写真家の池田宏氏による、写真展『現代アイヌの肖像』が『東京都人権プラザ』の企画展示室で3月30日まで開催されている。池田氏は2008年からアイヌの人々の取材を始め、2019年に写真集『AINU』を発表した。今回の展覧会では、2019〜20年に新しく撮影された肖像写真19点が展示されている。そして本展覧会の最大の特長は、写真の隣にそれぞれのインタビュー文も展示されていることだろう。
被写体は、池田氏が何度も訪ね、交流を重ねるにつれて次第に友人のような関係になった人たちだ。彼ら・彼女らの家の中や住んでいる土地の近辺、仕事場で撮られていることもあり、リラックスした優しいまなざしをしている。かっこよく写るその姿からは、被写体に対する尊敬の念も伝わってくる。被写体に親近感を覚えながら写真の横に展示されたインタビュー文のパネルに目を移すと、そこにある会話は決してすぐにのみ込める内容ではなかった。
アイヌとして生まれたことが引き金になった思わぬ人生の歩み、幼い頃に受けたいじめ、自分の子どもが差別されるのではないかと親になってからも続く不安。そしてアイヌの誇りを持ち、文化を継承したいという思い……。「アイヌ」とひとくくりにはならない、一人ひとりの言葉の重みがそこには記されている。
展示されている肖像写真は、この人のことをもっと深く知りたいと思わせる強い力があるものだ。さらにインタビュー文を読むことで、それぞれの生き方や考え方が、詳細に立ち現れてくる。この展覧会で出会った人たちの声も伝えたいと思った写真家の想いを感じながら、19人と目を合わせ、その言葉に耳を傾けたい。
『現代アイヌの肖像』
2021年3月30日まで、『東京都人権プラザ』にて開催中。