顔の見える接客とビジネスの視点で、「農」をより身近で関心のあるものに。
お話を聞いた人
左今克憲さん 『アグリゲート』代表取締役CEO
横尾 今回話を伺うのは、都市型の青果店『旬八青果店』を運営し、農産物の生産〜販売、地域活性事業にも取り組んでいる左今克憲さんです。大学卒業後、総合人材サービス会社を経て、今の会社を創業……。改めて、その経緯を教えてください。
左今 大学受験で2年間浪人をしていたので、何か特異な体験をして遅れを取り戻そうと、日本一周野宿の旅をすることにしました。そこで地方経済の疲弊を痛感したことから、ビジネスに興味を持つようになりました。また、地元・福岡県の豊かな食生活と上京した東京との違いにも目がいくようになり、農業に関心を持ちはじめました。
横尾 サラリーマンを経てすぐに起業に至ったんでしょうか。
左今 そうですね。「外の世界を実際に自分で見てみたい」という思いが強くなり、ビジネスモデルは確立していなかったけれど、今までやってきた営業ならできると考え、農家の営業代行を始めました。その後、これもご縁で、あるスーパーのオーナーに、青果部門を任せてもらえることになりました。お客さんに積極的に話しかける方式が評判で自信を持ち、自分たちのブランドをはじめることにしたんです。最初は、1坪月5万円の小さな店舗でした。
横尾 地域に根付き、まちの人とつながりを持つことが成功の秘訣なんでしょうか。
左今 都市部には今、スーパーやコンビニが増えています。スーパーでは特に店員と会話をしなくても買えますよね。そのほうが売る側としては楽ですし、規格化すると価格も安くなるから、それらが増えていく理由もわかります。でも、私たちにはスーパーなどではカバーできない部分、例えばお客さんとの会話でその人のニーズに合った提案をしたり、本当に今おいしいものや調理法をお薦めしたりということができます。
横尾 『旬八青果店』の数を増やしたり、海外の主要都市に進出するなど、現在考えている今後の戦略について教えてください。
左今 『旬八青果店』を、まずはフランチャイズ化したいと思っています。コンビニにある青果を見ていると、これで都市部に住む人たちの生活が成り立ってしまうのは不本意だなあと感じます。なんとかして、コンビニに取って代わりたい。そのためには、コンビニと同程度の利益をオーナーに確保しなければならない。そのための計算をしています。
実はすでに一店舗、フランチャイズ展開しているんですよ。オーナーは、なんとお医者さん。薬を処方するだけでなく、野菜も処方するという(笑)。でも、病気になる前からお医者さんとの関係を持てるのはよいことですし、食生活を改善して、病気になるのを未然に防ぐという意味でも素敵ですよね。
横尾 地域とのコラボレーションもはじめているんですよね。
左今 いくつかの自治体と提携し、その自治体が売りたくて、かつ私たちもよいと認める農産物を『旬八青果店』で出すという取り組みを始めています。自治体はわざわざアンテナショップを東京の一等地に持つ必要はないし、生活者は、普段なかなか食べる機会がないけれど本当においしいものを手に入れることができます。私たちの物流インフラを使い、市町村のニーズに合わせた商品の売り方も提案中。他の自治体ともどんどん連携していきたいですね。
取材後記
お客さんに「『旬八青果店』があったから自分の食生活がよくなった」と感じてもらえているかどうかを、常に意識しているという左今さん。さまざまなお客さんのニーズにいつでも応えられるよう、時間帯によって販売するものを分けてもいるということです。なるほど、確かに私が行くお昼にはお弁当やスムージーなどが販売されているし(これが新鮮な野菜たっぷりでとてもおいしい!)、夕方からは生の野菜などを中心に扱っています。都会に住むさまざまな人々の生活の動線上に、たくさんの店舗が展開されれば、子どもから高齢者までの、またオフィスワーカーの健康づくりにも役立ちそうですね。全国の自治体とのコラボレーションも含め、今後の展開にかなり期待しています。 (横尾)