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「生きづらい」に向き合った記録を収めた本『生きづらさの民俗学』

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目次

生きづらい日々を超えて。

家族揃って体調を崩して寝込んでしまった。こういう時、近くに頼れる友人がいることのありがたさが身に沁みる。頼れる人がいなかったらと思うとゾッとした。寝込んでいる間に秋は過ぎ去り、里山は冬衣に着替えを済ませていた。

『生きづらさの民俗学』は、民俗学の祖・柳田國男の「何故に農民は貧なりや」という問いから始まった民俗学が、長年積み重ねてきた学術的手法を用いて、現代人が無意識的に抱えるさまざまな貧しさを発端とした目に見えない「生きづらさ」について、10人の著者が向き合った記録が収められた学びの多い一冊だ。

民俗学と民藝は、並べて語られることが多いが、長所は異なる。民俗学は研究に優れ、民藝は実践に優れている。両者は100年余りの間、同じように庶民の暮らしに深い関心と情愛を傾けてきた。近年の民俗学と民藝に対する関心の高まりは、人々が生活に不安を感じていることの表れだ。今までの当たり前が日に日に壊れていく現代、これからの生き方を考える時、民衆が育んできた伝統や文化に高い価値と美しさを見出してきた両者から学ぶことは多い。人々が生きた足跡に学び、さまざまな過去の事象の中に未来へつながる規範を見出そうとする試みは、正しい答えを目指して生きることすら生きづらさにつながってしまう現代において、一見すると遠回りで地味に映るが、一番堅実で確かな道ではないだろうか。

『生きづらさの民俗学―日常の中の差別・排除を捉える』
及川祥平ほか編著、明石書店刊

text by Keiichi Asakura

朝倉圭一|あさくら・けいいち●1984年生まれ、岐阜県高山市出身。民藝の器と私設図書館『やわい屋』店主。移築した古民家で器を売りながら本を読んで暮らしている。「Podcast」にて「ちぐはぐ学入門」を配信。

記事は雑誌ソトコト2024年2月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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