福島県北東部、県庁所在地の福島市からは車で1時間ほどの場所に位置する飯舘村。見渡す限りの自然が心身をやさしく包み込み、穏やかな時間が流れているのが感じられる。東日本大震災の影響で村の人口が減少してしまったが、新たに移住して自分の思い描く生活を送る人も。飯舘村の移住支援やそこでの暮らしについて話を伺った。
村のにぎわいをつくるため、移住定住を支援。
福島県・飯舘村では、「までい」という方言をよく耳にする。「ていねいに、真心を込めて」という意味で、これまでの消費中心の生活を見直して、自然と人とのつながりを大切にした村づくりに力を入れている。2011年の東日本大震災の影響を受けて村全域が計画的避難区域となった同村は、17年に避難指示が解除されたが(23年5月には一部の地区を除き全域解除)、村の居住者は避難前の約6000人から約1500人へと大幅に減少してしまった。そこで同村は村内のにぎわいを生み出したいと移住支援を積極的に行い、『いいたて移住サポートセンター』を22年7月にオープン。移住希望者に向けて住まい、仕事、補助金についての相談に乗ったり、移住を決めた人に向けて生活インフラに関する情報を提供したりしている。自身も移住者である同センター相談員の山本耀司さんは、「飯舘村の人は、村外の人に対してもとてもオープンな性格。交流があって、ここでは人間らしい生活が送れていると実感しています。また、移住者でユニークな起業をされている方も多くいます」と話す。
自分らしさあふれる、自然との暮らしが最高。
約1年半前に宮城県仙台市より移住してきた彫刻家の清水直土さん。制作や作品置き場のことを考えて、以前から憧れていた自然豊かな環境で暮らしたいと思うようになったという。「さまざまな地域で移住の相談をする中で、彫刻の制作環境に寄り添い、役場の方が真摯に対応してくださったことに好感を持ち、ここに決めました」と清水さん。一軒家で暮らしながら日中は森林組合で働き、帰宅後の時間や休日を使って創作活動に打ち込んでいる。「ご近所さんや仕事仲間から野菜をいただいたり、都会では出合うことのない動物に遭遇したり。飯舘村はとても豊かな経験をさせてくれる場所です。人の温かさを日々感じ、自然と向き合って強く生きながら、自分なりの豊かな暮らしができていると思います」と清水さんは楽しそうに語ってくれた。
畜産業復活を目指して、本気で打ち込む。
埼玉県で育ち、建設業に従事していた天野浩樹さんは、農業・畜産業を営んでいた祖父を手伝うために飯舘村の隣の相馬市に移住。その後東日本大震災を経て、肉用牛の繁殖に本気で取り組みたいと思うようになり、夏の冷涼な気候を生かして同村で盛んだった畜産業を復活させたいと、約1年半前に家族で移住した。交付金などを活用して牛舎を建設し、現在は母牛50頭を飼育している。「移住前は牛舎と住宅の距離が近く、牛のお産のときに鳴き声が響くなど、周囲に気を使うことがありました。飯舘村の人々は『牛は鳴くもんだ』と牛に対する理解があり、以前牛を飼っていた人が子どもを連れて様子を見に来ることもあります。今後、畜産農家を目指す仲間が増えるとうれしいですね」と天野さんは話す。また、天野さんは、のどかな場所で自然に触れながら子育てができ、移住者も含めて村民同士の関わりがある暮らしを気に入っているという。
自然豊かな環境で、安心した暮らしを送る。
福安恵巨さんは2018年、子どもが小学校に入学するタイミングで宮城県仙台市からに飯舘村に移住した。「子どもにとって安全な環境であるかを確認し、仕事を確保した上で、実家の福島県二本松市に近く、教育制度が充実していること、自然豊かなことに魅力を感じてここに決めました」と福安さん。移住相談の際、役場の方々が笑顔で出迎え、福安さんの質問に対してもきめこまやかに回答してくれた点も安心できたと振り返る。移住してから約6年が経ち、より希望に沿う仕事や住まいを見つけることができて、満足しているという。「飯舘村のお米、野菜がおいしくて、ここに来て初めて食べる野菜もありました。近所で暮らす人たちは気兼ねなく声をかけてくれて、いい人たちに囲まれていると実感しています」。
村には都会のような便利な暮らしはないが、豊かな自然と人情あふれた温かな暮らしはある。そんな生き方に興味がある人は、まず村を訪れてみてはいかがだろうか。
食事、買い物でひと息!
Information
いいたて移住サポートセンター
住所/福島県相馬郡飯舘村伊丹沢字伊丹沢578番地1
tel. 0244-68-2850 mail. iju@iitatelife.jp
飯舘村への移住に少しでも関心がある方へ、村での暮らしや補助金についてご紹介します。ぜひお気軽にご相談ください!
photographs by Yusuke Abe text by Mari Kubota