廃校活用の新しいかたち、『道の駅保田小学校』。

特集 | 道の駅入門 | 廃校活用の新しいかたち、『道の駅保田小学校』。

2021.11.25

『道の駅保田小学校』が大切にしているのは、廃校の建物や備品をうまく使いながら「学校らしさを貫くこと」。その結果、訪れる人にノスタルジーと安らぎを感じさせる、唯一無二の特別な道の駅となっている。

廃校をユニークな道の駅として再活用。

 千葉県安房郡鋸南町。観光エリアとして人気の房総半島南部の入り口ともいえる場所にある、『都市交流施設・道の駅保田小学校』。ここは全国に類を見ない、廃校を活用した道の駅だ。もともとの施設だった「保田小学校」で使われていた建物を本来のたたずまいをできるだけ残した状態でリノベーションし、店舗の内装や備品にはかつて学校で使われていた机や床板、体育用品などを使っている。体育館は仕切りを入れずに1棟丸ごと使い、農産物直売所と土産売り場として利用している。

RC構造の校舎をリノベーションし、活用。学校らしさを残す雰囲気のある道の駅になった。

 保田小学校は明治21年(1888年)開校。120年以上にわたって多くの子どもたちを送り出してきたが、少子化の影響で2014年に廃校に。しかしこの学校の卒業生でもある現・町長らの強い希望もあり、廃校が決定した段階で跡地利用が検討され始めた。

「道の駅にしようという案は、途中で付け足されたものでした」と語るのは、『道の駅保田小学校』の校長(駅長)を務める大塚克也さん。2015年12月のオープン以来、ディレクションを担当する人物だ。もともと流通関係の仕事に長く就いていた大塚さんは、その知識と経験をもとに茨城県の『道の駅いたこ』の立ち上げと運営にたずさわり、その後、保田小学校の活用に関わることになった。

 この場所の強みは何といっても立地。東京・神奈川方面からであれば、アクアラインを経由し、富津館山道路・鋸南保田ICを降りてすぐの場所にあり、所要時間は1時間程度だ。もともと、その圧倒的な利点を活かし、都市部から多くの人に来てもらい、地元の人々との交流の場をつくりたいという構想があった。鋸南町の高齢化率は45パーセントと全国でも高く、人口は2040年には約4000人まで減るとされている。そんな中で交流を通して多くの人々に鋸南町のよさを知ってもらい、町の魅力づくりや経済の活性化につなげたい──そう考えたのだ。

農産物の直売所と土産売り場を併設した『きょなん楽市』。体育館に耐震構造を施すなどして改装した。

学校ならではの魅力で、ファンが増えていった。

 現在も正式名称に「都市交流施設」と付くのは、その構想を引き継いでいるから。それが最終的に道の駅となったのは、地元の人たちの「農作物を売れる場所が欲しい」「働く場所を増やしたい」などの希望を取り入れ、国交省や農水省といった国のバックアップも受けられる最適解だったためだ。

 では、わざわざ「小学校」という名前や、建物の形や備品までそのまま残したのはなぜだろう。大塚さんは当時を振り返る。「アイデアを出したのは町長で、私もそれは悪くないと思いました」。

 道の駅でありながら、保田「小学校」という名前はキャッチーでインパクトがある。また廃校活用問題は今や全国のどの自治体も抱えている。そこに新たな視点での解決策を提示できることや、建物や備品の持続可能性に光を当てるというSDGsの観点からもおもしろい試みにできそうという目論見だった。

鋸南町の観光情報などを案内してくれる「まちのコンシェルジュ」。

 実際に施設をオープンさせてみると、さらに興味深いことがあった。写真を撮ったり、さらにそれをSNSで発信するときに利用者に楽しいと感じてもらうことは最初から目指していたが、彼らの感動がそれ以上に見えたことだ。大塚さんはあることに気づく。考えてみれば学校で使う机などの備品の規格は全国で統一されているし、一度決まると長い間変わらない。校舎の配置や内装も、どこも似ているだろう。幅広い層が共通して「懐かしみ」「語り合える」モノやコトがここには揃っているのだ。学校を残すことにとことん特化した結果が、想定以上になって出たのだった。

 イベントの打ち出し方や日々行うこと、お土産の企画なども学校であることを貫くようにした。イベントを学校行事を彷彿させる「開校記念祭」(周年記念イベント)などのネーミングにしたり、朝は地元の人、来場者問わず一緒にラジオ体操を行ったりする。さらにお土産はパッケージをランドセルの形にしたり、懐かしい学校給食のメニューを食べ比べられるなどの工夫をした。

飲食店のひとつ『里山食堂』のメニュー「保田小給食」(1100円)。

利用者には、町全体のよさを知ってほしい。

 その一方で、鋸南町は花の生産が盛んであることを自然にアピールできる空間づくりにも力を入れた。校舎と体育館の間には、四季折々の花が咲く「里の原っぱ」がある。管理には骨が折れるが、子どもたちが遊び回れる場所づくりは学校に特化するというコンセプトとも合致したので、苦労を承知でつくった。この、のんびり滞在できる原っぱをあえてつくったことで、ほかの道の駅と比べると利用者の滞留時間が長くなった。それは売り上げとなって返ってきた。「意味をもってやっていれば無駄なことはない」、大塚さんはそう実感した。

 そうした成果から、現在年間来場者は約100万人。東京、神奈川、埼玉などから来る人が多い。
「それまでの鋸南町自体の観光客が年間約88万人でした。約2倍の人を呼び込めたことになります」と大塚さんは話す。

 教室を改装した宿に泊まれる『学びの宿』は、そういった人々に町のよさを知ってもらうことを目的に実施している。町の人々が考える鋸南町のおすすめの時間帯は夕暮れから夜。広々とした海に夕日が沈むのを眺め、その後澄んだ星空を見渡せるなどの体験は、都会ではなかなかできない。交通の便が発達したことは、一方で鋸南町に遊びに来る人を、町の一番素晴らしい時間帯を知らないまま帰る日帰り旅行客にしてしまった。そこで、教室に泊まるというスペシャルな体験を通して、その時間を味わってもらいたいと考えたそうだ。部屋は2~4人用の個室のほか、15人程度の団体で使える大部屋もあり、週末はほとんど満室だという。

学校に泊まるという夢の体験ができる『学びの宿』。災害時には住人の受け入れもできるようになっている。

 そのほかにも、「あえて、町の名産品である海産物は販売しない」などの試みも。海産物が欲しいという利用者には海のそばにある漁協の直売所を紹介し、町の中まで足を延ばしてもらっている。

 『道の駅保田小学校』は、今年で6年目。外へ向けて情報発信を行い、外の人々に来てもらうという目標はある程度達成できたこともあり、今年からは地元の人にさらに集まってもらいやすい場所にすることを目標にしたフェイズに移行したという。具体的には朝のラジオ体操や、イベントへの参加を呼びかけたりする。とくに夏季には、このエリアに帰省してきた人々やその子どもたちに向けて夏祭りを開くなどして、地域の人々にいっそう愛される場にしたいと考えている。

 さらに令和5年オープン予定で、近くの廃幼稚園を、子育て世代が仲間づくりもできる育児支援施設に活用する企画も進めている。「都市交流施設」の第2期が、これから始まろうとしている。

季節の花が咲く「里の原っぱ」。毎日草刈りなどの手入れを欠かさない。

『道の駅保田小学校』
千葉県安房郡鋸南町保田724
https://hotasho.jp

photographs by Masaya Tanaka text by Sumika Hayakawa

記事は雑誌ソトコト2021年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。