農業未経験者が、田舎へ移住して新規就農することは可能だろうか? 縁もゆかりもない田舎へ移住するだけでも大変そうだが、新たな土地で就農して農家になるのは尚更ハードルが高そうだ。それを実現させたのは30代の夫婦、五十嵐大介さんと早矢加さんだ。2人に移住先選びや新規就農の方法、農家としての暮らしについて聞いてみた。
移住先はどうやって決めたの?

五十嵐さん夫婦は、青年海外協力隊としてキルギス共和国に暮らした経験がある。帰国後、キルギスのように牛がいる生活を思い描いて北海道へ移住したのだが……。
早矢加さん「北海道に行って酪農の道をいろいろ探ってみたんですけど、ちょっと大規模になってしまう。初期投資とかも大分かかってしまうし、ちょっとイメージと違うねってなって」
そのとき思い出したのが、キルギスで見たオレンジ色の花“カレンデュラ”だった。

現地には農家が育てるカレンデュラ畑もあるが、時期になると野生のカレンデュラが山一面をオレンジ色に染めるのだという。その花びらは薬用ハーブとして広く使われているらしい。オレンジ色の光景を思い出した2人は早速、日本のカレンデュラについて調べ始めた。
早矢加さん「主人がカレンデュラを育てたいって言い出して、探してみたんです。そしたら日本一の生産量が南房総市の白浜だったっていうので、ここに決まったんですよね」
どうやったら未経験から新規就農できるの?
移住候補地の南房総市では、新規就農を目指す人へ「就農研修支援事業(先進農家研修)」制度があることをネットで見つけた2人。市長が認定した研修機関のなかで、白浜のカレンデュラ農家は一軒のみ。市から紹介された認定農家を訪ねて2度ほど南房総を訪れ、先輩農家から農地や不動産屋を紹介してもらい、移住に至った。
先輩農家の下で2年間の研修を受けた五十嵐さん夫婦。カレンデュラの育て方はもちろん、農業に必要な機械の使い方や出荷の仕方までをみっちり教えてもらい、新規就農者となった。

1.5反(1500㎡)の畑からスタートして、今では4反(4000㎡)の畑でカレンデュラ以外に南房総特産のナバナやソラマメ、花あわなども出荷し、加工品作りも積極的に行っている。高齢者が多くて辞める人が増えているため、農地は今後も増えていきそうだ。
夫婦で新規就農した農家の一日
五十嵐さん夫婦には、就学前の子どもが2人いる。まだ手のかかる小さな子を育てながら、農家として暮らす一日はどんな暮らしなのだろうか。
6:30 起床
8:30 子どもたちは保育園へ
お昼までは収穫作業をすることが多い
13:00 収穫した農産物の箱詰めと出荷
18:00 保育園へお迎え
カレンデュラの和名は「金盞花(キンセンカ)」で、日本では仏の花として親しまれていることから、お彼岸前は子どもたちが寝てから夜中まで出荷作業に追われることが年に10日ほどあるそうだ。

作業を終え、外に出たときに見上げる白浜の星空は、キルギスを思い出させると早矢加さんは懐かしそうに目を細める。
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