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場づくり・コミュニティ

特集 | 人が集まるプレイスメイキング術

生きる力を育む『シェルターインクルーシブプレイス コパル』。

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山形県山形市の南部に新しい「児童遊戯施設」が誕生した。『シェルターインクルーシブプレイス コパル』、略して、『コパル』。PFI(Private Finance Initiative)の手法を用いた公共事業として、どんなふうに生まれてきて、育っていくのか。設計、建設、運営に携わる人たちに、『コパル』ならではの事業の進め方を伺いました。

目次

インクルーシブな考えが 込められた、遊びの施設。

小さな子どもたちが、スロープを駆け回り、遊具に上って遊んでいる。床の上を裸足で走って気持ちよさそうだ。コロナ予防のマスクからは、楽しそうにはしゃぐ声と笑顔がこぼれている。ここは2022年4月にオープンした、すべての子どもたちが共に遊べる『山形市南部児童遊戯施設(愛称:シェルターインクルーシブプレイス コパル)』だ。「すべての子どもたち」の文言には、「インクルーシブ」の考えが込められている。性別や年齢、人種・国籍の違い、障害の有無、家庭環境など異なる背景や特性を持つ人々が互いを認め合い、共に生きることをいう。

さらに、自ら考える力を育てる「生きる力」と、地域みんなで交流の場を築く「地域共生」の3つの考えを柱に掲げて、『コパル』は運営されている。

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広場の斜面の下には施設内部の部屋が。建物全体が個々の部屋を包摂するインクルーシブな設計。
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「みずのひろば」では、夏は噴水やミスト遊びが楽しめる。地面から水が噴き出し、子どもたちは大喜び!
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障害者用の駐車スペースはデザイン性とわかりやすさの間で議論が行われ、建物に合った淡いブルーに。近隣の子どもたちがペンキで塗った。
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車椅子で乗れるブランコなど、インクルーシブな遊具を配置。

3つの柱を、 さまざまな形で具現化。

『コパル』のどんなところが「インクルーシブ」なのか? たとえば、大型遊戯場にある大きな木製の滑り台。傾斜は奥へ行くほど緩やかになる。傾斜を上る方法も、斜面を駆け上がる、手すりのある階段を使う、ロープを使う、遠回りしてスロープを上るなど子どもの運動能力に合わせてさまざま。「斜面には木のレールも設置され、麻痺がある子は介助者が後ろから抱っこし、滑るスピードを調節しながら降りることができます。子どもが初めて滑り台を滑ることができ、涙された保護者もおられました」と、『コパル』の運営業者『ヴォーチェ』代表の佐藤奈々子さんは話す。『ヴォーチェ』は重度障害児の療育施設を運営している。「遊び場を年齢で分けるのではなく、『ここなら上れるかな。滑れるかな』と自分で判断する力を養ってほしいです」。一人で上れなくても、保護者やほかの子どもの手を借りて上ることもできる。「手伝ってあげよう」「譲ってあげよう」という行動が、「インクルーシブ」に気づく機会になる。

体育館では、同じく『コパル』の運営業者で、NPO法人『生涯スポーツ振興会 アプルス』常務理事の須貝美奈子さんが、野山を駆け回るように遊び、運動能力を高める設備を用意。「生きる力」を育む運動教室やイベントも開催している。その体育館の東側に設けられたスロープには手すりが設置されているが、普通の手すりとは別に、ぐにゃぐにゃと曲がった「遊べる手すり」が、設計を担当した一級建築士事務所『o+h』から提案され、設置されている。「ぐにゃぐにゃのカーブをたどって遊びながら、手すりが必要な人がいることに気づいてほしいです」と『o+h』の大西麻貴さんと百田有希さんは言う。まだ、「これがインクルーシブ」という明確な答えはないそうだが、「スタッフや利用者と一緒に築いていけたら」と佐藤さんは話す。

また、「地域共生」の観点から、子育て支援センターを設置。「コパルアテンダント」と呼ばれる地域住民のボランティアも活躍し、地域の企業や団体が子ども向けのイベントを開催するなど、「地域で子どもを育てる」という思いをさまざまな形で実践している。

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エントランスから入ると目の前に体育館が。子どもたちは運動用具やボールを使って遊んだり、スポーツをしたり。ガラスの向こうには蔵王の山々が連なる。天井の梁は山形県産材。
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大型遊戯場。滑り台やネット遊具が設置されている。
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本棚には目の見えない人も読める本やジェンダー関連の本など、1500冊以上の多様なジャンルの本が。
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『山形県立村山特別支援学校』の児童・生徒がつくった椅子。
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照明カバーはけがをしないように軟らかい素材のものを。

手すりも、柵も。 議論を重ねてつくり上げた。

3つの柱となる考えを、施設の随所に反映することを可能にしたのは、『コパル』がPFI事業として進められたことにもよる。PFIとは、民間の資金と経営能力、技術力を活用し、公共施設などの設計、建設、運営、維持管理を行う公共事業で、安くて優れた品質の公共サービスを提供することを目的に行われている。『コパル』は山形市発注のPFI事業で、設計から運営までワンチームで受託することがコンペティションの条件だったため、集まった13社は『夢の公園』という会社を設立し、入札。事業者として選ばれ、施設の設計、建設や、15年間の運営と維持管理を実施している。

『夢の公園』は、コンペの前から「どんな施設をつくるか」について話し合いを重ねたが、時には激しい議論になることもあった。前述した「遊べる手すり」が『o+h』から提案されたとき、佐藤さんが「視覚障害者が本当の手すりと区別がつかなくて危ない」と反対し、『o+h』は「遊べる手すり」の意図を説明。議論の結果、片側に普通の手すりを、片側に「遊べる手すり」を設置することで両者の思いを満たした。決まったのは施工中だった。

一方で、「障害児に配慮しすぎると、元気いっぱいの子どもたちが存分に楽しめない場になる」と須貝さんから指摘された。大型遊戯場の滑り台を、障害児が不意に滑り落ちてしまわないように「柵を設けよう」と佐藤さんが提案したが、須貝さんは、「下から斜面を上ってきた小さな子は、その柵を乗り越えることができない」と反論。議論の末に、斜面の始まりがわかるように10センチほどの段差を設け、ポールを立てて注意を促すことに。佐藤さんの思いと、須貝さんの思いが一つになって、インクルーシブな形となった。建設を担当した『高木』の取締役営業部長の佐藤隆裕さんと課長の佐藤伸幸さんも、「これほど意見を出し合い、みんなで考えながら施工を進めたのは初めて。このチームだからできたこと」と安全にオープンしたことを喜ぶ。

こんなこともあった。屋根がユニークな曲面状につくられているため、屋根に降った雨水が1か所に集まり、滝のように流れ落ちることがわかった。『o+h』の大西さんと百田さんは、「想定していなかったことですが、館長はそれを『コパルの滝』と名付け、『雨の日はここで滝が見られます』と貼り紙をされました。それを見た親子が、『今度は雨の日に来てみようか』と会話していたと聞きました。異なる個性を是正しなければいけないものと捉えるのではなく、前向きな価値に変えていく。まさに、インクルーシブな考え方だと感動しました」と振り返った。そして『コパル』は、『夢の公園』が15年間運営を続けるが、「『コパル』で遊んだ子どもたちが高校生や大学生、あるいは仕事をするようになったとき、『もっとこうしたら』と場づくりを一緒に実践してくれたら、ここが生きた学びの場になります。そんな施設にできると思います。このチームなら」と笑顔でそう語った。

今は主に山形市在住者しか利用できないが、コロナ禍が終息すれば全国から利用者が訪れるはずだ。『コパル』のスタッフも、早くその日が来るのを待ち望んでいる。

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「こそだてそうだんしつ」を備え、子育てや発達相談を受け付けている。
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「えいぞうとおとのへや」ではエアサッカーなどデジタルゲームを有料で楽しめる。
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食育カフェ『little JAM』。
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右から、『高木』の佐藤隆裕さん、『コパル』の青木操さん、『ヴォーチェ』の佐藤奈々子さん、『高木』の佐藤伸幸さん。
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『アプルス』の須貝美奈子さん。
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設計を担当した一級建築士事務所『o+h』の大西麻貴さん(右)と百田有希さん(左)。
photographs by Hiroshi Takaoka text by Kentaro Matsui

記事は雑誌ソトコト2022年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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