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関係人口

特集 | 関係人口入門 2023

どぶろくでまちづくり。新・『上代』が動き出しています!

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看板商品の「源流どぶろく上代」をはじめ、どぶろくの醸造・販売を行う鳥取県・伯耆町の『上代』。廃業の危機にあった地域の事業を救ったのは、地縁のない20代の二人でした。※TOP写真:遠藤みさとさん(右)と請川雄哉さん(左)。『上代』の拠点となる廃校になった旧・二部小学校で。

2009年に鳥取県初のどぶろく特区に認定された伯耆町。米子市街地から車で30分ほどののどかな田園風景が残るこの町の地元住民によって同年に立ち上げられたのが、どぶろくを軸に地域活性化を目指すまちづくり会社『上代』だ。自慢の美しい源流水とその水で育てた酒米で醸造される「源流どぶろく上代」は、13年に「全国どぶろくコンテスト」で最優秀賞を受賞したこともあり、時期によっては手に入らないほど県内外で人気を集めている。
だが内部では、経営陣とつくり手の高齢化などの問題によって、21年に廃業する話が進められていた。そんなときに新しい風が吹く。当時24歳の遠藤みさとさんが代表取締役社長に、26歳の請川雄哉さんが専務兼杜氏を承継することになったのだ。
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どぶろくは、仕込んでから約1か月半ほどで完成する。11月に仕込んだ新酒の樽の様子を確認する請川さん。
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上2枚/旧・二部小学校の敷地内にある醸造所。右下/醸造所の横にある降り積もる雪に覆われた旧・二部小学校の校舎。左下/一般的な日本酒づくりと異なり、どぶろくづくりではもろみを濾さない。もろみの粒が残り、白濁しているのはそのためだ。
目次

伯耆町との地縁のない20代の二人が事業継承した理由。

鳥取県米子市で生まれ育った遠藤さんは、関西の大学に進学して経営学を学んだ。その頃から地域活性化やまちづくりに興味を持つようになったという。「子どもが誇りを持てるようなふるさとをつくりたいという思いのもと、地元でコンサルティング会社を経営している父の姿や、父の会社のセミナーを手伝っていたときに出会った鳥取県内の経営者の方たちから大きな影響を受けました。私もまちづくりを通じて鳥取を盛り上げたいと思うようになったんです」。
将来的には鳥取県へ戻り地域活性化に関する仕事をする。そのための経験を積もうと大学卒業後は大阪府にあるコンサルティング会社に入社した遠藤さんだったが、働くなかで自分がやりたいことがより明確になっていき、目の前にある仕事との差に苦しむ日々が続いた。悩んだ末、2021年9月に会社を辞めて鳥取県にUターンした。地域に根付いたコンサルタントをやりたいという思いや、ありたい自分の姿になるために正直に行動することにしたのだ。
もちろんこの段階では、『上代』のことは一切頭になかった遠藤さん。転機になったのは、その年の12月に父親に誘われてなんとなく参加した「飲み会」だった。「その飲み会は家族ぐるみで仲よくしている『上代』の発起人のおじいちゃん、『上代』の多くの株主を集めたキーパーソンの方、株主の一人である私の父とで『上代』のこれからについて話をするための会だったんです。実はその時点で廃業が決まっていたのですが、三人は『簡単になくすわけにはいかんでしょ』と思っていたようです」。
幼稚園から小学校低学年の頃まで『上代』の酒米の田植えに参加していたものの、事業の詳細までは知らなかった。そこで改めて聞いたまちづくり会社としての『上代』の理念に共感し、素直に地元のいいものを残し続けたいと思った遠藤さんは、2回目の「飲み会」が開かれた席で社長を継ぐことを伝えた。「継ぐことに対する迷いはまったくなかった」ときっぱり話す遠藤さん。どぶろくをひとつの手段としたまちづくりの形に興味が湧いたと同時に、ファンがすでに付いているどぶろくを今後も地域のために残していきたいと素直に思ったからだ。「私は自分が『できるか、できないか』ではなく、『やりたいか、やりたくないか』で物事を判断したい。だからこのときも、自分の思いのまま動きました。よくも悪くも深く考えていないんですけどね」と茶目っ気たっぷりに笑った。
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右上/看板商品の「源流どぶろく上代」は、米を5割削り、低温・長期で醸造。どぶろくのイメージが変わるほどキレのあるすっきりとした飲み口。左上/「源流どぶろく上代」以外にも、どぶろくが初めての方でも飲みやすい「もろみ美人」や米麹でつくる「あま酒」もある。下2枚/瓶詰やラベル貼りも手作業で行っている。
遠藤さんが事業継承をするにあたり、製造部分を担当するビジネスパートナーとして声をかけたのが請川さんだ。請川さんは香川県の出身で、地元大学の農学部に入学。大学3年のときに1年休学して留学したインドネシアの山村で、ゴミ問題を解決する事業を地元住民とつくった経験がある。大学卒業後はメーカーの営業職に就いたが、自分の手で何か生産し、それを商品として届けるようなことをしたいという思いが募り退職。その後、留学時にお世話になったインドネシア人の友人が、鳥取大学に通うことを知り鳥取県を訪れた。
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地元のショッピングモールでのイベント出展や、どぶろくが飲めるイベントの開催など「知ってもらう場」を積極的に設けている二人。
「留学の経験からどこであろうと場所よりも人が大事なことに気づきました。鳥取に行ったのは友人に会うためでしたが、その後いろんな人を紹介してもらい、何かここでやれるんじゃないかと考えていたときに出会ったのが遠藤です。最初の出会いから3か月ほど経った頃に『上代』を一緒にやらないかという打診を受けました」と請川さんは振り返る。生産から販売まで一環して携われる仕事のあり方は、まさに求めていたもの。請川さんは遠藤さんと共に『上代』の担い手になることを快諾した。

自らロールモデルになり、地域活性化を目指す。

こうして2022年1月に開かれた役員会で遠藤さんは代表取締役社長に、請川さんは専務と杜氏に内定が決まり、8月の株主総会で正式に就任した。しかし、実際には内定した1月から前の杜氏からどぶろくづくりを引き継ぎ、新しい体制づくりに二人は奔走。いまのところ現場で動くのは遠藤さんと請川さんのみということもあって酒づくりから営業戦略、未来への種まきま1年経ったいまもやることが山盛りだ。
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右上/『上代』の拠点からさらに上に進んだ場所に、酒米「五百万石」を植える田んぼがある。左上・左下/大切な原料を育てる場であり、同時にコミュニケーションの場でもある。田植えと稲刈りには伯耆町の保育園に通う園児と親たちなどが参加。右下/2022年の稲刈りには請川さんの姿も。
現在、遠藤さんは米子市、請川さんは伯耆町に居を構え『上代』を運営しているが、そのほかにも遠藤さんは米子市のコンサルティング会社で、請川さんは伯耆町の隣に位置する日野郡の公設塾でも働くという二足のわらじを穿いている。この一年について聞いてみると、「ほんとうにめまぐるしかった」と二人は口を揃えて話した。だが、その顔は晴れやかでとても明るい。「『上代』のような第三者承継の形や複業など、新たな働き方についても自分たちが鳥取のロールモデルになれたらと思っています」と遠藤さん。そこに一貫してあるのは、地域をよりよくしていきたいという強い思いだ。
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これまでに一度も喧嘩をしたことがないという二人。「一人ではここまで絶対にできなかった。支えてもらっているなって思っています」と遠藤さん。
伯耆町は、住民の高齢化や空き家問題をはじめ多くの課題を抱えている。まちづくり会社『上代』として、どぶろくなどの商品の認知を広げながら、よりいっそうこの地に関わってもらう人をつくることが目下の目標だ。そのための仕組みづくりにも力を入れていく予定だという。「どぶろくのほかにも甘酒をつくっていて、この3月に新しい甘酒のブランドを発表します。また、私が昔参加していた酒米の田植えや稲刈りなどのイベントももちろんやっていきますし、いつか旧校舎をリノベーションしてカフェをオープンしたいと考えています。まずは近隣の町の人や、鳥取県内の人にこの町に関心をもってもらい、関わるきっかけを積極的につくっていきたいです」と、遠藤さんは目を輝かせる。
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事業所に掲げてある看板にははっきりと「まちづくり会社」と書かれている。
二人はどぶろくだけでなく、人や地域までもていねいに醸していく。新しい『上代』には多くの期待と可能性が詰まっている。
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冬には雪深くなる伯耆町。

『上代』の二人が気になる、関わりを楽しむコンテンツ。

Seminar:豆塾
https://office-beans.co.jp/mamezyuku
米子市のコンサルティング会社が開いている人財育成セミナーで、『上代』として参加しています。社長やマネージャークラスの方が多く参加していて、経営につながるヒントをたくさん得ています。(請川雄哉)
TV:セブンルール
関西テレビ
大学生の頃から好きで録画して観ています。番組で紹介された人に感銘を受けて実際に会いに行ったことも。いつか私も出られたらいいなと憧れていて、ルールもすでにひとつ考えてあります(笑)。(遠藤みさと)
Place:BAR ENZIAN
鳥取県米子市明治町228 綿辺ビル3F
マスターが25歳で伯耆町出身ということもあり、行くと同世代の地元の方や地域のおもしろい情報につながる大事な場所です。「源流どぶろく上代」を使ったオリジナルカクテルもここで楽しめます。(請川雄哉)
photographs by Katsu Nagai text by Ikumi Tsubone
記事は雑誌ソトコト2023年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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