地域では、そのまちに住んでいない人を「外の人」と呼ぶことがある。そこには、親しみを込めた意味と同時に、地元の人との距離も含まれている。期待を込めて「さすが外の人だ」と声をかけられることもあれば、「外の人にはわからないだろう」と線を引かれることもある。では、その距離を越えて、家族のようなつながりを築くにはどうすればいいのだろうか。同じ空間で過ごし、時間や体験を分かち合うことが、その一歩になるのかもしれない。今回の『かづコトアカデミー』では、約4ヶ月に渡り自分なりの鹿角との関わり方を模索した。中でも2泊3日のフィールドワークでは、薪割りやまち歩きを通してそれぞれが直接見て聞いて体験をした。参加者と鹿角との間にあった境界線が、少しずつ近くなった。
家族のようなつながりを
「家族のようなつながりで、まるで実家に帰ってくるような感覚で鹿角(かづの)に来てくれたら嬉しいです」と語る、鹿角市役所の似鳥さん。昨年度からスタートし、今年度2期目の開催となった『かづコトアカデミー』。これは、秋田県鹿角市が関係人口のつながりを生み出すための取り組みのひとつだ。
1期生は修了後も鹿角と関わり続け、都内でのイベントに駆けつけたり『ソトコトペンクラブ』で情報発信を行ったりと、“鹿角愛”をじわじわ広めてくれている。今回参加した2期生は「行ったことがない土地に行ってみたい」「自分の活動のヒントを得たい」といった思いを持つ、大学生や鹿角で実際に仕事をしている人などが集った。
鹿角市では関係人口や関係性づくりを積極的に進めており『鹿角家(かづのけ)』という独自の取り組みも行っている。市外在住であれば誰でも登録できる仕組みで、メールマガジンの配信や“家族会議”と名付けた交流会、困りごとを助け合う『関わりしろマッチングツアー』も開催している。家族のようなつながりづくりの一環として、今年度もアカデミーが開催された。
『鹿角家』への入会はこちらから
https://kazuno-gurashi.jp/kazunoke
フィールドワーク 体験する鹿角
10月に2泊3日の行程で実施された鹿角市内でのフィールドワーク。活動のスタートとなったのは『旧関善酒店』。昨年度に引き続き、ここを管理・運営する『NPO法人関善賑わい屋敷』の副理事長を務めながら活動している勝山さゆりさんがメンターとして受講生を受け入れてくれた。
市役所の似鳥さんと相談して今年度のフィールドワークは「体験を増やす」をテーマに設定。薪割り体験から、スキーのジャンプ台に登って鹿角を一望したり、まち歩きをしたりと、実際に体を動かしながら鹿角を目いっぱい体験した。
オリエンテーション ローカルのゆらぎ=地域の武器


『ソトコト』編集長の指出一正はオリエンテーションの中で「ローカルのゆらぎこそ、地域の武器」だと話した。“ゆらぎ”とは、少し行きつ戻りつしながら変化していること。鹿角の小さなスナックを訪れたとき、次々にお客さんが増え、あっという間に満員になった。すると、誰かに指示されたわけでもないのに「忙しそうだから」と、1人のお客さんが自然と店員さんのように飲み物を運び始めた。
お客さんと店員さんの境界線を行ったり来たりした、まさに“ゆらぎ”の瞬間だ。これも、一歩引いた視点でみれば、とても豊かに見える。地方創生は一方方向ではなく、関係性が重なり合って生まれるもの。鹿角の“ゆらぎ”を感じながら、自分とまちの関わり方を考える時間となった。
鹿角にこんな場所があったんだ

「景色がすごく綺麗な場所があるんです」と案内してもらい、中心部から車で10分くらいの場所にある『鹿角トレーニングセンターアルパス・花輪スキー場』を訪れた。ここは国内でも珍しく、アルペン・クロスカントリー・ジャンプの競技を同一エリアで実施できる複合施設で、オリンピック選手も練習に来るほどだ。
受講生たちはゴンドラに乗り、ジャンプ台の頂上まで登ると、そこからは澄み渡った空と鹿角の街並みが一望できた。あまりの高さに足がすくみそうになりながらも「あの選手はここから飛んでいるのか」など会話が自然と弾んだ。
帰りは高さを体感するために階段で降り、印象に残る体験となった。

酒屋の女将としてできることを

鹿角の商店街の一角に『関小市商店』というお店がある。店内には、貴重で美味しい日本酒をはじめ、台所に欠かせない調味料やお土産などが並ぶ。
女将の佐藤景子さんは「Uターンで戻ってきて、父と一緒に酒蔵を回るうちに、苦手だと思っていた日本酒が好きになったんです。もともと表に出るタイプではなかったんですけど、地元にいるからこそ、横のつながりがどんどん広がって、行動すると反応が返ってきたり、共感してボランティアとして祭りを手伝ってくれる人が出てきていたりするのが楽しい」と話す。
佐藤さんは日本酒を通して秋田、岩手、宮城の女将たちで『酒屋女将の会』を開催するなど、パワフルに活動している。その話を聞き、こちらも自然と元気をもらえた。
おかえりと言ってあげられる場所を

メンターの勝山さんには、フィールドワークのスタート地点でもある『旧関善酒店』を案内してもらった。そこには、貴重な資料や民芸品が所狭しに並んでいる。守ってくれる人がいるからこそ、つながれるものがあることを体感し、受講生たちはじっくりと見て回った。
また、勝山さんは「2期生の皆さんにもいつでも、ここに帰って来てほしい。みんなを『おかえり』と言って迎えたいです」と話してくれた。
地域とつながりを持ち続けるためには、受け入れてくれる存在がとても大事。勝山さんの温かい言葉に、心地よさを感じた。

交流会 美味しいものは最強

秋田といえばきりたんぽ。『きりたんぽ発祥の地』としても知られる鹿角で、昨年度も受講生たちから好評だったたんぽ作りに挑戦した。
交流会では勝山さんが用意してくれたご馳走がテーブルいっぱいに並び、アケビの漬物やきのこの炒め物など「これは何ですか?」と、初めて出合う味も。終始、会話が途切れない時間となった。
さらに今回は、関小市商店の佐藤さんが4種の日本酒飲み比べを用意してくれ、貴重な日本酒や『どぶろく』も楽しむことができた。


尊敬から生まれた活動

「パカーン」といい音が山に鳴り響く。フィールドワーク2日目は、薪を作る「薪活」に取り組む『MAKIKORI』の作業現場で薪割りを体験させてもらった。
初めての体験に最初は苦戦した受講生たちも、徐々にコツを掴み、夢中になってどんどん薪を割っていく。
『MAKIKORI』は「みんなの薪棚をいっぱいにする」ことを目指している団体。業者が入らないような小さな現場や個人の依頼を中心に木の伐採を行い、伐採した木を薪にして活用している。
この活動が始まったきっかけは、ゲストの山本由実さんが師匠と呼ぶ『MAKIKORI』の会長の黒澤明さんとの出会いだった。黒澤さんがログハウスを建て、薪を主軸にした暮らしを送っていることを知り、その生きる力に惹かれて弟子入りしたんだそう。
現在ではメンバーが30人まで増え、鹿角で伐採や木について学びたい人の登竜門のような存在に。独立する人まで出てくるほど、活動の広がりを見せている。
尊敬する人との出会いで新しい活動に繋がっていく。そのことを、今回の体験を通して実感することができた。

素敵な空間を作ろう


受講生たちが「次はここに泊まりに来たい」と感動していたのが『yuzaka』だ。Uターンした諏訪芳明さん・英子さんご夫婦が営むサスティナブルな宿。
もともと芳明さんは会社員として働いていたが、祖母の暮らしていた大湯エリアに移住、「人が来てくれるような素敵なものが必要だ」と考え鹿角出身の英子さんと共に『yuzaka』をスタートした。
宿の外壁には鹿角出身のアーティストに描いてもらった作品があり、部屋一つずつにもテーマが設けられアートが飾られている。受講生のひとりは、「リネンの洗濯についても福祉施設に依頼すると聞いて、地元のことも考えている姿にとても感動した」と話した。
宿から歩いて3分ほどの場所にある、蔵を利用したワイン専門店も運営しているとのことで案内してもらった。貴重なワインはもちろん、ここでしか手に入らない商品もあり、終始感動の時間となった。
廃校を活用した『中滝ふるさと学舎』を訪れる

貴重な木造校舎『旧中滝小学校』は、廃校となり学校という役目を終えてからも『中滝ふるさと学舎』として地域の人々から愛され続けている。
校舎内は自由に見学でき、キャンプやBBQ、常設されている石窯のピザ作り体験なども可能だ。どこか懐かしさを感じる素敵なロケーションで、映画の舞台としても使われたことがあったと、『中滝ふるさと学舎』を管理する『NPO法人かづのふるさと学舎』の古川智子さんが教えてくれた。
ここでは美味しいランチも楽しめる。この日は、カレーをいただいた。ほっこりとした優しい味わいに舌鼓を打った。

自然には逆らわない

昨年度の『かづコトアカデミー』で、受講生たちがハッとさせられた『大湯観光りんご園』の妹尾千夏さんの言葉……「虫を殺してまでりんごを取りたいと思わないから、私は減農薬でりんごを作っています」。
今回もフィールドワークの最後に妹尾さんに会いに行き、収穫体験をさせてもらった。
妹尾さんはUターンして実家のりんご園を引き継ぎ、お母さんと力を合わせて活動している。
2025年の秋は、全国的にもこれまで類を見ないほど熊の被害が多かった。鹿角も例外ではなく、妹尾さんのりんご園でも熊の姿は確認されたという。
「ある程度の対策はしたものの、やはり熊にりんごを食べられてしまいました。それでもしょうがないと思っています」と妹尾さんは語る。
今回もまた、農業は自然とどう向き合うかを問われる仕事だということを、妹尾さんの姿勢から教えてもらった。

最終日のワークショップ 私と鹿角をどう結ぶ

2泊3日のフィールドワークの最終日には、ワークショップを開催。実際に体験したことをもとに「鹿角」と「私」をどう結びつけるのかを考える時間となった。テーブルごとに受講者同士で意見交換をしたり、アドバイスをもらったりする場面も見られた。
「たんぽ作りが印象的だった」、「地域の中で根を張っている人が多い」「都会ではできない薪割り体験ができた」などさまざまな意見を発表し合った。
最終発表会 鹿角で私が挑戦してみたいこと

フィールドワークを終えて3ヶ月後の1月、『かづコトアカデミー』第2期最終日。受講生一人ひとりが、これから挑戦してみたいことを発表した。
祭りやイベント、大学の仲間などを誘って鹿角と他の地域をつなぐ取り組みをしてみたい、鹿角のりんごを使ったお菓子を作りたい、『旧関善酒店』で見つけた木彫り人形のワークショップをやりたいなどなど。受講生たちは、それぞれの視点で鹿角との関わりしろを作る方法をプレゼンテーションした。中には、自分のスキルを活かして、LINEを登録すると鹿角のお土産を提案してくれる『鹿角お土産AI』を作った受講生もいた。また、会場には1期生の姿もあり、発表に静かに耳を傾けていた。
メイン講師を務める指出は「これからは、まちづくりから“まちまもり”になっていく。アクセルとブレーキを同時に踏みながら進んでいく」と話す。関係人口という外からの視点と、地元で根を張る地域の人たちとの力。その両方をハイブリッドに使い分けながら鹿角が広がっていくのだと感じる時間だった。
思い返してみると「パカーン」と薪を割った時のじわじわと手に来る振動や、ジャンプ台の階段を降りて来た時の息切れはとても印象的だった。観光ではない、外から一歩踏み込んだような体験はとても濃密で、その時間を通して受講生たちは、自分の手の届く範囲の中で心地よい鹿角と家族のようなつながり方を見つけ出した。


受講生の声

『大湯木彫り人形』のワークショップを開催したい(大場由美さん)
『旧関善酒店』で木彫り人形と出合いました。その後立ち寄った市の図書館で偶然人形の資料を見つけてさらに興味が湧きました。まるでトンネルを掘り進めていくような感覚でした。今後はさらに深掘りして、ワークショップを開催したいです。

人間らしい葛藤に触れて考えさせられた(加藤貴也さん)
『大湯観光りんご園』の妹尾さんの言葉が印象に残り、自分自身も考えさせられました。自分は、悩んでいる人やヒントを求めている人、地域の人を繋いでいく『ヒトマップ』を構想していて、鹿角でもぜひ取り組んでみたいです。
『かづコトアカデミー』の取り組みを通じて鹿角市や『鹿角家』が気になった方はこちらをご覧ください。
https://kazuno-gurashi.jp/kazunoke
【写真】奥崎有汰
【文章】根岸那都美



















