地元のお酢蔵が、イタリア料理店『aceto』をOPEN。京都・丹後で動き出した、食の街化構想。

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京都駅から京都丹後鉄道の特急に乗って約2時間半。到着した宮津駅から10分ほど歩くと、新浜と呼ばれる花街の雰囲気を今に残している一角が現れる。ここに7月、古い民家を改修した南イタリア料理のレストラン『aceto』がオープンした。アチェートとは、イタリア語で「酢」の意味。明治26年から宮津で酢を造ってきた『飯尾醸造』が運営するレストランだからこの名がついたという。


ホール担当の藤本さん(左から2人目)は、『飯尾醸造』の社氏。「まったく畑違いですが、ブランド力アップと地域雇用、この2つの面からも(レストランのオープンは)意味がある」。広報も担当する葉奈さん(右端)は日本の原風景がある丹後を、この場所から発信していきたい」と語る。2番シェフの加畑さん(右から2人目)は「ゆくゆくは、自分もお店を出し、丹後を盛り上げる一翼を担いたい」という。こういう若手を育てるのも『aceto』の役割だろう。
ホール担当の藤本さん(左から2人目)は、『飯尾醸造』の社氏。「まったく畑違いですが、ブランド力アップと地域雇用、この2つの面からも(レストランのオープンは)意味がある」。広報も担当する葉奈さん(右端)は日本の原風景がある丹後を、この場所から発信していきたい」と語る。2番シェフの加畑さん(右から2人目)は「ゆくゆくは、自分もお店を出し、丹後を盛り上げる一翼を担いたい」という。こういう若手を育てるのも『aceto』の役割だろう。

「お酢蔵がなんでイタリアンの店を出すのか、不思議に思われる方も多いのですが、私はこの宮津を含む“丹後”を日本のサン・セバスチャンにしたいと思っています」。まっすぐな眼差しでそう宣言したのは、飯尾醸造の5代目、飯尾彰浩さん。サン・セバスチャンとは、スペイン北部のバスク地方にある人口17万人ほどの小さな街。”食“によるまちおこしに取り組んだことで、街全体のレストランのレベルがアップし、今では「美食の街」として世界中から観光客を呼び込んでいるという。


宮津市内から車で30〜40分ほど走れば、「舟屋」で知られる伊根町に。
宮津市内から車で30〜40分ほど走れば、「舟屋」で知られる伊根町に。

宮津市を含む京都府北部は、古くから丹後と呼ばれ、海あり、山あり、水もきれいな豊かな土地。食の神・豊とゆうけおお受大神かみを祀る由緒ある『本宮籠この神社』はその象徴ともいえる存在だ。「豊かな食材があり、天橋立や伊根の船屋など観光スポットも多く、しかも都市部から1、2時間。人口も含め、サン・セバスチャンと条件が似ている。これから丹後地方を活性化していくには、食に絞って取り組んでいくべきだと思っていろいろなところで、サン・セバスチャン構想を語っているんです」と笑う飯尾さん。『aceto』は、その第一歩になる場所なのだ。


「上かみせや世屋の棚田」では、『飯尾醸造』も米づくりを手がける。
「上かみせや世屋の棚田」では、『飯尾醸造』も米づくりを手がける。

 堂々たる築120年の建物。引き戸を開けると広い土間があり、左手の戸を開けると和風の造りにテーブルや椅子が並ぶ。襖や障子、欄間など、元からあったものを生かしながら落ち着いた雰囲気の空間になっている。2階には個室として使える部屋やソファ席でくつろいだり、外のテラスを見下ろせたり、いろいろに楽しめる場所がしつらえられている。


2階の部屋から外を望む。一幅の絵のよう。
2階の部屋から外を望む。一幅の絵のよう。

この贅沢な空間でいただけるのは、シチリアで修業してきた重康彦シェフの南イタリア料理。カジュアルで海の幸のメニューが多いシチリア料理なら、丹後の食材が使いやすいとイタリアンに決めた、という。飯尾さんが信頼する地元の有機農家や漁師さんたち、さらに飯尾さんのおばあさんの畑などから、地元の素材がお店に届く。「丹後の野菜や魚はとてもやさしい味がします。その素材を生かし、アクセントをつけるのが私の仕事。お酢蔵が経営しているので、いろいろなお酢を素材ごとに使い分けてメニューを考えていきたい」と重シェフは言う。


そこで、『aceto』に野菜を届ける農家のひとつ『SORA農園』を訪ねてみた。大場亮太さんと佐代子さんは、葉山から佐代子さんの祖父の地元である丹後に4年前に移住し、無農薬・無化学肥料で野菜、麦、豆、ハーブなどを育てている。「都会にないものがたくさんあります。シェフもおもしろい野菜を使ってみたいと言ってくださるので、ツルムラサキや空芯菜など、イタリアンでどう使うのだろうと勉強になります」。飯尾さんのサン・セバスチャン構想についてはどう感じているのか、尋ねてみた。「丹後はいいところですが、あまり知られていないのが残念。まだ漠然とした構想ですが、ここからなにかが始まるかと思うと楽しみですね。農場見学もそのなかに加わればうれしいです」。


もうひとり、宮津湾をこよなく愛し、漁業資源の保全、持続可能な漁業を目指した取り組みを行っている漁師の本藤どう靖さんにも会いにいった。宮津湾の豊かさ、ここにある海の可能性について語ってくれる本藤さんもまた、丹後の食の豊かさを多くの人に知ってもらいたいと思っている。「アジ、キス、クロダイ、サワラ、トリ貝、ムール貝、アナゴなど、魚種は豊富ですし、脂がのっていて本当においしい。私も漁船のツアーなどで、丹後の海の豊かさを伝えていますが、ひとりでやるには限界があります。『aceto』だけでなく、地元の食材を使い、それを伝える店が増えることに期待します」。


食の街を支える仲間たち


伝統的な手法に則って、米づくりからの一貫した酢造りに取り組むお酢蔵。


飯尾醸造


蔵の中には、発酵中のお酢の樽がずらりと並ぶ。


 


飯尾さんの家業『飯尾醸造』は、宮津で100年以上も続く老舗のお酢蔵。蔵の中には、発酵中のお酢の樽がずらりと並ぶ。蓋を開けてみると、発酵していることを示す酢酸膜が。そのお酢造りの出発点となるのが棚田。ちょうど金色に染まっていて、まさに刈り取りを待っている。自社の棚田を管理し、契約農家さんを取りまとめるのが伊藤浩二さん


飯尾さんの家業『飯尾醸造』は、宮津で100年以上も続く老舗のお酢蔵。蔵の中には、発酵中のお酢の樽がずらりと並ぶ。蓋を開けてみると、発酵していることを示す酢酸膜が。


飯尾さんの家業『飯尾醸造』は、宮津で100年以上も続く老舗のお酢蔵。蔵の中には、発酵中のお酢の樽がずらりと並ぶ。蓋を開けてみると、発酵していることを示す酢酸膜が。


飯尾さんの家業『飯尾醸造』は、宮津で100年以上も続く老舗のお酢蔵。蔵の中には、発酵中のお酢の樽がずらりと並ぶ。蓋を開けてみると、発酵していることを示す酢酸膜が。


飯尾さんの家業『飯尾醸造』は、宮津で100年以上も続く老舗のお酢蔵。蔵の中には、発酵中のお酢の樽がずらりと並ぶ。蓋を開けてみると、発酵していることを示す酢酸膜が。そのお酢造りの出発点となるのが棚田。ちょうど金色に染まっていて、まさに刈り取りを待っている。自社の棚田を管理し、契約農家さんを取りまとめるのが伊藤浩二さん。


料理、器、しつらえ。三拍子揃った丹後の名店。


魚菜料理 縄屋


『京都・室町和久傳』で修行したご主人の吉岡幸宣さん。丹後の素材を活かすことに徹している。飯尾さんが絶大な信頼を寄せる懐石のお店だ。


『京都・室町和久傳』で修行したご主人の吉岡幸宣さん。丹後の素材を活かすことに徹している。飯尾さんが絶大な信頼を寄せる懐石のお店だ。


葉山から移住。無農薬で、多彩な野菜を育てています。


SORA農園(大場亮太さん、佐代子さん)


丹後の暮らしが気に入っている二人。野菜を育てる農園は1.4ヘクタール。地元の人たちと一緒に手前味噌、手前醤油づくりにも取り組んでいる。


丹後の暮らしが気に入っている二人。野菜を育てる農園は1.4ヘクタール。地元の人たちと一緒に手前味噌、手前醤油づくりにも取り組んでいる。


宮津湾の漁業を盛り上げる魚の達人。


本藤 靖さん


国立水産試験場を退職後、プロの漁師に。トリ貝の養殖にも力を注ぐ。「シェフや料理人とつながると、こちらの思いが伝わっていくと感じます」


国立水産試験場を退職後、プロの漁師に。トリ貝の養殖にも力を注ぐ。「シェフや料理人とつながると、こちらの思いが伝わっていくと感じます」


地域全体を食で底上げ。


食による丹後の地域活性化を目指す飯尾さんは、家業のお酢蔵を継いで13年になる。昔ながらの製法で酢を造っているのも特徴だが、棚田での無農薬の米づくりから手がけ、その米と麹から”酢もともろみ(酒)“を造り、それを原料に酢を造る。その工程を一貫して行っているのは、日本でも『飯尾醸造』だけだ。


飯尾さんの家業『飯尾醸造』は、宮津で100年以上も続く老舗のお酢蔵。
飯尾さんの家業『飯尾醸造』は、宮津で100年以上も続く老舗のお酢蔵。

「こうした造り方を確立してきたのは祖父と父。祖父は、安心して食べられる、生き物がたくさんいる本来の棚田の米で酢造りをしなければ、と地元の農家さんを回り、無農薬米の栽培を広げてきました。父は、年々高齢化し、担い手も少なくなっている農家の方の負担を少しでも減らそうと新しい農法を試したり、農機具を貸し出したりしました。その根底には、私たちが丹後で酢造りができるのも、地元の米や水や人があってこそ、という考え方があったと思います」。今では自社の棚田をもち、田植えや稲刈りに顧客を招いてイベントを行い、『飯尾醸造』や丹後のファンを増やしている。丹後をサン・セバスチャンに、という飯尾さんの強い想いの背後には、『飯尾醸造』が地元を愛し、守ってきた歴史がある。


「これまでは、お酢蔵として生き残ることを考えてきましたが、飯尾醸造が残っても、丹後が生き生きとしなければ意味がない。私は食べることが好きで、海外にもよく訪れますが、地元で特に行きたいと思うお店に『魚菜料理 縄屋』さんがあります。丹後にはポテンシャルはある。実際に、京都を訪れた観光客のうち9パーセントくらいが丹後まで訪れるのですが、一人あたりが使う金額は3000円くらい。おいしいものを食べる場所が増えれば、丹後に宿泊する人も増え、地元の経済も活発になる。だからサン・セバスチャンなんです」


この日は東京からの団体客が。丹後の味に舌鼓を打つ。
この日は東京からの団体客が。丹後の味に舌鼓を打つ。

次は、同じ敷地内に、ネタにていねいに手をかけた江戸前のお寿司を出す店を計画している。飯尾さんの構想はまだひとつの点でしかないが、賛同を示す人が出てくる可能性は大きい。飲食店はもちろん、カフェやゲストハウス、雑貨屋などが現れてくると、点と点が有機的につながり、地域の雰囲気が変わってくるはず。おいしいものを食べにわざわざ丹後まで足を運ぶ。それが京都観光のスタンダードになる日は近いかもしれない。


『飯尾醸造』・飯尾彰浩さんのおいしいごはん三か条


一 なんといっても素材。


丹後のストーリーの見える素材なら、おいしさもアッ


二 シチュエーションが大事。


誰とどこで食べるかによって、同じ食事でもおいしさは変わる。


三 誰がつくったのかを知ろう。


料理をつくった人の思いを知れば、より深く料理を味わえる。


山ごはん、海ごはんをおいしくするキーワード


“伝えること”


食材が届くまでの背景、それらをどう活かそうと料理したのか、料理の背後にあるものを伝えることでよりおいしく、大事に食べていただけます。

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