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三密の心配不要!癒し効果を科学的に検証した「森林セラピー」とスタッフの挑戦

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 どこに出かけるにしても感染防止対策に気を遣う今、三密を避ける休日の過ごし方として自然アクティビティが注目されている。そして今回は数ある自然アクティビティの中で、リラックス効果を科学的に検証した森林浴「森林セラピー」を紹介する。認定の森は2020年9月現在で全国65か所にも広がっているが、今回は数ある認定の森の中でも、全国から視察が入るという島根県飯南町を訪れた。現状に満足せず、常に新しいことに挑戦し続けようとしている彼らの情熱とあわせて、セラピーの様子も紹介したい。

目次

“町の財産”を活かした森林セラピー事業

 飯南町は島根県中南部に位置し、広島県との県境にある町。町面積のうち約90%を山林・原野が占めていることから、豊かな自然資源を林業以外でも活用したいと考え、新たに取り組んだのが森林セラピー(※)事業だという。

(※)森林セラピーは、科学的な証拠に裏付けされた森林浴のことです。
森を楽しみながらこころと身体の健康維持・増進、病気の予防を行うことを目指します。
(出典: NPO法人 森林セラピーソサエティHP 「森林セラピー®︎とは」より)

 森林セラピーを体験できる森は、セラピーに適した道と認定された「森林セラピーロード」と、森林セラピーロード(2本以上)や施設、環境が整っている「森林セラピー基地」の2種類があり、飯南町は後者として登録されている。認定当時は全国でも先駆け的な存在だったという、宿泊施設が隣接している基地でもある。

 しかし2020年は新型コロナウイルスの影響もあり、予約キャンセルが相次いだ。それでも最近になってようやく回復の兆しが見えはじめ、一度はキャンセルしたお客様が再び予約をされるなど少しずつ問い合わせも増えつつある。「いつか飯南町のセラピー基地に来てみたかった」と言われる関東や関西からのお客様も訪れる飯南町。実際に森林セラピーがどんなものなのか、体験させてもらった。

森が喜ぶ恵みの雨

飯南町森林セラピー

 しかし取材当日はあいにくの雨。通常、雷や警報が出ていなければ雨天決行なのだそう。晴天の方が森林セラピーに適しているのかと思いきや、飯南町観光協会の伊藤和栄さんは「むしろ雨の日の方がマイナスイオンも出ていて、空気も澄んでいるのでおすすめです。今日は森が喜んでますよ~!」と笑顔で言った。その言葉を聞いて、「森が喜んでいる」と感じられるほど普段から森と接し、共存している人ならではの表現だなと感じた。

飯南町観光協会 伊藤さん
飯南町観光協会の伊藤和栄(いとう かずひろ)さん。飯南町森林セラピーの事務局として一緒にセラピーに同行することも。

 ちなみにこれは後で聞いた話だが、晴天と比べて雨天の方が虫も少ないため、虫が苦手な人にとっても雨天のセラピーはおすすめなのだそう。

まずは今の体調をチェック 

 事前にメールで送られてきた服装・持参物リストによると、服装は長袖・長ズボンであればジーンズでも参加でき、また靴はトレッキングシューズまたはスニーカーであれば参加可能だった。持参物も着替えや飲み物、雨具や虫除けスプレーなど、本格的な登山と比べてかなり手軽に参加できる。
 そして参加時には検温・手指消毒を行い、一定の間隔を保った上で散策する。最近では声が通りやすいガイド用マスクも準備しているという。

森林セラピー 塚本さん
ガイドを担当してくださった、塚本要(つかもと かなめ)さん。本職がフットケアのお仕事をされているので、オプションのハンドマッサージは”プロ”である塚本さんが担当してくれるのだという。

 今回ガイドを担当してくださったのは、森林セラピスト(森林セラピーの指導・案内役)であり飯南町森林セラピーガイドの会・会長でもある塚本要さん。「会長」と聞いてはじめは恐縮していたが、ゆっくり且つ丁寧な話し方と散策中の”おもてなし”に、また会いに来たいと思わせてもらったガイドだった。(“おもてなし”については後ほど紹介する)

森林セラピー

 セラピーはまずヘルスチェックシートという紙に、現在の元気度・生活習慣などを記入し、準備運動を済ませた上でスタートする。
 飯南町には全部で4つのセラピーロードが用意されており、川の音が心地よい川沿いのコース、ゆるやかな起伏でリラックスしやすいコース、多種多様な草花が鑑賞できるコースなど多岐にわたる。通常約3時間のセラピーではほぼ全てのコースを回ることができるが、お客様の要望に合わせて短時間で回れるようアレンジすることも可能なのだそう。またコースはお客様の体調などにあわせてガイドがその場で決めるので、当日は無理なく自分のペースで楽しめるだろう。

五感(見る・聴く・嗅ぐ・触る・味わう)で自然を楽しむ

森林セラピー ウッドチップ
杉のウッドチップは晴れた日に歩くとパキパキと割れる音が聞こえたり、杉の香りが漂ってくるのだそう。

 森林セラピーでは通常の歩くスピードと比べ、一歩一歩を味わうかのような、かなりゆっくりとしたスピードで森を歩く。普段はこの2〜3倍ほどのスピードで歩くせっかちな私にとっては、森林セラピー独特とも言われるこの歩き方のおかげで、森林を見渡す余裕が生まれた。また飯南町のセラピーロードには杉のウッドチップが撒かれているのだが、これがさらに心地良さを増幅してくれた。雨で濡れたウッドチップが柔らかくなり、道がふかふかのベッドのように感じる初めての体験だった。

森林セラピー案内風景

 また散策中は、ガイドが所々で森に自生する植物を紹介しながら進んでいく。その場で山菜をかじってみたり、特徴的な香りがする葉を嗅いでみたりと、五感で自然を満喫した。もちろん何も話さず、ただボーッとしながらガイドの後ろを歩いている時間もある。そんな時は空を見上げてみたり、深呼吸をしてみたりと、思うままに歩いた。また静かな森の中はどこを歩いていても川のせせらぎ音が聞こえてきて、まさに自然のヒーリングミュージックだなと感じた。

森林セラピー

 しばらく歩くと休憩スポットで一休み。ここではガイドの塚本さんが用意してくれた手作り自然食をいただいた。温かいお茶(笹と桑の葉茶)、ウコギ(山菜)の白あえ、玄米の栗ご飯などを前日までにわざわざ自宅で用意し、振る舞ってくれたのだ。季節によってラインナップも変わるという塚本さん手作りの自然食は、まさに“おもてなし”。お腹だけでなく、心も満たされた休憩時間だった。

森林セラピー
写真は塚本さん手作りの「梅の羅漢果漬け」。羅漢果の甘みもあり、酸っぱすぎないカリカリ梅だ。

晴れた日であれば“あのアクティビティ”も体験できる

癒しの効果は最大で約1ヶ月持続

ハンモック写真

 今回は体験できなかったが、晴れた日であれば森にシートを引いて座観をしたり、ハンモックを楽しむこともできる。特に自然の中でハンモックに揺られる時間は、ほとんどの参加者が眠たくなるほどリラックスできる人気アクティビティなのだという。

 そして散策が終わると基地に戻り、ヘルスチェックシートで振り返りをする。癒し効果の感じ方は人それぞれだが、人によっては終わった後にフーッとため息をついたり、ボーッとした気分になったり、まどろむような感覚になるのだそう。通常癒し効果はセラピー終了後から約3週間程度持続するが、ヘルスチェックシートを見返したり、飯南町の森を思い出すことで、最長約1ヶ月間は効果が持続するという。

飯南町で目指すセラピーの形

森林セラピー

 森林セラピーは春と秋がベストシーズンで、季節や時間帯によって毎回新鮮なセラピー体験ができる点も特徴なのだという。飯南町には現在20名程度のガイドが所属しており、年齢は30~70代まで、居住地も島根県、広島県、山口県とさまざま。各ガイドの個性も表れる森林セラピーは、誰が担当してもお客様に喜んでもらえるよう努力を重ねているそうだ。

伊藤和栄さん(以下、伊藤) :飯南町ではお客様に寄り添うセラピーを目指しています。お客様の中には植物に興味を持つ方もいれば、静かに自然を楽しみたいという方も。また癒しを感じるポイントも人によって違うので、お客様を感じながらガイドをするようにみんなで意識しています。もちろん無言の時間も気を遣わず、あるがままで過ごしてほしいですね。

飯南町観光協会 伊藤さん
伊藤さんが担当する人気オプション「シャワークライミング」は今シーズンはすでに満席になるほど人気だったそう。

 さらに各ガイドのスキルアップのために、飯南町では勉強会等も積極的に行っているのだそう。

伊藤 :本来であれば今年はガイドのレベルアップ講習会も計画していましたが、新型コロナウイルスの影響で予定通りできませんでした。でも6月末には和歌山県のセラピー基地へ視察に行ったり、先日は「飯南町の秋の植物を知ろう」という勉強会も行いました。

 それぞれの知識や経験をシェアすることも意識的に行っており、飯南町では毎回セラピー後は各ガイドに実施報告書を提出してもらっているんです。危険な場所などがあればすぐに把握・対応できるようにしたり、参加者の声を共有したりと、誰か一人が行ったガイドだったとしても、それをみんなの力に還元できれば良いなと思っています。

変化や挑戦を楽しむ“チーム飯南町”

 その効果もあってか、飯南町ではリピーターさんが同じガイドを指名されることもあるのだという。

伊藤 :嬉しいことではありますが、でもそこにあぐらをかかず、常にお客様に新しいことが提供できるよう、さまざまなトライアンドエラーを繰り返しながら飽きられない基地にしたいと思っています。結局最後は良いことも悪いこともお客様に返っていくと思っているので、良いところはブラッシュアップして、反省点は改善する。その繰り返しですね。

森林セラピー 塚本さん

 ただガイドの塚本さんによると、地域の中には「コロナ禍に他地域から人を呼ぶのか」という声も少なからずあるのだそう。同じような声に悩む地域は全国にもあるかもしれないが、一方で今こういう状況だからこそ森林セラピーで癒されてほしいとも塚本さんは話していた。

 そして伊藤さんは運営側として、ベストシーズンを前に飯南町森林セラピー独自のコロナ対策を準備するなど、気を引き締めている。

伊藤 :たくさんの人に飯南町を訪れてほしいけど、同時に受け入れ側の整備もやっておかないと「こんなものか」と思われ、もう二度と来てもらえなくなると思うんです。リピーターになってもらえるかどうかは、当日の現場の力が非常に大きい。だからハード面・ソフト面の両方をしっかり育てていくのも大事な仕事だと思っているので、飯南町森林セラピーガイドの会とも協力して取り組んでいます。

森林セラピー

 そして取材最後に今後の展望を聞いてみると、「来年はイベントを企画したい」という答えが返ってきた。伊藤さんは「私の宿題でもあるんですがね(笑)」と言っていたが、ガイドの会・会長でもある塚本さんからも取材中どんどん新しいアイディアが溢れ出てきた。今日一番の笑顔でアイディアを出し合う姿からは、二人がワクワクしながら挑戦している様子が垣間見えた気がした。

 「飯南町は運営とガイド間の風通しの良さも大切にしている」という伊藤さんの言葉通り、ここは運営・ガイドそれぞれの代表が親子ほどの年齢差も関係なく“チーム飯南町”として活動している場所なのかもしれない。お客様に喜んでもらいたいという気持ちを胸に挑戦し続ける彼らが、今後どんなイベントを企画し、どんなセラピーを提供し続けるのか。飯南町森林セラピー基地のこれからに注目したい。

森林セラピー
飯南町観光協会の伊藤さん(左)とガイドの会・会長の塚本さん(右)

※森林セラピー基地・森林ロードにより一部内容や料金が異なる場合があります。
※「森林セラピー」「森林セラピスト」「セラピーロード」は特定非営利活動法人 森林セラピーソサエティの商標登録です。
 

▼取材協力
飯南町森林セラピーHP

NPO法人 森林セラピーソサエティHP

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