトコト』、ANA機内誌『翼の王国』誌上などで、写真と記事を掲載。日本と海外、それぞれのソーシャルグッドな文化や活動を双方向で伝えることをテーマに活動する株式会社ニッポン工房代表。

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