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特集 | SDGs入門〜海と食編〜

届け、魚のほんまのおいしさ。 『ENDEAVOR 慎孝水産』。

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「この人がすすめる食べものはおいしい」。そんな友人がいますか?今回紹介するのは、そんな魚の目利き人。京都府舞鶴市にある『ENDEAVOR 慎孝水産』の松田慎平さんに話を聞きました。

目次

食の選択肢に、 魚を入れていきたい。

あなたは魚が好きだろうか?好きな場合、普段から魚をどれくらい食べているだろう。

「魚が好きな方には、今まで以上に魚を好きになっていただけるように。魚が苦手・嫌いだと感じる方には、魚を好きになっていただけるように」。そんな思いから、29歳で水産物の加工・販売業を始めた男性がいる。京都府北部の漁師町・舞鶴市で『ENDEAVOR 慎孝水産』を立ち上げた代表・松田慎平さんだ。

松田さんが手掛けているのは、サバやタイ、サーモン、ホタテ、タコなどの干物だ。それも、干物の概念を覆すことを目指してつくられた無添加の「ソフト干物」。身がふっくらとして驚くほど軟らかく、魚特有の臭みもないこと、魚のよさが凝縮されたような旨みも感じられることが特徴だ。身に骨がないものもあり、子どもでも食べやすく、魚嫌いの多くの人を「これなら食べられる!」と驚かせている。

秘訣は、鮮度のよい魚を使用していることに加えて、徹底的に行っている下処理にある。ていねいに血抜きをしたら、魚の体内を掃除してぬめりを取り、さばき、数日間熟成させ、オゾン光を照射する特殊な乾燥機に入れる。魚特有の臭みを嫌う人は多いが、このオゾン光によって臭みのもとになる細菌の発生を抑えられるという。

「僕が一番おいしいと思う干物をつくっています。実は魚っておいしいんだ、臭くないんだ、こんなに種類があるんだ、と感じていただきたいです。知ってもらえたら、きっと『魚っておもしろい』と感じるはずです。僕は魚を食べるきっかけをつくり、魚好きを増やしたい。みなさんの食の選択肢のなかに魚を入れて、増やしていきたいんです」

彼は現在さまざまなイベントに出展して、自らつくった「ソフト干物」を届けている。それだけではない。大阪府出身の松田さんは魚をより広く伝えるべく、農業を営む男性とコンビ「農魚男子」を組み、漫才頂上決戦「M-1グランプリ2021」にも出場したのだ。2回戦敗退だったそうだが、松田さんの情熱を感じるエピソードだ。

生産者や魚介類の 価値を上げたい。

ところで松田さんは自身の会社創業まで、どのような経緯をたどったのだろう。

「子どもの頃から好きで唯一続けていたのが魚の勉強や釣りだったんです。それで近畿大学に進んで水産経済学を専攻しました。卒業後、好きな釣具店に就職し、2012年の転勤を機に舞鶴市へやって来ました」

松田さんには、たまらなく好きなことが2つあった。一つは、自分が釣った魚を調理しておいしく食べること。独学で解体や調理の腕を磨くのが大好きなのだ。もう一つが、お客さんと話すこと。そこで、魚をおいしく食べられる調理法を紹介するチラシをつくって、釣具店でお客さんに配布し始めた。

「内容は、例えばイカを食べやすくする飾り包丁の入れ方などです。お客さんからの反応がやけによく、楽しくなって『もっといろんな人に魚の魅力を知ってもらいたい!』と思いました。西日本最大級の食材見本市『シーフードショー大阪』などに参加し、いろいろな意見を聞いたり、商品を見たりするようにもなったんです」
 
そこで出合ったのが、大阪の地元の近くにある干物会社。松田さんは釣り人が死んだ魚を捨てていくことにモヤモヤとした思いがあったなかで、その会社は市場で価値がない魚にも価値をつけようと活動していて、感銘を受けたという。

「その会社がつくっているのが、『ソフト干物』だったんです。それと僕には以前から独立志向があって加工品であれば市場に並びにくい傷ものに価値をつけることもできると考えて、加工品を選びました」
 
そうして8年勤めた釣具店を辞め、2020年に起業した松田さん。現在扱うのは旬の魚。地域のルールに従って漁連や市場、生産者、釣り人などから仕入れ、「ソフト干物」をつくっている。
 
さらに、生産者の価値を上げること、使われずに捨てられている未利用魚の活用、二束三文となっている魚の価値の向上なども視野に入れている。

「生産者や漁師がいないと、僕たちは魚を食べられないんですよね。生産者や漁師は減っていますし、誰かが魚のことを発信しないと業界が衰退してしまいます。僕が発信することで業界を盛り上げ、生産者の価値を上げられれば、魚介類の価値も上がると思います。うまいこと海の文化を好循環にしていきたいです」
 
そんな目標や活動の根底には「海への感謝」があるという。海から限りある恵みをいただいて食べさせてもらっている感謝と、海からの恵みを仕事にし生活ができている感謝だ。

「海の恵みは、このままいけばいつかは絶対になくなってしまいます。大きな問題なので僕ができることには限度がありますが、そういう問題を真剣に考え続けていきたいです。僕が今できることは、『ソフト干物』を通じた”魚を食べるきっかけづくり“。魚のほんまのおいしさを感じてほしいです」

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「ソフト干物」はオンラインストアで販売中だが、好評につき2022年内の分は売り切れ。現在、2023年1月以降のお届け分を販売中。
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松田慎平さん
まつだ・しんぺい●大阪府出身。近畿大学農学部水産学科卒業。釣具店に就職し、2012年転勤で舞鶴市に移住。店長を務めた後、2020年に「ソフト干物」を中心にした水産加工品の製造・販売を行う『ENDEAVOR 慎孝水産』を創業。
https://endeavor-himono.com
text by Yoshino Kokubo illustrations by Kailene Falls

記事は雑誌ソトコト2022年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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