研究のかたわら、行政側からのシビックプライド醸成などに関わる関東学院大学法学部地方創生学科准教授・ 牧瀬稔さん。日本でもシビックプライドという言葉が増えてきた必然性や、自治体などでも活用において大事なことなどを教えていただきました。
地方創生とシビックプライド。
「地方創生の命題でもある人口の維持には、転入促進と転出阻止がありますが、各自治体はほかの自治体から人口(住民)を奪うという都市間競争を展開してきましたけれど、不毛だということが認識されつつあります。一方で、転出阻止のほうがやりやすい。その観点で注目されているのがシビックプライドなんです」
牧瀬さんによれば、一定数の自治体が行政計画に「シビックプライドを高めて、転出を阻止する」と明記しているという。「実際はシビックプライドによって転出が阻止されるといった相関データはありません。ただ、データを分析すると、シビックプライドが高い地域ほど、Uターン率が高いというのはあるようです」。
さらにシビックプライドは使いやすいという側面も。「地域愛を高めていこう」という場面においてシビックプライドは否定しにくいキーワードであることも。「国が推進する関係人口創出においてもそう。最近では地域の自治体が住民や民間企業、大学などとともに活動し、イノベーション事業などを行う『共創』の概念もありますが、そこにもシビックプライドは親和性が高いと感じます」。
シビックプライドを条例化するメリットとは。
「1点目は継続性ですね。条例がある限り、行政として相模原市役所はシビックプライドを醸成していくための事業を継続していくことになります。2点目は予算の根拠です。条例は法的根拠を有するため、事業実施のための予算が確保されます。予算があれば事業も実施されるので、成果が出るということです。3点目としては、条例は議会の意思。議会は住民が選んだ議員によって構成されているので、相模原市民の意思として推進していくとことを意味します」。
条例化によって目指すのはシビックプライドの浸透、醸成が考えられるが、そこに行き着くにはどのくらい期間が必要なのだろう。
「まったくの感覚的な私見ではありますが……。10年程度(市長が3期)継続していくと、濃く深くなっていくように感じています。地域活性化で成功した地域は、だいたい5~10年間、同じことに取り組んでいます。市長がシビックプライドに関心を持ちつつ継続して進めていければ、市民の理解も進み、濃く深く浸透していくと推察します。しかし、政治家は関心が変わりますし、政変が起きると終わってしまうこともまた政治の常。そこで、行政主導のシビックプライドから市民主導のシビックプライドに、どのように落とし込んでいくかがポイントだと考えています」。
思い出をいかにつくるか。大事なことは過程にある。
まきせ・みのる●法政大学大学院博士課程人間社会研究科修了、博士(人間福祉)。横須賀市都市政策研究所、財団法人日本都市センター研究室を経て現職。新宿区新宿自治創造研究所政策形成アドバイザーなど、多くの自治体シンクタンクでアドバイザーを経験。