生き方や働き方が多様化している今、恋愛や結婚のかたちも様々だ。特に婚活が一般化してきた昨今では、異なる業界で働くカップルも増えているのでは。同じ会社や同業種同士に比べて、異業種カップルの場合はお互いに新しい価値観を与えられる一方で、生活時間やスタイルが異なることにより、思いもよらない行き違いが生じることも。福岡市の企業でWebディレクターとして働くE子さんの夫は、老舗の酒蔵で酒造りに携わる蔵人。IT業界と伝統文化という全く異なる世界にいた2人の、出会いから結婚までのストーリーを尋ねた。
Webディレクターと蔵人、出会いは婚活パーティ
福岡市でWebディレクターとして働くE子さんが5歳年上の夫と出会ったのは32歳の夏、婚活パーティがきっかけだった。転職して5年以上が過ぎ、大型案件を担当するようにもなって仕事の面白さを感じる一方で、「いつかは結婚したい、特に出産はリミットがある」と思い婚活をスタート。ひとまず気軽に参加できるパーティに申込んだという。しかし当日は会議が押してしまい、さらに台風も接近中。仕事の疲れを引きずりつつ、悪天候の中パーティへ参加したE子さんだったが、モチベーションは下がり気味だった。「せっかくだしワインでも飲んで帰ろう」程度に思っていたところ…
E子さん「料理とワインを手に自分の席に戻ると彼が佇んでいて、お話しいいですか?と。話してみると感じがよかったので連絡先を渡しました」
そしてパーティの帰り道には彼から連絡が来てやりとりが始まり、盆休み明けに2人で会う約束をする。
初デートは蔵人ならではの店選びに好感度急上昇
初デートまでの間、E子さんと彼は当日の予定をSNSで相談していた。
E子さん「最初のデートってお互いの趣味や価値観を見極めるのに結構大事ですよね。でも事前のやりとりでは、彼からなかなか具体的な案が出てこず…初デートなのに?とちょっとモヤッとしました(笑)」
結局、E子さんが選んだ映画を見て食事をすることになったが、店の方は彼がしっかり予約してくれていた。しかも、当時食通に話題の人気店だったという。
E子さん「私もずっと行きたかったけど予約が取れなかったお店だったので、すごく嬉しかったです。2軒目は彼の知り合いがやっているというバーに連れて行ってくれました」
食の好みはカップルにとってかなり重要な要素といえる。嗜好が共通していたことに加え、事前のやりとりの段階でE子さんが感じていた“モヤッと感”を一掃する、素晴らしい店のセレクト。彼の逆転ホームランともいうべきエスコートに、E子さんはかなり心を掴まれたという。
E子さん「帰りに彼が働く酒蔵で作ったお酒をくれて、『今日はありがとう』って言ったんです。素直に感情を伝えてくれるし、変な駆け引きが感じられなくて、一緒にいて楽だなと思いました」
Webディレクターとして見過ごせない!告白はまさかの仕切り直し
次のデートは秋のはじめのドライブだった。結果的にこの日から交際がスタートするのだが、告白のシチュエーションが想定外だったとE子さんは振り返る。
E子さん「車内での会話の中で彼が何か言い間違いをしたんですよね。それで恥ずかしがってる彼に『それ以上に恥ずかしいことをしたら薄れますよ』って言ったら、『俺と付き合ってください』って口を滑らせて(笑)。なんとなくお互いに気持ちはあることは分かっていたけど、これじゃ私が誘導したみたいだし、言うのはここじゃないでしょ!と。それで夜に、私が持ってきた花火をしながらもう1度告白させました」
Webサイトのインパクトあるデザインや展開を演出する仕事柄なのか、交際スタートの瞬間はE子さんのディレクションにより、意外な形で思い出に残るワンシーンとなったようだ。
多忙な酒造りシーズンは日帰りも
こうしてスタートした2人の交際。WebディレクターのE子さんは忙しいながらも、比較的自分でコントロールしやすい仕事だったが、問題は蔵人である彼の方だった。10月から仕込みが始まり、翌2月までは繁忙期といわれる酒造り。そのハイシーズンを前に交際が始まり、当初は「なかなか会う時間がないのでは」と心配したそうだが、それでも週に1度は会っていたという。
E子さん「私も平日は仕事が忙しいし、1人の時間も欲しかったので週1ペースがちょうどよかったです」
しかし、E子さんが住む福岡市と彼の住む街は車で1時間半ほど距離があり、たいていは週末に彼が車で福岡市にやってきていた。
E子さん「酒造りが本当に忙しい時期は日帰りとか、日曜に来て月曜の夜中に帰ることもありましたね」
既読つかず…異業種あるある?SNSメッセージのすれ違い
彼は早朝出勤。夜送ったメッセージの返信は翌日
お互いに多忙な中、週1回会うのが精一杯だったE子さんと彼。しかし仕事に対する価値観が似ていたことで、どちらかが寂しさを感じたり束縛するようなことはなかったという。
とはいえ、Webディレクターと酒蔵勤務の蔵人では生活時間が全く異なり、こんな弊害も…。
E子さん「連絡は毎日してたんですが、私が仕事から帰って夜メッセージを送っても、朝が早い彼はすでに寝ているのですぐに返信はきません。早い日は夜中3時頃に家を出ることもあるので…。でも翌日には返信してくれましたし、だんだんこのペースにも慣れてきました」
SNSでスピーディにやりとりできる今、若ければもしかするとどちらかが不満に感じてしまったかもしれないが、年齢的にもお互いの仕事やプライベートを尊重できる程度に落ちついていたのがよかったとE子さんは言う。
疲労困憊の彼を遠出に誘いケンカも
交際から数カ月が経った頃、E子さんが観たかった展覧会のため、長崎まで車で日帰り旅へ行くことに。しかし、冬は酒造りの忙しさがピーク。疲労が溜まっていた彼は、長崎へ向かう車を運転しながらしばらく不機嫌だったそう。
E子さん「当時SNSは映えブームで、友達の投稿を見て羨ましくなり(笑)。彼が疲れてるの分かってて、『車あるし行こうよー』なんて気軽に言ってしまったんです。でも運転中ずっと無愛想だったので、私は怒られたと勘違いして文句を言ってしまって、ちょっとケンカになりました。もちろん私が悪いのですぐに謝って、その日のうちに仲直りしましたけどね」
毎週、彼が来てくれることに対し、慢心から気遣いに欠けていたのかもしれないと振り返るE子さん。働き方、生活時間の違いまで含めて、お互いを思いやることが大切だと改めて感じたという。
恋は盲目…にならない冷静さが良かった
異業種ならではのちょっとした行き違いはありつつも、大きなケンカやトラブルに発展することはなく、穏やかな交際を続けていった2人。どんな恋愛でも多少は出てくる焦燥感や束縛欲求はほとんどなかったとE子さんは振り返る。
E子さん「ストレスなく冷静でいられたのは、お互い依存せずに自分の生活も大事にできていたからかもしれません」
さまざま人生経験を経た30代という年齢、キャリアも安定し仕事へのモチベーションも高い時期。「この恋は絶対逃せない!」「相手が自分の全て」という“恋は盲目”的な恋愛依存に陥ることなく、お互いを尊重しあえる関係を築けていたというわけだ。
婚活スタートの恋愛は目標が明確
結婚については婚活がきっかけだったこともあり、当初からお互い意識はしていたという。
E子さん「夫は実家暮らしというのもあって、毎週末出かけていく生活の変化に両親もすぐに気づいたらしく。それで、付き合いはじめてわりとすぐ、彼の地元のお祭りがあったので、それを見に行くのに合わせて両親にご挨拶しました」
そして初めてのクリスマスで「ずっと一緒にいたい」という半ばプロポーズのような言葉を言われ、年明けにはE子さんの実家へ挨拶に。
E子さん「婚活パーティからあまりにトントン拍子で進んでいったので、彼は両親に『結婚詐欺なんじゃない?』と疑われていたみたいです(笑)」
秋から冬にかけての彼の繁忙期を考慮して1年ほどかけてゆっくりと準備を進め、翌春に結婚式を挙げ入籍。その後は子どもも生まれ、現在はE子さんが彼の実家近くから福岡市へ通勤しているという。
全く異なる業界にいた2人が、結婚という同じ目標に向かって穏やかに交際を進められたからこそ、今がある。情熱的に燃え上がる恋愛ではないけれど、長い人生を共にする相手だからこそ、時には俯瞰で見ることが必要なのかもしれない。