山形県山形市の南部に新しい「児童遊戯施設」が誕生した。『シェルターインクルーシブプレイス コパル』、略して、『コパル』。PFI(Private Finance Initiative)の手法を用いた公共事業として、どんなふうに生まれてきて、育っていくのか。設計、建設、運営に携わる人たちに、『コパル』ならではの事業の進め方を伺いました。
インクルーシブな考えが 込められた、遊びの施設。
さらに、自ら考える力を育てる「生きる力」と、地域みんなで交流の場を築く「地域共生」の3つの考えを柱に掲げて、『コパル』は運営されている。
3つの柱を、 さまざまな形で具現化。
体育館では、同じく『コパル』の運営業者で、NPO法人『生涯スポーツ振興会 アプルス』常務理事の須貝美奈子さんが、野山を駆け回るように遊び、運動能力を高める設備を用意。「生きる力」を育む運動教室やイベントも開催している。その体育館の東側に設けられたスロープには手すりが設置されているが、普通の手すりとは別に、ぐにゃぐにゃと曲がった「遊べる手すり」が、設計を担当した一級建築士事務所『o+h』から提案され、設置されている。「ぐにゃぐにゃのカーブをたどって遊びながら、手すりが必要な人がいることに気づいてほしいです」と『o+h』の大西麻貴さんと百田有希さんは言う。まだ、「これがインクルーシブ」という明確な答えはないそうだが、「スタッフや利用者と一緒に築いていけたら」と佐藤さんは話す。
また、「地域共生」の観点から、子育て支援センターを設置。「コパルアテンダント」と呼ばれる地域住民のボランティアも活躍し、地域の企業や団体が子ども向けのイベントを開催するなど、「地域で子どもを育てる」という思いをさまざまな形で実践している。
手すりも、柵も。 議論を重ねてつくり上げた。
『夢の公園』は、コンペの前から「どんな施設をつくるか」について話し合いを重ねたが、時には激しい議論になることもあった。前述した「遊べる手すり」が『o+h』から提案されたとき、佐藤さんが「視覚障害者が本当の手すりと区別がつかなくて危ない」と反対し、『o+h』は「遊べる手すり」の意図を説明。議論の結果、片側に普通の手すりを、片側に「遊べる手すり」を設置することで両者の思いを満たした。決まったのは施工中だった。
一方で、「障害児に配慮しすぎると、元気いっぱいの子どもたちが存分に楽しめない場になる」と須貝さんから指摘された。大型遊戯場の滑り台を、障害児が不意に滑り落ちてしまわないように「柵を設けよう」と佐藤さんが提案したが、須貝さんは、「下から斜面を上ってきた小さな子は、その柵を乗り越えることができない」と反論。議論の末に、斜面の始まりがわかるように10センチほどの段差を設け、ポールを立てて注意を促すことに。佐藤さんの思いと、須貝さんの思いが一つになって、インクルーシブな形となった。建設を担当した『高木』の取締役営業部長の佐藤隆裕さんと課長の佐藤伸幸さんも、「これほど意見を出し合い、みんなで考えながら施工を進めたのは初めて。このチームだからできたこと」と安全にオープンしたことを喜ぶ。
こんなこともあった。屋根がユニークな曲面状につくられているため、屋根に降った雨水が1か所に集まり、滝のように流れ落ちることがわかった。『o+h』の大西さんと百田さんは、「想定していなかったことですが、館長はそれを『コパルの滝』と名付け、『雨の日はここで滝が見られます』と貼り紙をされました。それを見た親子が、『今度は雨の日に来てみようか』と会話していたと聞きました。異なる個性を是正しなければいけないものと捉えるのではなく、前向きな価値に変えていく。まさに、インクルーシブな考え方だと感動しました」と振り返った。そして『コパル』は、『夢の公園』が15年間運営を続けるが、「『コパル』で遊んだ子どもたちが高校生や大学生、あるいは仕事をするようになったとき、『もっとこうしたら』と場づくりを一緒に実践してくれたら、ここが生きた学びの場になります。そんな施設にできると思います。このチームなら」と笑顔でそう語った。
今は主に山形市在住者しか利用できないが、コロナ禍が終息すれば全国から利用者が訪れるはずだ。『コパル』のスタッフも、早くその日が来るのを待ち望んでいる。
記事は雑誌ソトコト2022年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。