『道の駅保田小学校』が大切にしているのは、廃校の建物や備品をうまく使いながら「学校らしさを貫くこと」。その結果、訪れる人にノスタルジーと安らぎを感じさせる、唯一無二の特別な道の駅となっている。
廃校をユニークな道の駅として再活用。
「道の駅にしようという案は、途中で付け足されたものでした」と語るのは、『道の駅保田小学校』の校長(駅長)を務める大塚克也さん。2015年12月のオープン以来、ディレクションを担当する人物だ。もともと流通関係の仕事に長く就いていた大塚さんは、その知識と経験をもとに茨城県の『道の駅いたこ』の立ち上げと運営にたずさわり、その後、保田小学校の活用に関わることになった。
この場所の強みは何といっても立地。東京・神奈川方面からであれば、アクアラインを経由し、富津館山道路・鋸南保田ICを降りてすぐの場所にあり、所要時間は1時間程度だ。もともと、その圧倒的な利点を活かし、都市部から多くの人に来てもらい、地元の人々との交流の場をつくりたいという構想があった。鋸南町の高齢化率は45パーセントと全国でも高く、人口は2040年には約4000人まで減るとされている。そんな中で交流を通して多くの人々に鋸南町のよさを知ってもらい、町の魅力づくりや経済の活性化につなげたい──そう考えたのだ。
学校ならではの魅力で、ファンが増えていった。
では、わざわざ「小学校」という名前や、建物の形や備品までそのまま残したのはなぜだろう。大塚さんは当時を振り返る。「アイデアを出したのは町長で、私もそれは悪くないと思いました」。
道の駅でありながら、保田「小学校」という名前はキャッチーでインパクトがある。また廃校活用問題は今や全国のどの自治体も抱えている。そこに新たな視点での解決策を提示できることや、建物や備品の持続可能性に光を当てるというSDGsの観点からもおもしろい試みにできそうという目論見だった。
イベントの打ち出し方や日々行うこと、お土産の企画なども学校であることを貫くようにした。イベントを学校行事を彷彿させる「開校記念祭」(周年記念イベント)などのネーミングにしたり、朝は地元の人、来場者問わず一緒にラジオ体操を行ったりする。さらにお土産はパッケージをランドセルの形にしたり、懐かしい学校給食のメニューを食べ比べられるなどの工夫をした。
利用者には、町全体のよさを知ってほしい。
そうした成果から、現在年間来場者は約100万人。東京、神奈川、埼玉などから来る人が多い。
「それまでの鋸南町自体の観光客が年間約88万人でした。約2倍の人を呼び込めたことになります」と大塚さんは話す。
教室を改装した宿に泊まれる『学びの宿』は、そういった人々に町のよさを知ってもらうことを目的に実施している。町の人々が考える鋸南町のおすすめの時間帯は夕暮れから夜。広々とした海に夕日が沈むのを眺め、その後澄んだ星空を見渡せるなどの体験は、都会ではなかなかできない。交通の便が発達したことは、一方で鋸南町に遊びに来る人を、町の一番素晴らしい時間帯を知らないまま帰る日帰り旅行客にしてしまった。そこで、教室に泊まるというスペシャルな体験を通して、その時間を味わってもらいたいと考えたそうだ。部屋は2~4人用の個室のほか、15人程度の団体で使える大部屋もあり、週末はほとんど満室だという。
『道の駅保田小学校』は、今年で6年目。外へ向けて情報発信を行い、外の人々に来てもらうという目標はある程度達成できたこともあり、今年からは地元の人にさらに集まってもらいやすい場所にすることを目標にしたフェイズに移行したという。具体的には朝のラジオ体操や、イベントへの参加を呼びかけたりする。とくに夏季には、このエリアに帰省してきた人々やその子どもたちに向けて夏祭りを開くなどして、地域の人々にいっそう愛される場にしたいと考えている。
さらに令和5年オープン予定で、近くの廃幼稚園を、子育て世代が仲間づくりもできる育児支援施設に活用する企画も進めている。「都市交流施設」の第2期が、これから始まろうとしている。