デジタル戦略についてコンサルタント業務を行う『New Stories』代表の太田直樹さん。国の重要政策の一つである「デジタル田園都市国家構想」の実現会議に参画しつつも、「デジタルも大事だが、そもそも『田園とは何か』を考える必要がある」と言います。
著者は、「人間の活動が影響していない手つかずの自然はほぼない」と言います。ポジティブな形で自然と関わり、自然をデザインするべきだと述べ、議論を巻き起こしました。
日本の田園風景をつくる田んぼは人工的な農地ですが、実は生物多様性の基盤にもなっています。農薬を使わなければ水生生物が現れ、それを餌にする鳥や昆虫もやってくる生態系の場として世界的にも評価されています。その田んぼに、ソーラーシェアリングを導入する動きがあります。田んぼの上に太陽光パネルを張っても光の透過率は7割ほどあるので、稲の生育には問題なく、電源が取れるのでセンサーやポンプを動かして水質・水量管理もできます。
新しい田園都市を築くには、モビリティについても考える必要があります。『モビリティーズ』は、モビリティによって人間社会がどう変わってきたかを論じた名著です。カーナビに象徴されるように、現代の移動は効率が最優先。昔は道に迷い、人に尋ねながら目的地に到達したものですが、今は道草も偶然の出会いもありません。逆に、海外の都市では人が歩くためにデザインされた「ウォーカブルシティ」が注目されていて、歩くことで、人と何かが出合い、事が起こる可能性や、セレンディピティ(幸運な偶然を手に入れる力)も高まるという訳です。
人口が減少すれば、道路の維持も難しくなります。自動運転車が開発され、ドローンも導入されはじめた今、モビリティのあり方も再考が必要です。モビリティが変化すると、人と人との接点が変わり、地域の暮らしや考え方にも影響を与えます。未来の田園都市をよい方向に導くためにも読んでおきたい一冊です。
記事は雑誌ソトコト2022年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。