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特集 | 続・道の駅入門

牧野富太郎の故郷・佐川町から、身近にあるいいものを発信する『まきのさんの道の駅・佐川』

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TOP写真:約700種の山野草が植えられた佐川町の『牧野公園』内に咲いていた、秋の花「ヒメノボタン」。

高知県の中西部にあり、仁淀川の支流が流れる佐川町に2023年6月に誕生した『まきのさんの道の駅・佐川』。まちをまるごと植物園に見立てた「植物のまち」にできた道の駅とは。

身近を見つめるきっかけ。『まきのさんの道の駅・佐川』。

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目次

足元の草花を慈しみ、みんなで愛でる。自然豊かな里山に、道の駅ができました。

日本を代表する植物学者・牧野富太郎の生まれ故郷であり、生家がある高知県・佐川町に新しくできた道の駅の名前は『まきのさんの道の駅・佐川』。「まきのさん」は人名かと思いきや、「実はそうではないんです」と駅長の宮中仁さん。「佐川町のみなさんが大切にしている場所のひとつに、四季折々の植物が楽しめる『牧野公園』があります。『牧野公園』以外にも、自然を身近に感じられる場所がたくさんあって、このまちの人々は植物を一種の共通言語としてコミュニケーションしているところがあると思うんです。『まきのさん』はそんなまちの総称として名付けられました」。この道の駅を身近にあるものを見つめ直し、いいものを発信していく拠点にしていきたいという思いも込められているという。

皿鉢料理のようにごちそうを並べる場所に。

高知県南国市生まれである駅長の宮中さんが佐川町に興味をもったのは、東京・銀座にあるアンテナショップ『まるごと高知』を立ち上げた13年前のこと。「高知県内の地域密着型の小売店に勤めていたのですが、『まるごと高知』の立ち上げに関わることになり、県内をぐるりと回って産品を集めていました。そんな時にふと気づいたのが、佐川町の加工品がほかの市町村に比べて極端に少ないこと。日本酒では『司牡丹』という有名な蔵はあるし、産地としていいお茶をつくっているのに知られていない。いいものはたくさんあるはずなのに、佐川ってどんなどころなんだろうと気になっていたんです」と宮中さんは振り返る。

駅長の宮中仁さん。

その後、小売りのプロとしての手腕を買われ、佐川町の道の駅の立ち上げに誘われた宮中さんは「やりがいのある仕事になるだろう」と6年前に佐川町へ。まず『さかわ観光協会』に在籍してまちの歴史や価値を学びつつ、道の駅の立ち上げを進めていった。

準備期間中に、どのような道の駅にしたいかを考える住民ワークショップを重ねて、出てきたのが「ごちそう佐川」というキーワード。「佐川町は5つのエリアに分かれていて、それぞれが異なるアイデンティティや食文化をもっています。その5つすべてを大切にして、それぞれのおいしいものを集めて、高知県名物の皿鉢料理のように、ごちそうとして一皿に盛り付けていきたいと考えるようになりました」。

「ごちそう佐川」のコンセプトどおり、地域のおいしいものが集まっている。

佐川町のストーリーを語るようなオリジナル商品もつくりたい。そんな思いで生まれたのが、佐川町産米粉を100パーセント使用したバウムクーヘン「ごちそうバウム」だ。佐川町には日本列島の生い立ちを探るための重要な地層があり、明治時代にはドイツの地質学者であるエドモンド・ナウマンも訪れたことから名付けられた「佐川ナウンマンカルスト」という見どころもあることから、地層に見立てたバウムクーヘンがつくられた。道の駅内にある『gochisou Lab. KOCHI』で製造されていて、食べるとふんわり、ほろほろした食感とともに、豊かな香りも楽しめる。

町の枠組みを超えて、仁淀川流域で盛り上がる。

道の駅内『まきのさん市場』で扱う産品は佐川町にとどまらず、佐川町を含めた仁淀川流域の6市町村、土佐市、いの町、仁淀川町、越知町、日高村の産品も取り扱うことにした。

「エリアを広げたことで、風通しがよくなっていろいろなものが入ってくる。たとえば同じ野菜でも、時季によって仕入れをずらすことで旬のものが長い期間食べられるし、いろいろな種類も扱える」と宮中さん。市場では、流域の野菜、果物、日本酒、お茶、お菓子、お弁当、お惣菜などが賑やかに並んでいる。

こうした産品をはじめ、仁淀川流域のつながりは将来的に県を越えられたらいいと宮中さんは考えている。「長良川流域の体験やアクティビティができる『長良川おんぱく』は、岐阜県だけでなく三重県も入っている。この道の駅も、最終的には県を越えて愛媛県までつながり、仁淀川流域で盛り上がっていきたい。賑わいが生まれることで、新たな経済の仕組みも育っていってほしい。そして町民が身近にあるものに誇りを見いだし、より自慢できる場所になってほしいと思っています」。

道の駅の裏側に広がる「芝生広場」では食事や散歩など、自由に過ごせる。

道の駅の建設計画の途中には、敷地内にも植物に関連した場所を設ける計画が浮上していた時期もあったという。なくなったのは「この場所で完結するのではなく、道の駅をきっかけに本物に触れてほしい」から。「ここの役割は栄養をチャージし、情報をゲットして、周囲へとつなげていくこと。道の駅をきっかけに佐川町を訪れたら、歴史や文化など見どころがたくさんあるまちなかへぜひ足をのばしてほしいです。そうしたきっかけを道の駅の中にちりばめています」。

道の駅隣接の『佐川おもちゃ美術館』には、町内の林業家の協力でできた木の空間がある。林業が盛んな佐川町では、新生児に木のおもちゃをプレゼントしている。

みんなで育てる公園がまちの中心にある。

宮中さんがお薦めするスポットのひとつ『牧野公園』へ足を運んで驚いた。小高い山の斜面に植えられた700種近くある山野草には、手書きのネームプレートが付けられ、ていねいな解説札が立てられていたり、現時点での見ごろの花に関する案内板があったりと、愛情をもってお世話されているのがよくわかったからだ。元々この公園は牧野富太郎氏が東京から運んだソメイヨシノが植えられた場所で、桜の名所として知られた場所だったが、牧野博士ゆかりの植物を中心に、地域住民が育てた苗を植栽する「みんなで育てる公園」へとリニューアル。植物が好きな人が集まる『はなもりC–LOVE』のメンバーを中心に、週1回、誰もが参加できるボランティア活動を行って公園の手入れをしているのだという。

その根底には、まち全体を植物園と見立てて、植物園を通して人々がつながりあう「まちまるごと植物園」というまちづくりの取り組みがある。そのシンボル的存在として、家の庭や鉢植え、店の軒先や地域の花壇など、「育てることを楽しんでいる」場所に立てるロゴ・プレートがあり、道の駅をはじめ、まちのいろいろなところで見ることができる。『はなもりC–LOVE』のメンバー・山岡進さんも、妻の邦子さんと一緒に自宅の庭づくりを楽しんでいて、「まちまるごと植物園」のロゴ・プレートを取得したひとり。

山岡進さん・邦子さんご夫妻。「まちまるごと植物園」の登録開始日に役場へ行き、ロゴ・プレートを取得したそう。
2023年9月現在、佐川町全体のロゴ・プレート総数は136ある。

まちの人が植物に関する活動をするのにはそれぞれに違った思いがあるが、山岡さんの願いは、「路肩をコンクリートで固めるのではなく、道草を残す」こと。「希少性や価値ではなく、眼に入ったままの姿を愛でていたい。そういう思いを受け止める場所として、佐川を『植物のまち』にしたいという思いがありました。小さな草花でも、近寄って見るとかわいいんですよ」。そう言われてしゃがんで見た足元の草も愛らしくて、「身近なものを大切にするってそういうことだよなぁ」と思い出された。

佐川町内や周辺地域を見つめ直し、その「日常」に価値を見いだして発信している『まきのさんの道の駅・佐川』。このまちの「いいもの」が多くの人に届きはじめている。

『まきのさんの道の駅・佐川』・宮中 仁さんの、道の駅を楽しむコンテンツ。

Book:ボタニカ 朝井まかて著、祥伝社刊

牧野富太郎の人生を描いた長編小説。連続テレビ小説「らんまん」で、万太郎が通った学校のロケ地となった青源寺は苔が美しい場所なのですが、『ボタニカ』の冒頭部分からも、そんな佐川町独特の湿度の高さが鮮明に伝わってきました。

Book:佐川町観光ガイドブック さかわの栞

『さかわ観光協会』がつくったガイドブック。「見方を変えたり視野を広げたりすると、まちであり、身近なものがこんなにおもしろいんだ」と目を見開かされました。佐川町に住む人にも、訪れる人にもぜひ見てほしいです。

Facebook:道の駅お茶の京都みなみやましろ村

京都府のお茶畑が広がる農村地帯にある道の駅のフェイスブック。視察で参考になったのが、お惣菜やお茶を練り込んだスイーツを開発して施設内に加工所も設けていたこと。私たちが実現していきたいことを既にやられていて参考になります。

photographs by Madoka Akiyama text by Kaya Okada

記事は雑誌ソトコト2023年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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