大正から親しまれる米沢のラーメン
ラーメン消費量全国TOPの山形県。その中で米沢のラーメンは、毎日食べても食べ飽きないあっさりした味で、大正から昭和に移り変わるころから親しまれてきたという。
地元の人にとってのラーメンは「ハレ」と「ケ」の間のちょっとしたご馳走で、家にお客さんが来てお昼に差しかかると、「そば取ったから食べていって」とそれとなく出前の中華そばを用意するのがお客さんへのおもてなし。米沢で「そば」と言ったら中華そばのことだ。
交際している彼女のご両親に初めて挨拶に行き、寡黙なお父さんの前で緊張して汗をかきながら伝え、何も言われずとも中華そばが出てきたら、それが認められた合図だという人もいる。
娘を祝福する父の複雑な想いをも代弁する。そんな風に暮らしに密着しているのが米沢のラーメンだ。
王道 支那そば 「熊文」
グルメサイトの人気ランキングで不動のトップ3に入る「支那そば 熊文(くまぶん)」は、王道の米沢ラーメンの名店だ。
麺はツルツルと喉ごしの良い多加水の細縮れ麺。
油が少なくあっさりしながらもコクのあるスープは、ほんのり甘味と煮干しの香りがする。
チャーシューはしっかり締まって、噛みしめるほど肉のうま味が出てくる。
「先代から店を引き継いで、仕入れ先から作り方まで変えないことを大事にしているんですが、同じ味を再現するのが難しいです。」
と語るのは、二代目を引き継いで2年、23歳の若い店主。高校一年生からアルバイトをしたことが縁で、先代が30年切り盛りした店を任されるようになったという。
後継者不足で老舗の名店も廃業する昨今、血縁でなくても跡を継いでくれる若者がいることは、地元の僕らにとってもありがたいことだ。
「熊文」の由来はお婆さんの畑
店主に「熊文」という店名の由来を聞いてみた。
先代がお婆さんの畑だったところに店をつくったので、その名前「大熊文(おおくまふみ)」さんから取って「熊文」としたそうだ。
これは地元の人でもほとんど知らないのではないか。
平日はスーツや作業着姿で仕事の合間に、休日は小さいお子さんを連れたご家族などで賑わい、常連さんも多い。
そのお客さんの7~8割が「中華そば」を注文するそうだ。
代替わりしても来てくれるのがありがたいと店主は言う。
米沢のラーメン文化は時代とともに幾分変化しつつあるものの、古き良き文化も続いていって欲しいと願っている。