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特集 | 地域×JR西日本の「地域共生」のカタチ。

地域の愛と誇りを乗せて走る「SL/DLやまぐち号」。【地域×JR西日本の「地域共生」のカタチ。[第10回 山口県編]】

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JR山口線の観光列車「SL/DLやまぐち号」は、新山口駅から津和野駅(島根県)までの62.9kmをおよそ2時間かけてゆっくりと走ります。レトロな客車を牽引して走るSL(蒸気機関車)やDL(ディーゼル機関車)は、観光の目玉であり、地域の人々に親しまれる誇れる存在です。

目次

45年間走り続ける「やまぐち号」。

JR新山口駅の1番ホームから「やまぐち号」が走り出すと、ホームにいる人たちは盛んに手を振ってお見送り。車内の人もそれに応えるように、満面に笑顔を浮かべて手を振り返します。「やまぐち号」が運行される日のいつもの朝の風景です。

左/ディーゼル機関車が牽引する「DLやまぐち号」。SLほどではありませんが、ディーゼル機関車のファンも多いそうです。右/最後尾の展望デッキから見えるホームで見送る人たち。
左/5両ある客車は旧型客車を再現したもので、それぞれにデザインが異なります。2号車は、緩くカーブを描く天井や丸ランプ、紺色の座席、垂直の背もたれなどが、レトロ感や懐かしさを感じさせます。右/乗車した人だけがもらえる、乗車記念切符。
左上/SLが現役だった頃の客車を忠実に再現した5号車。右上/車窓をのどかな里山の風景が流れていきます。左下/乗車記念のスタンプ。右下/3号車はSL資料展示や販売カウンター、SLの釜焚きを体験できるゲームなどがあります。

まだJRが国鉄だった昭和40年代。鉄道の近代化や合理化が進む中、SLはその姿を消し、山口線でも1973年にSLは走らなくなりました。しかし、地域の人々やSLファンから「復活させてほしい」という声が全国的に広がり、1979年8月1日、復活第一号として山口線に観光列車「SLやまぐち号」が誕生しました。以来、毎年3月から11月の週末や、年末年始を中心に走り続けています。

JR新山口駅の川﨑智史管理駅長は、2022年6月、自ら希望を出して異動してきました。「新幹線が大好きで、『やまぐち号』も魅力的で、さらに出発式もできますから」と笑います。

「地域の方々の『やまぐち号』への愛情を感じるのは、やはり『お手振り』です。沿線で畑仕事をしている方々が手を振り始めて、そこから自然に広がっていったようです。今では停車駅のホームや沿線の方々、途中に見える道の駅で買い物をしている方々など、多くの人が手を振ってくださいます」

「やまぐち号」を支える地域の方々。

島根県・津和野町名賀(なよし)地区で活動する『SL応援団』は、地域の有志が集まり、お手振りやSLファンと交流しています。結成のきっかけは、山に入って「SLやまぐち号」を撮影していた人の火の不始末から山火事が起きたことでした。

「そういう人たちを排除するのではなく、マナーを周知して歓迎する雰囲気をつくりました。どちらもSLを愛する気持ちは同じで、交流するようになりました」

そう語るのは『SL応援団』団長の村田隆義さん。応援団の集会所には、カメラマンから送られてきた多数の「SLやまぐち号」の写真が飾られています。絶好の撮影ポイントとなっている防災公園に芝桜を植え、草刈りをすることも『SL応援団』の活動です。

揃いの赤いジャケットをきて「やまぐち号」に手を振る『SL応援団』のメンバー。
ここが「やまぐち号」を見送るベストポジションのひとつとなっている「防災公園」です。

山口市の『NFデバイステクノロジー』社長の西田俊彦さんも、「やまぐち号」を自発的に応援しています。

「会社の近くに撮影ポイントがあり、遠くは鹿児島県や青森県から車でカメラマンが来ていたのですが、路上駐車が多く地元の方々が困っていました。そこで、7年ほど前から弊社の駐車場を会社が休みの時に開放しています」

この情報は、いわゆる「撮り鉄」と呼ばれる鉄道ファンの間に広がり、時には100台近い車が利用するそうです。次第に交流が生まれ、西田さんの会社にも、駐車場として借りた「撮り鉄」のみなさんから送られた写真が飾ってあります。

「それがきっかけで『やまぐち号』への興味も湧き、乗車もしました。客車に風情があり、撮影スポットでは煙を出してくれ、機関士が動かしていることが伝わってきました」

停車駅のひとつ、篠目(しのめ)駅は無人駅ですが、駅の周辺や線路内はきれいに草が刈られています。元・国鉄職員で2022年から篠目駅の名誉駅長を務める大岡孝知さんの「篠目駅をどこにも負けない駅にしたい」という思いに地域の方々が賛同し、駅周辺の清掃や美化に取り組んでいるからです。

「この駅には、煉瓦造りの給水塔が残っていて、テレビドラマ『砂の器』のロケや『青春18きっぷ』のポスターになっている自慢の駅。この駅に向かう急坂では、SLがモクモクと煙を上げ、その魅力的な姿を見ることができます」

大岡さんは、そんなSLを撮りにきた人たちを家に誘ってもてなすこともあるそうです。

『NFデバイステクノロジー』社長の西田俊彦さん。きっかけは路上駐車対策でしたが、今ではすっかり「やまぐち号」のファンになっています。
SLが現役だった頃を知っている篠目駅名誉駅長の大岡孝知さん。SLや鉄道への愛情が周囲の人々を動かしています。
大岡さんが持参して下さった貴重な写真の数々。「SLやまぐち号」と共に暮らしてきたまちの様子が伝わります。

地域の観光を、ともに盛り上げる。

地域自治体との連携も緊密です。『西日本旅客鉄道 中国統括本部 広島支社』(以下、JR西日本広島支社)は、山口県、島根県、山口市、津和野町、山口県警察本部が一堂に集まる「山口線SL運行対策協議会」をつくり、マナー啓発や観光振興、沿線の整備などについて定期的に話し合ってきました。

「お互いの情報を共有しながら、みんなで地域を盛り上げようという雰囲気が出来上がっています。これも長年の積み重ねがあってこそでしょう」と川崎駅長は語ります。

「クリスマスの時期には、クリスマス発祥の地とされる山口市のPRのために、クリスマス用のヘッドマークを付けた『クリスマス号』を運行しています。年末年始は、津和野町の「太皷谷稲成神社」への初詣のために、金文字の「賀正」と、鶴、富士山があしらわれたヘッドマークを付けた「津和野稲成号」が走ります。地元の観光PRにもなっています」と、JR西日本広島支社 地域共生の今山裕太さんは地域との連携の一例を挙げます。

JR西日本広島支社 地域共生の今山裕太さん(左)とJR新山口駅の川﨑智史管理駅長(右)。この場所は、バックができないSLが向きを変える転車台。現役で使われているところは全国でもわずかです。
毎年好評の「DLクリスマス号」。2023年も、12月23日土曜と24日日曜に走行しました。(写真提供:吉永昂弘)

2022年には、津和野駅開業100年を迎えて駅舎をリニューアル。2階の展望デッキから「やまぐち号」の発着をじっくりと見ることができます。駅前には国鉄D51形蒸気機関車が展示されていて、SLが観光のひとつの柱になっていることがうかがえます。

津和野町役場商工観光課課長の堀重樹さんは、「やまぐち号」の観光効果をこう語ります。

「年間1万5,000人くらいが『やまぐち号』で津和野を訪れます。列車が着くと周辺のお店はとても忙しくなり、人の流れができます。SLが故障して走らなくなると『いつ走るのか?』と役場に電話がかかってくるほど。みんな注目しています」

津和野町観光協会事務局長の金子成一郎さんも、観光という視点から「やまぐち号」に期待します。

「津和野には古い歴史や文化があり、SLも動く文化財と言ってもいいかもしれません。『やまぐち号』で津和野を訪れ、滞在していただき、ゆっくりと自然や文化を体験していただきたいと思います」

津和野町役場商工観光課課長の堀重樹さん(右)と津和野町観光協会事務局長の金子成一郎(左)さん。「やまぐち号」の観光効果は大きいと二人は口を揃えます。
左/多くの人が初詣に訪れる津和野町の「太皷谷稲成神社」。立ち並ぶ赤い鳥居が目を惹きます。右/津和野町の中でも歴史を感じることができる殿町通り。

運行を車内で支える人々。

満席ともなれば245人が乗る「やまぐち号」。車掌の仕事は、乗客の安全と快適さを支えることです。福嶋浩二さんは、2023年に一度定年を迎え、現在はシニア社員として「やまぐち号」の車掌を務めています。

「30年以上車掌を務めていますが、『やまぐち号』は特別な存在。お客さまがいい思い出をつくり、無事に帰っていただきたいと思い、務めています。通過する場所の歴史や文化、地理、SLや客車について車内放送で流しますが、内容を考え、私たち車掌が語りも担当していますので、耳を傾けていただければうれしいです」

「やまぐち号」の車掌を務める福嶋浩二さん。「ベテランですが、今でも乗務前は緊張します」と語ります。

乗客と接するのは車掌だけでありません。大学生がアテンダントとして乗車することもあります。山口県立大学文化創造学科地域文化創造論研究室と協力し、イベントなどの日限定で乗務し、写真撮影などの「おもてなし」を行っています。

「学生の立場で地域と関わり、観光を盛り上げることができるのはとても貴重な体験だと思っています。当初はマニュアル通りにすることで精一杯だったのですが、慣れてくるとお客さまとの会話を楽しむことも大切だと気づくようになりました」と2020年から参加している同大大学院2年生の藤原椋(ふじわら・むく)さんは、アテンダントを通して学びがありました。

同じく同大4年生の弘實真季(ひろざね・まき)さんは2021年からの参加。

「入学当時はコロナ禍で、学校に行けない日々が続いたので、少しでも人との交流を持ちたいと参加を決めました。記念撮影に一緒に写ったり、お手伝いしたり。車内アナウンスをすることもあります」

二人とも口を揃えるのは「笑顔での接客」。「明るく、ハキハキと答えるように心がけています。また車内ではきれいな姿勢を保つように気をつけています。SLやDLについて聞かれることもあるので、勉強も欠かせません」

アテンダントを務める弘實真季さん(左)と藤原椋さん(右)。着物をアレンジしたユニフォームが気に入っているそうです。ご要望とタイミングがあえば、お客様と一緒に記念撮影をすることもあります。

ブランディングで魅力を高める。

JR西日本広島支社では、川﨑駅長や沿線の駅員、運行や保守・点検を担う社員、車内販売などを行うグループ企業が集まり、あらためて「やまぐち号」のブランディングを考える「やまぐち号ワーキング」が発足しています。

「これまでは『やまぐち号』に関連するイメージが社内でも統一されていませんでした。そこで、ロゴやイメージカラーなどを決め、グッズにも統一性を持たせるようにしました」とJR西日本広島支社の今山さんは語ります。

現在、「SLやまぐち弁当」や「SLやまぐち号」に関連するさまざまなグッズを販売しています。中でも、蓋を開けた時に驚かされるのが「石炭ジェラート」。2022年12月から販売を始め、じわじわと扱う駅が増えています。つくっているのは『ジェラテリア クラキチ』の藤井蔵吉(ふじい・くらきち)さんです。

「JR西日本広島支社から、『やまぐち号に合わせた商品を開発してもらえないか』と声をかけていただいたことがきっかけでした。食べた人にSLの印象が残り、大人も子どもも楽しめるものと考えてたどり着いたのがSLを動かす石炭。色を真っ黒にして、ザクっとした食感のチョコクランチを入れています。旅の思い出になってもらえたらいいなと思っています」

左/山口県と津和野町の郷土料理や特産品を盛り込んだ「SLやまぐち弁当」。右/蓋を開けた時のインパクトはピカイチの「石炭ジェラート」。
「石炭ジェラート」を開発した『ジェラテリア クラキチ』の藤井蔵吉さん。「旅の主役は『やまぐち号』。ジェラートのことはちょっと思い出してもらえればいい」と語ります。

また2022年には、西日本最大の観光りんご園で知られる山口線沿線の徳佐地域と連携。SLマークが入った徳佐りんごをDLやまぐち号と新幹線でJR大阪駅まで運び、りんごやりんごのスイーツ、山口市の特産品などを販売しました。当日は、大盛況。山口出身者やゆかりのある人がオープン前から並び、「やまぐち号」のPRにもなりました。

JR大阪駅のイベントでは、DLやまぐち号で運ばれた、SLのマークが入ったりんごなどが販売された。(写真提供:JR西日本 広島支社)

「やまぐち号」が走る日常を続けていく。

実は、2023年、2台あるSLがともに修理に出ていてSLでの運行ができませんでした。「2023年8月に試運転した時には、走っている姿がSNSで拡散されたようで『いつから走るんですか』『展示だけでもしてほしい』という問い合わせや要望が相次ぎました」と今山さんはあらためてSLの人気に高さ、期待感を再認識しました。

「祖父母の世代と孫の世代が、共通の話題として盛り上がることが『やまぐち号』の魅力でもあります。沿線には地元のいいものがたくさんありますので、それらを再発見するきっかけとしても『やまぐち号』を活用していきたいです」

川﨑駅長も「やまぐち号」は山口線にとって特別な存在だといいます。「地元の人にとって、SLやDLが走るのは当たり前の風景で、SLと共に人生を歩んできた方もおられます。しかし、C57もD51も製造から85年近く経っていて、残念ながら永久に走り続けることは難しいと思います。だからこそ『やまぐち号』が現役で走るうちは、盛り上げていきたい。街のため、人のために楽しく盛り上がることは、どんどん挑戦していきます」と川﨑駅長は締めくくってくれました。

 2024年、「やまぐち号」は運行開始から45年の記念の年を迎えます。運転が始まる今シーズンには、修理から戻ってきたSLの姿があることを多くの人が期待しています。

復帰を心待ちにする人も多い「SLやまぐち号」。(写真提供:JR西日本広島支社)

「SL/DLやまぐち号」の詳細はこちら

JR西日本 広島支社・広岡研二支社長からのメッセージ

「やまぐち号」は、45年の永きにわたって山口線沿線の山口市・津和野町の方々をはじめ、地域の皆様に愛されて運行してきました。偶然通りすがった地域の方が「やまぐち号」に自然と手を振ってくださり、お客さまとの交流が生まれています。山口市湯田温泉や津和野の町並み等をつなぎ、自身も観光資源として地域価値の向上に貢献することができている「やまぐち号」の地域との営みは、「地域共生」の原点かもしれません。是非、山口にお越しいただき地域と共に歩む「やまぐち号」の旅を楽しんでいただければと思います。

魅力的で持続可能な地域づくりを。JR西日本が取り組んでいる、地域との共生とは?

JR西日本グループでは、2010年頃から「地域との共生」を経営ビジョンの一角に掲げ、西日本エリア各地で、地域ブランドの磨き上げ、観光や地域ビジネスでの活性化、その他地域が元気になるプロジェクトに、自治体や地域のみなさんと一緒に日々取り組んでいます。そんな地域とJR西日本の二人三脚での「地域共生」の歩みをクローズアップしていきます。

【第9回 広島県編】はこちらから。
今までに公開した【地域×JR西日本の「地域共生」のカタチ】の一覧はこちら
ぜひ他の地域の事例も読んでみてくださいね!

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photographs by Kiyoshi Nakamura
text by Reiko Hisashima

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