モノからコトへ、そしてこれからはタメの時代。

連載 | 田中佑典の現在、アジア微住中 | 14 モノからコトへ、そしてこれからはタメの時代。

大野市、微住者とつくる“ゆるさと”の住処づくり。


 モノ消費からコト消費へ。「これからはモノより体験が大事」というのは誰もが納得できる事実。しかしこの“コト体験”に対して疑問を感じている。数年前からこのコト体験を地域のまちづくり、インバウンドでも多く目にするようになった。確かにモノよりもコトにあふれた地方のまちがおもしろい。しかしモノとコトは結局のところ有形無形の違いだけで、こちらで用意したものを“消費”してもらうという点では変わりがない。


 例えば陶器づくり体験や農家体験。聞こえはいいが、その場で完了するひと時。つまり“体験”にすぎないのだ。大事なのは体験を超えて“自分ごと”にしてもらえるかではないか。


 最近僕が考えているのは、このコトに代わる「タメ」をつくることだ。


 今回紹介するのは、僕がアジア微住をしている一方で、福井県の各エリアでスタートしている微住者受け入れについて。


 福井市の東郷エリアの受け入れでは、台湾の微住者が福井の地元スーパーで食材を準備し、タピオカスイーツに代わる新スイーツを地域のみなさんに振る舞った。本来受け入れ側がもてなすのが「おもてなし」だが、これからはゲストもホストもおもてなしをし合う関係性、つまり誰かの「タメ」になっているかどうかが、その地域に対して微住者の情が生まれるかどうかのきっかけとなる。


地元のスーパーで食材を揃え、台湾料理の定番「三杯雞」を振る舞う。
地元のスーパーで食材を揃え、台湾料理の定番「三杯雞」を振る舞う。

 与えられるだけでは成り立たない、誰かや地域の「タメ」をつくり合える形が、これからのまちづくりやインバウンドにおいて愛あるヨソモノを味方にできる、ゆるい地域の一員になってもらえる方法だ。


商店街の老舗印鑑屋のおじちゃんとの出会いでまたヒントが生まれる。
商店街の老舗印鑑屋のおじちゃんとの出会いでまたヒントが生まれる。

 福井県大野市。ここは僕が2年前に出版した福井微住本『青花魚』の出版をきっかけに、私自身の“ゆるさと”になったまちの一つだ。“ゆるさと”とは、自分の生まれた故郷とは別に、自ら能動的に関係性を育んだ地域やまちを指す言葉。その大野で、2020年の春に向けて商店街の空き家を台湾からの微住者とともにリノベーションし、新たな宿泊施設をつくる。


 今回微住者として手を挙げたのは台湾・台中の編集者と建築デザイナーのチーム『ARTQPIE』。また、台中でデザインを学んだり建築家を志す大学生が大野に微住し、体験を超えた地域の“タメ”づくりに携わる。これまでのように内部同士でコトをつくり上げ、外に向けて発信してきた時代から、内部も外部も同じ“自分ごと”として共に地域資源を使い、お互いの“タメ”をつくり、消費し合える時代、地域づくりを目指したい。


リノベ予定の空き家のお隣『モモンガコーヒー』で微・店長になるAJ(右)。
リノベ予定の空き家のお隣『モモンガコーヒー』で微・店長になるAJ(右)。

「微住.com」の開設へ。


 「微住」という言葉をつくり数年が経った。これから日本の地域やまちにとって、この「微住」は従来の観光に加わりポスト・インバウンド時代の新たな旅のかたち、そして日本の枠を超えた関係づくりとして普及することを確信している。


 そして20年春、いよいよ微住者を受け入れるプラットフォームとしてサイト「微住.com」を開設する。


 まずはこの「微住」の言葉をつくるきっかけとなった福井の各エリアを皮切りに、今後は他県・各地域への横展開を予定している。サイトでは各エリアの特徴や地域の問題を活かした微住プランを提示し、微住希望者と地域の窓口となる。そして実際の微住の様子や情報を日本語・中国語のバイリンガルで発信する。このプラットフォームを通して、“一期三会”以上の関係になれる微住者と地域をつなげたい。自分の生まれ故郷でもある福井に限って言うと、これまでの「観光」という言葉にしがみつき、金沢や京都、大阪などの近隣の観光地の後ろをついていく時代を、もう終わらせたい。


 時代はオーバー・ツーリズム問題、観光“公害”と「脱・観光」への傾向が強くなる中、「微住」という新たなカルチャーの船出を切る。

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