千葉県富津市にある「ちんたら村」は、元保育士の山本和志(やまもとかずし)さんが始めた村だ。「村民システム」を取り入れ、持続可能な村づくりを村民とともに行っているという。どんな場所で、どんな人たちが、どんなことをやっているのか。千葉県在住のライターが実際にちんたら村に足を踏み入れ、村長である山本さんや村で出会った人たちに話を聞いてみた。
写真提供:ちんたら村
目次
ちんたら村では、大人も子どももやりたいことができる
南房総から北上しながら、ちんたら村を目指して山間のくねくね道を車で走る。視界が開けるとダムがあり、船釣りをする人の姿が。ぽつりぽつりと建物や田んぼが視界に入ってくるが、基本は山の中の緑に覆われた景色だ。川遊びできそうな幅広の川を渡り、更に山の奥地へと細い道を行く。牧場の看板を横目に見ながら進んだ先に、ちんたら村はあった。
電車の最寄り駅は、JR内房線「上総湊(かずさみなと)駅」。最寄りといっても、そこから車で20分ほどかかる。それでも、海沿いにある上総湊駅からこの山の中へ20分で行けるのなら、近い方ではないだろうか。
千葉県富津市ちんたら村
車から降りて、人の声がする山の方へと細い坂道を登っていくと、手作りのすべり台やウロコのような壁の小屋が建つ敷地が広がっていた。土壁のオープンキッチンにある釜戸で料理をする人、ピザ窯作りに励む人、ケンカをして泣いている子、笑顔で遊んでいる子。大人も子どももそれぞれがそれぞれのやりたいことをやっているような空間だ。
ちんたら村で遊ぶ子どもたち
ニワトリ小屋、井戸、池、畑、ブランコ、サウナ、全てみんなで造ったものだという。室内には囲炉裏と薪ストーブ、コンポストトイレもある。
ピザ窯作りワークショップに潜入
ちんたら村を利用している父兄たちとの会話で、「ピザ窯があったらいいね」「ここにピザ窯を作りたいね」という声が挙がった。その声を拾い、「みんなで作ろう!」と立ち上がった山本村長。とんとん拍子に話は進み、ピザ窯作りのワークショップ2日目を迎えていた。
前日からここにきて作業を行い、ちんたら村での夜を楽しんだ参加者たち。誘い合って山へ薪拾いに向かう子どもや、猫にベッドを作ってあげる子どもの姿も。土をこねる人、土とワラを混ぜる人、ただ遊ぶ子どももいれば、一緒になって作業を楽しんでいる子どももいる。ワラを黙々とハサミで切っていたのんちゃんに、ここでどんな作業をやったのか聞いてみた。
のんちゃん「ワラ切って、土踏んで、団子にして、窯に乗せた。全部楽しい!!」
今までにやった作業を一つ一つ思い出しながら言葉にするうちに、表情は真剣な眼差しから満面の笑みへ変わっていた。
次のページではちんたら村に関わる人や、見学希望について紹介する
当たり前のことを当たり前に経験し、共有できる場所
ちんたら村には水道が通っていない。食器を洗う水は、雨を利用した雨水タンク。飲み水は汲んできた湧水、洗濯は井戸水だ。ここで過ごすなかで、ふだん蛇口をひねったときに出て来る水がどこから来ているものなのか、子どもたちは体験しながら学んでいく。
ちんたら村の村長
山本村長「ここの夜は真っ暗で、多くの生き物に囲まれている。土、植物、動物、虫。人間はその一部。都会暮らしの慣れから離れて、本来の当たり前を感じられる場所だと親御さんから言われます」
長年空き家だった場所をDIYで改修している山本村長だが、DIYはそんなに好きじゃないと言う。だが、子どもたちが遊ぶ環境を造るのは好きらしい。
山本村長「土木的な感じで、山を造ってそれで一緒に遊ぶのが楽しいですね。ぼくは子どもたちと本気になって遊ぶのが好きです。現代の子どもたちって昔ながらの外遊びを知らないことが多かったりするので、自分が造った環境と自分がやろうって言った遊びにはまってくれて、そのあとぼくがいなくてもそれでたくさん遊んでくれている姿を見ると、すごいうれしくなりますね」
ちんたら村で子どもたちと一緒に作業
人にやらされるのではなく、周りがやっている様子を見て楽しそうと思ったことを、自分で取り入れられる環境がここにはあるのだ。「完成しなくても、一緒に作る場所や時間を共有できることの方が好き」と村長は言う。
ここに通う人に、ちんたら村の魅力を聞いてみた
後日開かれたピザパーティーに、ちんたら村の村民たちが集まった。南房総エリアで活動する若者、子連れでちんたら村に通う家族やちんたら村とつながりのある人たちが入れ替わり立ち代わりやってくる。
ウコンやビーツでカラフルになったピザ生地は、それだけでもおいしそうだ。それぞれ好きな具をたっぷりと乗せて、ピザ窯へと運び、次々に焼きあがるピザをみんなで平らげる。
納豆が大好きで、納豆入りピザを作ったたきちゃんの母である岡本操(おかもとみさお)さんは、柚コショウならぬ“夏みかんコショウ”作りワークショップに参加したのが、初ちんたら村だったという。
岡本さん「外で料理をすることがないから新鮮でした! みなさんはじめましてだったけど、みんなで外でランチして。子どもは井戸で水や泥んこ遊びをしていました」
村長と同じく保育士の木山由香子(きやまゆかこ)さんは、1年半ほどちんたら村に滞在しながらここでの仕事を手伝ってきたメンバーだ。そんな彼女に、この場をどんな人に勧めたいかを聞いてみる。
木山さん「これから田舎でこういう暮らしをしたいと思っている人に、まず来てほしい。村長の考えや想い、視点が独特でおもしろくて、じゃぁ自分は?って考えるきっかけになる。子どもとの時間を自然のなかで共有したい人。子どもと一緒に何かをやりたい人。サービスを受ける場ではないので、ともに創っていきたいという想いを持っている人に来てほしいです」
木山さんから誘われて、夏祭りを手伝いに来たのが初ちんたら村の中野香織(なかのかおる)さん。今回のピザ窯作りの講師も務めた彼女に、ちんたら村の魅力を聞いてみた。
中野さん「ゆるくてみんながやりたいことができる場所。ふだん子どもと関わる機会が少ないので、一緒にいろいろ作るのが楽しかった。子どもたちが自分で考えて答えを出したのには感動。自然とはほかの場所でも触れられるけど、自然のなかで子どもが目を輝かせているのを見られるのはここならでは」
ちんたら村を見学してみたい人、村民になりたい人は……
どんな場所なのか、実際に訪れてみたいと思った人は、見学会に参加してみよう。一緒に羽釜でご飯を炊いて、お味噌汁とのランチを済ませたあとは、やりたいことに合わせてフィールドワークを行うプログラムだ。ここで遊べる子ども適齢期は、5歳から小学6年生くらいまで。もちろん、それ以外の年齢の子どもも一緒に遊べるので、村長に相談してみるといいだろう。
ちんたら村の子どもたち
定期的に通いたい、一緒にこの場を造っていきたい、この場を使ってやりたいことがあるという人は、村民になるとちんたら村に関わりながら利用することができる。詳細はちんたら村のwebサイトをチェックしてほしい。
一年を通して田舎暮らしと行事を体験できるよう、田植えや稲刈り、土壁作り、ビオトープ造りなどのスケジュールもwebページに掲載されている。
ちんたら村:https://chintaramura.studio.site/
写真:ちんたら村、鍋田ゆかり
文:鍋田ゆかり
取材協力:ちんたら村