写真だからこそ、伝えられることがある。それぞれの写真家にとって、大切に撮り続けている日本のとある地域を、写真と文章で紹介していく連載です。
山口県宇部市で写真屋を営んでいる。ラボ業務が忙しくなり再開していないのだが、2005年から2018年まで写真教室を続けていた。その教室のメインテーマが「人生を記録しよう」というもので、家族や周りの大切な人、ハッとした景色など、心が動いた瞬間を撮ることが、これからあなたが写真を撮る意味になると思う、というようなことを最初の授業で話していた。
僕自身そういう心持ちで写真を撮っているので、僕の大切に撮り続けている地域は、「まち」というより「家族とその周り」ということになるだろうか。この連載のテーマからは少し外れるかもしれないが、宇部市はときに家族の背景として、ときに美しい光を浴びる被写体として、我が家のアルバムで十分にその役目を果たしてくれている。
ちなみに宇部市について少し触れておくと、かつて「世界一空気が汚い」と言われたり(その後、産・官・学・民一体となって環境美化に取り組み、劇的な改善を果たし「緑化推進運動功労者」として内閣総理大臣賞を受賞した)、1961年から2年に1度開催される「UBEビエンナーレ」という、世界でもっとも歴史のある野外彫刻コンクールの開催地だったりと、これはこれで撮りがいのあるまちで、実際僕も、彫刻のPRで幾度となく撮影している。大勢の人が常に行き交う刺激的な都会でも、有名な観光地でもないが、住んでいてストレスの少ない、愛すべきふつうのまちである。
昨年1月に2週間の入院を経験し、それまでの生き方を大きく変えた。大好きだったタバコも残業風景も、もう僕の写真には登場しない。代わりにアルバムには朝のまちや夜を一緒に過ごす家族がたびたび登場するようになった。人もまちも時間と共に少しずつ姿を変えていく。年頃の娘2人は、昔みたいにやすやすとは撮らせてくれないが、それでもかまわない。その時々を淡々と記録することが、僕が写真を撮る理由だと思っている。
写真はいつかのためのメディアであると思っているし、昨年末に父が他界した際にも、それを強く感じた。写真が持つ、瞬間をとらえる力と記録性に、人間の過去を愛おしく思う力が掛け合わされ、その写真たちはいつか宝物になる。それを楽しみに待っている。
やまもと・ようすけ●1979年生まれ、山口県出身。写真屋。カメラ歴約25年。山口県宇部市で3代続く『山本写真機店』の現・店主。
記事は雑誌ソトコト2023年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。