何だろう!この深い香り……。幼い頃食べた燻製肉の香りがとても印象的だったのを覚えています。燻製のルーツをたどってみると、原始的で自然と深い関わりを持つ料理法だということがわかりました。昔の人はそのままではすぐに腐ってしまう肉や魚を塩漬けや乾燥、燻製といった技法で調理してました。元々は保存食として誕生した燻製、保存技術の発達した現代では、普段と違う味わいや芳醇な香りを楽しむためのものへと変化をとげた。そんな燻製の魅力に迫るべく、手作りの燻製づくりに日々情熱を注ぐプロフェッショナルにお話しをうかがってきました。遠方からのお取り寄せも後を絶たない、とびきりおいしい黒豚ベーコンもご紹介します。
燻製ってどういう食べ物?
燻製とは、木材を燃やしたときに立ち昇る煙で食材をいぶした食べもの。あらかじめ塩漬けにした肉や魚などを素材に使うので、ある程度脱水されていることや、燻煙にあたることで食材のなかの水分が減り保存性が高まります。さらに木材から発生する成分が食材を殺菌するというメリットもあります。
素材の味を何より大切にし、無添加と無冷凍のお肉で燻製づくりをする専門家、畑中昭夫さんにお会いしてきました。
畑中さんは北海道で手作りハムと燻製の店「あおい杜」を運営している。青森県出身で帯広畜産大学に通うために北海道へ移住した。大学卒業後は池田町の農協に就職し、30代に友人の影響で燻製作りに出会う。その時をこう振り返ります。
畑中:大学時代の友人がドイツへ酪農実習に行って戻ってきた時に遊びに行ったんです。庭に大きな石のゴミ焼ききがあったので「ここで燃やすのか?」と聞いたら、「バカヤロー!これは燻製を作る機械で“スモーカー”っていうんだぞ!」と聞いて驚きましたよ。
畑中:ドイツでは酪農家が春先に子豚を何匹か買ってきて、残飯なんかを与えて育てるみたいだね。秋になったらハムとかベーコンを作る職人さんが各農家を回ってその豚をと畜(食べるために殺すこと)してハムやベーコンを作っていってくれるんだって。友人はそこで燻製に出会ったと言っていたね。
畑中:自分も友人から話を聞いて燻製作りに興味を持ったので、そこから更に本を5−6冊買って勉強したんです。当時住んでた社宅の庭に、板やレンガを買ってきてオリジナルのスモーカーを作ったのが始まりでした。こんなワイルドな調理法があるのか!と感動しましたね。
そこから20年、趣味が高じて脱サラし2011年に「あおい杜」を東川町にオープンした。自分の将来の働き方を見直すタイミングだったり、家族に本物に燻製肉を食べさせたいという思いからだった。青森出身で自然が好きなので、店は「あおい杜」と名づけた。
無添加にこだわって30年!
燻製づくりの朝は早い。身支度を整えて毎朝8時前までには工房に入る。
肉は道内産にこだわり、添加物も一切使わない。お子さんが生まれた約35年ほど前、農協で働いていた畑中さんは家庭で食べるもの、もできる限り食品添加物や農薬の少ない食品を選んできた。「保存料や食品添加物を使わないと、色味は落ちるし正味期限は短いが、健康を第一に考えてお客さんに届けるものは無添加のものにこだわっている。」
自然が好きで野生動物の生態などにも興味を持っている畑中さんらしい調理法だ。
普段気軽に作ることのできない燻製ってどんな工程で作られるでしょうか? 次のページでご紹介します。
HOW TO 燻製づくり
◎燻製づくりの手順
基本的な作り方は、①下ごしらえ、②塩漬け、③塩抜き、④乾燥、⑤燻煙という流れ。いぶし方には冷燻・温燻・熱燻の3通りがあり、あおい杜では主に温燻法という方法で燻室内を約75度まで熱して何時間もかけてじっくりと肉を燻煙する。既成スモーカーを使って自分で気軽に楽しむなら燻煙時間の短い熱燻を取り入れるのが主流となっている。
①下ごしらえ
素材を加工しやすいように下処理。例えば、肉は余分な脂肪や骨を切り落とし、キレイに洗います。血抜きが必要な場合はここで行う。新鮮な素材を選ぶのも臭みを残さない重要なポイントとなる。
②塩漬け
素材を塩で漬け込みます。このタイミングで下味を付けることになるので、塩と一緒に砂糖やスパイスなども混ぜ、調味をします。塩漬けの方法は、素材や製法の種類によって、「乾塩法」または「ソミュール液法」のどちらかで行なう。
「乾塩法」……素材に塩・砂糖・スパイスなどを混ぜたものを直接まぶす。
「ソミュール液法」……塩分濃度4〜30%程度の水に砂糖やスパイスを入れて火にかけ、沸騰させてから冷ました液体に食材を漬け込む方法。漬け込み日数は調理法による。あおい杜のベーコンは約2週間じっくりと漬け込んでいる。
③塩抜き
流水に当てて、食材表面に付いている余分な塩分やスパイスを洗います。塩抜きは食材の大きさにもよりますが数十分~丸1日ほどかかることも。塩抜きすることで食材の味を均一にする。
④乾燥
風がよく通る場所で、塩抜きの終わった食材を乾燥させる。表面の水分が渇けばOK。表面に水分が残っていると煙の苦味成分が付いてしまうので、表面だけはしっかり乾燥させる。
⑤燻煙
木材をスモーカーの中で燃やして煙を出し、乾燥が済んだ食材をいぶします。いぶす時間と温度によって「冷燻」「温燻」「熱燻」の3製法があります。燃やすのは、サクラやナラ、ブナなどから作るスモークウッドやスモークチップ。あおい杜では香りがいいからと、ほとんどの製品に北海道産ミズナラの木を使っている。
一般的な流れはこんな感じだが、工程方法は作り手によって異なります。
「燻製作りにマニュアルはない。奥が深く、仕上がりも毎回同じにはならない。火の加減を確認しながら、換気口で温度調整する作業で 仕上る色の出方を調整しているんですよ。」と、畑中さんは教えてくれました。
燻製の王様「ベーコン」
あおい杜で一番人気のベーコンの魅力は何と言っても料理の味を豊かにすること。そのまま焼いても美味しいですが、塩分を活かして調理のダシにすると他の素材がさらに引き立ちます。
ここへは地元客だけではなく、札幌や帯広といった車で2時間以上かかる場所からの来店も多い。町内を旅行で訪れた人が観光案内などでお店を知り、関東や関西へ戻った後は電話で注文してくれるようになる。確かに、このベーコンは一度食べたら忘れられない味なので納得です。2週間ソミュール液で漬け込んだ旨味が黒豚の脂身にもしっかりと染み込んでいます。全国への発送も可能で、道内産の肉のおいしさをくずさないために無冷凍の冷蔵便で届きます。
最後にベーコンを使ったおすすめ料理をご紹介します。ぜひお気に入りのベーコンで作ってみてください!
取材協力:あおい杜
北海道上川郡東川町南町2丁目3番2号
TEL・FAX/0166(82)2310
営業時間 午前10時〜午後7時
定休日 火曜日(2021年1/12〜19まで臨時休業)
北海道産、北あかりで作るジャーマンポテト!
北海道産、北あかりで作るジャーマンポテト!
ジャーマンポテトはドイツの代表的な家庭料理。ベーコンのうまみを生かし、じゃがいもをこんがりさせるのがポインです!