100年に一度花を咲かせるという意味から、センチュリープラントという別名を持つリュウゼツランだが、“100年に一度”は大げさだ。「日本では30~50年くらいで開花する」と園芸研究家の小川恭弘さんは言う。 南房総で、空高く伸びたリュウゼツランの花を今年はよく目にした。「どうして今年はこんなに開花しているのだろう?」という疑問と興味から、園芸研究家や園芸店店主、リュウゼツランを育てている人たちに話を聞いて、植物について素人のライターがリュウゼツランについてまとめてみた。これを読めば、あなたもリュウゼツランを育てられるかも?
リュウゼツランてどんな植物?
まずは小川さんに、リュウゼツランについて教えてもらおう。

おがわやすひろ●園芸研究家/1968年、千葉県生まれ。東京農業大学卒業。千葉県館山市の植物園に勤務したあと、フリーランスで熱帯果樹の栽培などに携わる。NHK趣味の園芸でも活躍。https://www.shuminoengei.jp/m-pc/a-page_p_detail/target_plant_code-81
分類:キジカクシ(以前はリュウゼツラン)科リュウゼツラン(アガベ)属
学名:Agave americana
和名:アオノリュウゼツラン
(リュウゼツランは斑入りの変種 A.americana var.marginataを指す)
原産:メキシコ、テキサス州
※リュウゼツラン属で300種類ぐらいあるというが、この記事ではリュウゼツラン属を差す場合は“アガベ”と記載し、和名と区別している

大きなアロエを連想させるこの植物が、アオノリュウゼツランだ。100年は大げさだとしても開花までに数十年を要し、急に空高く茎を伸ばして不思議な花を咲かせ、その後枯れて死んでしまうというその潔い一生に心を奪われた。そんな筆者に対し、「開花後に枯れてしまう植物は多くて、パイナップル科の植物はほとんどそうですし、バナナなんかも実がなってから死んじゃいます」と小川さんは言う。
アオノリュウゼツランが好む場所は、どんな場所だろうか?
小川さん「日当たりと排水のよい場所で、斜面が理想的です。南房総地域の海沿いは砂質土壌で排水がよくて気候も温暖なので、栽培には適しています」
アオノリュウゼツランが3本同時に開花! 当時新聞にも取りあげられた家
2本のアオノリュウゼツランが開花している家を発見。

家主のIさんに話を聞いてみると、「12年前に、庭のシンボルとしてリュウゼツランを植えました」とのこと。1.2メートルくらいのリュウゼツランを3株と、70センチサイズのものを5株植えたそうだ。
Iさん「最初は、大きな株を植えてから5年後くらいに同時に3本開花して、その後も3年おきくらいに次々と2、3本ずつ数回咲いて、この夏までに合計8本は咲いたと思います。最初に咲いたときは、何十年に一度しか咲かない珍しい花が、しかも同時に3本咲いたということで、房日新聞や読売新聞の取材を受けました」
松の木を連想させる一本の木のようなアオノリュウゼツランの花だが、どんな風に花を咲かせていったのだろうか?
Iさん「急に中心から真っすぐに太い緑色の芯のようなものが出てきたと思ったら、それがどんどんニョキニョキと真っすぐ空に向けて高く伸びていき、そこから木の枝のような形になって、その先端にぼこぼこと丸い突起物が出てきて、岡本太郎の太陽の塔のような雰囲気でした。そしてその突起物から細かい刷毛のような花がたくさん咲きました。でも、言われなければそれが“花”とはわからないほど地味な見た目と色で、花というより木の枝か、小さいほうきのようでした」

「開花後ほどなくして中心の幹や周りの葉が枯れていき、太い幹が倒れて倒木のような状態になり、車の通り道を塞いで大変だった」とIさんは言いますが、その後感動のできごとが。
Iさん「枯れた株の周りには小さなベビー株がポコポコといくつも発生していて、開花して朽ち果てていった大きな株は、ちゃんと子孫を残して、その長い一生を終えたことがわかりました。花は地味でしたが、この一連の現象は生命最後の力強いラストスパートを見せてもらった気がして、感動しました」

アオノリュウゼツランの花を見つけて声をかけた、七世さん宅。七世さんによると、2015年に20年以上と思われる大きな株を数個購入。すると、2019年から今年までの3年間毎年花を咲かせているのだとか。購入した本人は「買ったばかりなのに、もう枯れちゃうか〜」と残念に思ったと言う。
特に手入れはしていないが、アオノリュウゼツランの周りにできる子株をせっせと移植しているそうだ。
次のページでは、園芸研究家や園芸店店主が教えるリュウゼツランの育て方を紹介