MIA MIA 街角にあるコミュニティのためのシェルター。
私は歩くことが大好きで、知らない街をよく散策する。散策の最大の楽しみは、街角のカフェを探すことである。そこに座って街を観察すると、街の出来事がいろいろと目に入ってくる。古来、日本では交差点に市が立ち、人が集まり、街になっていった。街角カフェとは、その街の歴史を凝縮して味わう最良の観客席でもあるのだ。
『 MIA MIA』は、最近出合った中で一番のお気に入りだ。店の名前はオーストラリアの先住民の言葉で「家族や友人、通りかかった人などが集うシェルターとして建てられた小屋」という意味だという。コミュニティのためのシェルター、なんと素敵なコンセプトなのだろうか。店主のヴォーンさんの明るく優しいホスピタリティは店先まで行き届いている。空間デザインは、奥さんの理恵さんが手がけているが、ショーケースや窓枠や段差などは元の空間のままうまく生かしている。看板がついていた部分は赤くペイントして潰して、新しく小さい看板をそっと付けるなど、空間自体を愛おしみながらていねいに手を入れている。店舗であり住宅であるような感覚の設計だ。理恵さんは実力派の若手建築家だが、子育てをしながら建築を続けていくために、バリバリ働いていた共同主宰の事務所を離れ、自分のペースで仕事をする道を選んだ。理恵さんの設計スタッフが時々カフェを手伝っていたり、ヴォーンさんの知り合いのアーティストの作品がショーケースに展示されていたりと、二人の人生のおもしろさがこの場所にギュッと詰まっている。
「カフェは知識を吸収する場であり、文化を交換する空間、そして社会の多様性を無視せず、育み、醸造する地域のシェルターです」、そんなコンセプトに興味を持ったなら一度ぜひ訪ねてみてほしい。文化の交差点が醸し出す特別な“グルーヴ感”を、間違いなく味わえるはずである。
『MIA MIA』
住所:東京都豊島区長崎4丁目10-1
施工年: 2020年